番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


▽ 1-1


※ ヒロインちゃん以外の女の子sideを含むお話なので苦手な方はご注意ください。



「ねぇ、ねぇ!君さ、ここの公園よく通るよね!」
「××高だよねぇ?やっぱあそこ女子ってレベル高ぇな」
「俺らと遊ぼうよ〜♪ 」



これでカッコつけてるつもりなのかな?着崩した制服もダサいし、ニヤついた下卑た笑い方も気持ち悪いったらありゃしない。


てかずっとって何?ストーカーかよってツッコミたくなる。この道をよく通るのは、学校から家まで帰るのにこの公園を横切るのが1番早いから。


近道なのはいいけど、この公園は近くの男子校の不良がたまにこうして屯してることがあって。遠目に見られることはあってもこうして絡まれることはなかったから油断してた。


「退いて。そこ塞がれたら邪魔なんだけど」
「えぇ、そんな冷たいこと言うなって」
「っ、離して!気安く触んないでよ!」


進行方向を塞ぐように並んだ3人のうちの1人が私の腕を掴む。咄嗟に振り払おうとしたけど、男の力に勝てるはずもなくて。


時間帯のせいもあって辺りに人はいない。足でも踏んで走って逃げようか。そう思って片足を上げた時だった。



「おいコラ、男が寄って集って女囲むようなダサい真似してんじゃねェよ」


目の前の男よりも幾分か低い大人の男の人の声。振り返ると公園の入口にいたのは、1人の警察官の男の人で。警察官の割に口悪くない?って思ったけど、目の前の男達はその制服を見ただけで顔色を変える。


彼が近付いてくると、ぱっと私の腕を離す男達。「じ、冗談っすよ!」なんて言いながらそそくさと公園を後にする後ろ姿がダサいったらありゃしない。


その後ろ姿にべーっと舌を出すと、隣にやって来た彼が私を見る。


「お前もあぁいう時は無駄に相手のこと煽るな。分かったか?」
「なっ、私が悪いって言いたいの?!」
「悪いなんて言ってねェよ。ただ女なんだし力じゃ男に勝てねェだろ。何かあってからじゃ遅せェんだから」


私が悪いって言われたみたいでムカついたから噛み付いてみたけど、彼は呆れたように小さく笑って私の頭をぽすりと撫でた。


節ばった大きな男の人の手。心臓の音が早くなったのが自分でも分かった。


彼はそのまま腰を曲げ私に視線を合わせた。



「もう暗くなってきたし気をつけて帰れよ」


ふっと口の端に笑みを浮かべた彼は、そのまま私を公園の入口まで見送ると近くにある交番の方へと消えていった。



1人ぽつんとオレンジ色の街灯の下で、彼が触れた頭がやけに熱を持っているような気がして。ばくばくとうるさい心臓。さっきの彼の顔が脳裏にこびり付いて離れてくれない。



あぁ、これは多分・・・、






「好きな人ができた?!」
「ちょっと、声大きい!!」
「誰?うちの学校?めっちゃ気になる!!」


翌日、友達に昨日のことを話すとふわふわと輪郭が朧気だった自分の気持ちがより明確なものになったような気がした。


友達と一緒にやって来たのは、あの公園の近くにある交番。ちらりと中を覗くと、昨日のあの人がいて心臓がまたうるさくなった。






パトロールを終え交番に戻ると、「あ!!」と大きな声が辺りに響く。


交番から顔を覗かせぶんぶんと大きく手を振るのは、この近くの女子校の制服を着た1人の高校生。



「陣平ちゃーん!パトロールお疲れさま!会いたかったよ〜!」
「はぁ、何でお前はここにいるンだよ。てか陣平ちゃんって呼ぶな」
「勉強教えてもらおうと思って♪ 萩原さんに聞いたら陣平ちゃんパトロール行ったから、戻るまで待ってていいよって」


安っぽいパイプ椅子に腰掛けながら、隣で書類を整理していた萩を睨むと「お疲れさん♪ 」なんていつも通りの笑顔が返ってくる。


そんな俺と萩のやり取りなんて少しも気にすることなく、俺の向かい合うように座った……は、鞄から参考書を取り出す。


「げ、しかも英語かよ」
「陣平ちゃんもしかして英語苦手?」
「苦手じゃねェよ。文系科目は総じて嫌いなだけ」


懐かしい文言が並ぶ参考書をペラペラと捲りながらそう言うと、……はケラケラと楽しげに笑う。


こうしてこいつに勉強を教えるようになったのは、一ヶ月ほど前のこと。あの日、公園で男に絡まれてたのを助けてからここによく来るようになった。


萩の真似をして俺のことを陣平ちゃんと呼び、いつも会いたかったとか、好きだとか、喧しい奴。まるで飼い主に懐く犬みたいだ。


邪険にするわけにもいかねェし。それに何となく、こいつのくるくる変わる表情が昔のなまえとどうにも重なる。


だから結局こうして今日も勉強を教えてやる羽目になるわけで。まぁあの時は俺があいつに勉強教えてもらってた側だったけど。



「先、飯食わして。昼飯食い損ねたから腹減ってンだよ」


そう言うと奥の部屋の冷蔵庫に入れていた弁当箱を机に持ってきて蓋を開ける。そこには俺が昨日食いたいって言った生姜焼きがメインで入ってて。隣の卵焼きが少しだけ焦げてたのがあいつらしいな思った。


