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※ 短編 言葉にしないだけ に少しだけ出てきた高校時代の2人のお話です。
せっかくの夏休みだっていうのに、課外授業のせいで学校に来なきゃいけないのは普通なら嫌だなって思うんだと思う。
それでも私にとってこの課外授業は、夏休み中に松田に会える貴重な機会。連絡先こそ知ってるけど、無駄に連絡したら怒られるのは目に見えてるし「会いたい!」なんて言っても多分無視されると思う。
だからといって1ヶ月以上も松田に会えないなんて死んじゃうから、この課外授業には感謝の気持ちしかない。
帰り道、いつも通り松田のあとを追いかける通い慣れた通学路。隣におまけで萩原がいるのは気に入らないけど、まぁこれももう慣れたもんだ。
赤信号で立ち止まった時に、たまたま目に入ったのはコンビニの前に貼られていた夏祭りのポスター。隣にいた萩原が「そういや来週祭りだったな」って思い出したように呟いた。
「あ!そうだ!ねぇ、松田!来週のお祭り一緒に行こうよ!」
「なんでお前と行かなきゃいけねェんだよ」
「いいじゃん!屋台で好きな物奢ってあげるよ!」
「お前の奢りとかあとが怖いから無理」
・・・・・・悩む素振りすらなく即答で無理、か。
最初から「いいよ」なんて返事が返ってくるとは思ってなかったけど、ここまで即答で断られるとさすがにヘコむ。
「てかクラスの奴らと行くから無理」
「・・・・・・どこに?」
「祭りだよ。今その話してただろ」
「はぁ?無理!!クラスの人と行くのは良くて私はダメって意味わかんない!」
「お前と行く理由がねェし。みょうじもクラスの奴と行けばいいだろ」
「ヤダ!!私は松田と行きたかったの!!」
ヤダヤダってごねる私と、呆れたみたいな顔してため息をつく松田。結局、話は平行線で気が付くといつも私達が分かれる曲がり角までやって来ていた。
この話は終わりだと言わんばかりに、「じゃーな」ってその角を曲がる松田の背中を見つめながら小さくため息をつく。
「っ、萩原!」
「ん〜?どした?」
くるりと振り返った萩原は、私が呼び止めることが分かっていたみたいな顔で態とらしく首を傾げた。
・・・・・・やっぱこいつムカつく。
「当日の松田の予定、どうにかして聞き出して!!」
「ははっ、そんなことだろうと思った」
「萩原なら2組に友達いるし聞き出せるでしょ?それに松田も萩原になら普通に喋ると思うし」
「いいけど聞き出してどうすんの?」
「向こうでばったり会っちゃった感じにする!クラスの奴らって女もいるかもでしょ?そんなの絶対無理!!」
私が行けないのに他の女が松田とお祭り楽しむとか無理すぎる。絶対それだけはどんな手を使っても阻止しなきゃ。
「オッケー、分かった。今度学食でなんか奢れよ♪ 」
「はいはい。1番安いやつね」
「よし、交渉成立だな」
ぽんっと私の頭に手を置いた萩原は、そのままひらひらと手を振りながら松田が曲がって行った角へと消えていった。
*
祭り当日。
じめじめと体にまとわりつくような暑さと、祭りの会場の神社にごった返す人。断る理由がなかったから何となく来てみたけど、もう既にちょっと来たこと後悔し始めたかも。
あれからみょうじは不貞腐れた顔で時たま睨んできたり、しょぼくれた顔を見せることはあっても、祭りがどうのってごちゃごちゃ言ってくることはなかった。
「とりあえず何か食おうぜ、腹減った」
「賛成〜!俺たこ焼き食べたい!」
「暑ぃからかき氷食いて〜」
結局集まったのは、同じクラスの奴らが4人。あれ食べたい、これしたい、と口々に話すクラスメイトの一方後ろを歩いていると「あ!」と聞き慣れた声がして足が止まる。
その声に気付いたのはクラスの奴らも同じで、足を止め振り返る。
「みょうじさんもお祭り来てたんだ!」
「なまえちゃんの私服見れるとか超ラッキー♪」
クラスメイトはみょうじの姿にわいわいと騒ぎ始める。
そんな声を無視してパタパタと駆け寄ってきたみょうじは、俺の前にやって来るとぱっと笑顔になる。
「たまたま近く来たからお祭り覗いて行こうかなって思って来たら、松田に似た人いるなと思って追いかけてきたの!」
・・・・・・嘘つけ。こんな人混みでたまたま、なんてある訳ねェ。
どうせ萩にでも色々聞いてやって来たに違いない。こいつのやりそうなことなんて、考えなくても分かる。てか萩もペラペラ喋んなよ、マジで。
あんなにハッキリ断ったのにわざわざそこまでして来るか?普通。
「なまえちゃん1人なら俺らと祭り回らねぇ?松田もいるし・・・・・・「無理、さっさと帰れよ」
クラスメイトの浮かれた誘いを遮り、みょうじにそう言うと外野から「冷てぇなぁ」とか「そんな言い方すんなよ」とヤジが飛ぶ。
けどそんなのどうでもよくて。ホントに俺はみょうじのこういう自分本位な所が昔から苦手だし嫌いなんだと思う。
「ちょっとだけならいいじゃん!」
「無理。お前と祭り行くのは嫌だって断っただろ」
「・・・・・・っ、」
そんな顔するなら最初から来なきゃいいのに。
どんなに冷たく突き放しても、俺の何にそんなに拘っているのかこいつはずっと後ろを追いかけてくる。
今だって大きな瞳を見開いたかと思うと、八の字に眉を下げて泣きそうな顔を見せる。
「・・・・・・っ、松田のケチ!いいもん!さっさとそいつらと屋台でもなんでも行けばいいじゃん!」
でもみょうじがその泣きそうな顔を見せたのは一瞬のことで、怒鳴るようにそう言い残すと顔を背け踵を返す。
人混みに消えていく背中。まるで嵐が去ったみたいな気分だ。てか相変わらず口悪ぃよな、あいつ。
頭ではそう思っているのに、何故か一瞬見せた泣きそうな顔が脳裏に色濃く残っていて。・・・・・・あんな顔するなら、俺になんて近付かなけりゃいいのに。
みょうじを追い返したことにぐちぐち言ってたクラスメイトだったけど、しばらくすればそれも落ち着いて彼らの興味は屋台へと向く。
それは目当ての屋台を回って、ベンチでダラダラくっちゃべっていたときのことだった。
屋台に並んでいた人が途切れ、すらりと背の高い髪の長い女とその隣でかき氷を両手に持つ男の後ろ姿が目に留まる。
見間違えるはずがない。
楽しげに笑い合う男女。それは千速とその恋人の男だった。
「・・・・・・俺帰るわ」
「おい!松田?」
飲み干して空になったコーラの缶を近くにあったゴミ箱に投げ捨てると、呼び止めるクラスメイトの声を無視して立ち上がる。
別に今更、あんな光景見たからってどうってことない。千速があの時の男と別れてないことは知ってたし、同じ街に住んでるんだ。こうしてたまたま出会すことだってあるに決まってる。
それでも何となく、まだ心の奥底で焦げ付く感情が消えてくれなくて。とてもじゃないけど祭りを楽しむような気にはなれなかった。
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