きっと自分でも気付かないうちにふっと表情が緩んでいたんだと思う。


「生姜焼きじゃん、美味そ♪ 」
「えぇ、これ陣平ちゃんが作ったの?」
「ははっ、まさか!朝弱い陣平ちゃんが弁当なんて作れるわけねぇよなぁ」
「ってことはもしかして彼女?!」


ギャーギャーとうるさい萩達を無視して弁当を食べながら、なまえに礼のメッセージを送る。



「ねぇ、やっぱり彼女いるの?教えてくれてもいいじゃん!」
「個人情報だから黙秘」
「何でよ〜!好きな人に彼女いるかどうかって気になるじゃん!ねぇってば!」
「勉強に関係ねェだろ。ほら、分かんねェとこどこ?さっさとやるぞ」


いないって嘘はつきなくないし、いるって言えば今度はどこの誰だって騒ぎ出すから。それに今は一応仕事中なわけで。適当に躱して弁当箱を片付け、参考書に手を伸ばす。



まだ不満そうな……だったけど、これ以上あれこれ詮索してくることはなかった。






水瀬に頼まれてあいつの取引先に書類を持って行った帰り道。ったく、こんなの受付の仕事じゃないし!って思いつつも、まぁ一応あいつは先輩だもんなぁ。なんて思いながら、たまたま通りかかったのは陣平のいる交番の近く。


私の勤め先とここの交番はそう遠くない距離だから。本当は休憩時間は会いにきたいし、理由なんてなくても覗きに来たい。だって陣平の制服姿、めちゃくちゃカッコいいもん。


でも仕事の邪魔はしちゃいけないなって思うし、私だってしたくないから。


私だって少しだけ大人になって我慢ってやつを覚えたんだ。


でも今日はたまたまだし・・・、わざとじゃないから少しだけならいいよね?



ちらりと交番の中を覗くとそこにはパイプ椅子に腰掛ける陣平と、その向かいに座る女子高生の姿。陣平の手元には参考書っぽい本があって、どうやらあの子に勉強を教えてるみたいだ。


シャーペンをくるくると回しながら、参考書を指差す陣平の横顔がいつもより穏やかで優しくて。胸の奥がちりちりと焦げ付くような気がした。


「・・・・・・女子高生に勉強教えるのも仕事なわけ?」
「まぁ一応?困ってるって言われたら助けるのが俺らの仕事だし♪ 」
「っ、!!」


ぽつりと呟いた独り言にまさかの返事があって、勢いよく顔を上げるとそこにいたのはいつの間にか交番から出てきてた萩原で。


慌ててその腕を引っ張って自販機の陰に引き摺り込む。幸い、陣平には気付かれてないみたいだ。



「あの子誰なの?」
「この前陣平ちゃんが、男に絡まれてるの助けてからよく遊びに来る子」
「・・・・・・、」
「んな怖い顔すんなって。相手はまだ子供だし」
「子供でも関係ないもん。あんなあからさまに陣平のこと好きって顔に書いてる女が近くにいるなんて聞いてない」


多分、昔の私ならすぐに2人の間に割って入ってたと思う。陣平に近付くな!って怒鳴ってたと思うし、今でもそうしたい気持ちは山々だ。


でもやっぱり私は大人になってしまったから。したいこと≠ニやっていいこと≠フ区別はつけなきゃいけない。



ふつふつと込み上げてくる感情をどうにか押さえつけていると、隣にいた萩原はくすりと小さく笑って私の頭に手を置いた。



「大人になったな、お前も♪ 」
「うっさい、その顔ムカつく!」
「ははっ、すぐ蹴ろうとすんなって。あ!そういや今日の弁当、陣平ちゃん美味そうに食ってたぞ」



ホント萩原ってムカつく。

私の蹴りをするりと避けると、そんなことを言ってくるんだから。


伊達に長い付き合いじゃない。私が喜ぶポイントを分かってるこいつがホントにムカつく。





「当たり前じゃん!今朝めっちゃ早起きして頑張って作ったもん。それに最近の私には心強い味方がいるんだから♪ 」


ドヤ顔で携帯の画面を俺に見せてきたなまえ。画面には動画サイトのページが映っていて、こいつが保存してるのは料理系の動画ばかり。


携帯を持つ指には絆創膏が巻かれていて、まだ料理ベタを完全克服したわけではなさそうだ。綺麗にネイルの施された指先には似合わないその絆創膏はこいつの努力の証。


なまえだって働いてるわけだし、ゆっくり寝たい日もあるだろう。それでもしょっちゅうあぁして陣平ちゃんに弁当を作ってあげてるのは、こいつのなりの愛情表現と仕事への理解と応援だから。



「ホント、成長したよなぁ」
「・・・・・・何かその上から目線ムカつく」


ジト目で睨んでくるその表情はガキの頃から変わらないのに。きっとぶつかりながらでも2人が今もこうして一緒にいるのは、日々お互いに成長してるからだよなって1番近くで見てきたから思うんだ。


結局、なまえはぶつぶつ文句を言いながらも交番に立ち寄ることはせずそのまま会社へと戻って行った。

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