番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-4


『もしもし?!松田?!!』

その夜、公衆電話で初めてなまえに電話をかけた。


ワンコールで電話に出たアイツは、俺が口を開く前に名前を呼んでくる。



「・・・・・・よう」
『っ、松田だ・・・、本物だ、・・・っ・・・』
「泣いてんの?お前」

チャリン、と小銭が電話機の中で落ちる音がした。

電話の向こうのなまえは、声を詰まらせながらずずっと色気もなく鼻をすする。


『寂しかったもん!!!!松田全然連絡くれないし!!!・・・・・・あ!!!もしかして浮気・・・?!!!』
「・・・・・・してねェよ、バカ」


泣いたかと思うと、今度はありもしない妄想で怒り始める。


変わらないその姿に、ふっと肩の力が抜けるような気がした。


「お前こそ、浮気してねェの?」
『はァ?!私が浮気なんかするわけないじゃん!!!毎日寝てる時以外はずっと松田のこと考えてるもん!!』
「それはただのやべェ奴だろ」
『やばくないもん!松田は私のこと考えてないの?』


コイツと話しているとガキの頃に戻ったような気分になる。

大袈裟な物言いも、なまえが言うとガチに聞こえてくる。


さすがになまえみたいに寝る時以外ずっと、とまではいかないけれど、思い出さないわけでもない。














「声聞いたら会いたくなるな」




それは思わずこぼれた本音だった。


『〜〜っ、!!・・・・・・松田、どっかで頭打った?』
「打ってねェよ。あ、でも零に殴られて歯はなくなった」
『はぁ?!!何それ!!零の奴・・・、絶対許さない・・・!』
「てかお前の言ってたヒロ≠チて諸伏のことだったんだな」

メラメラと零に怒りを向けていたなまえだったけど、諸伏の名前にその雰囲気が和らぐ。


チャリン、とまた小銭が落ちる。


『うん!同じ警察学校だったんだね!ヒロに聞いてびっくりした』
「そりゃそうだろ。警察学校なんて何個もあるもんじゃねェんだから」
『え、そうなの?知らなかった・・・』

賢いくせにやっぱりどこか抜けてるな、ホント。

自然と頬が緩むのが分かった。


最後の小銭が落ちる音がした。


「あ、切れるわ、そろそろ」
『っ、松田!』
「何?」
『私ちゃんと待ってるから。寂しいけど、・・・死ぬほど寂しいけどちゃんと待ってる!!だから・・・、』


電話越しだというのに、泣きそうな顔でそう叫ぶアイツの顔が目に浮かぶ。



『頑張ってね!!!ちゃんとご飯食べて、怪我とかしないで・・・、あと、それと・・・っ・・・』


しどろもどろになりながら、必死に話すなまえ。

ポケットに入れていた小銭はもうない。もうすぐ電話が切れる。


伝えたいことはたくさんあった。



「なまえ」
『っ、なに?』




ヒロ≠ノ会ってめちゃくちゃ妬いた。

すげぇムカついた。


諸伏がいい奴だからなおさら俺の中に焦りみたいな感情が生まれたんだ。


ずっと傍にいたから、くたくたに疲れた夜はお前のうるさい笑い声が恋しくなった。


「松田!」って呼びながら抱きついてくるなまえが堪らなく恋しくて。声を聞けばその気持ちが増すような気がして、ずっと電話をかけることが出来なかった。

















「好きだわ、お前のこと」
『っ、』



なまえが何かを言いかけたような気がしたけど、無情にも途切れた電話。受話器を元に戻しながら、小さくため息をつく。



初めての外出許可が下りるまでまであと少し。



「・・・・・・会いてェな」


人気のない廊下に小さくこぼれた独り言が溶けて消えた。




────────────────



「萩原!」
「どうしたの?諸伏ちゃん」

風呂上がり、まだ少し濡れた髪を拭きながら廊下を歩いていると後ろから諸伏ちゃんに呼び止められた。


「昼間の松田のことなんだけど、」
「陣平ちゃん?」

深刻そうな顔で口を開く諸伏ちゃん。髪を拭いていたタオルを首にかけながら、近くのベンチに腰掛ける。


「松田、あの時機嫌悪かっただろ?あの後考えてたんだけど、たしかに自分の恋人が他の男と連絡とってたら嫌だよなって思ってさ。オレが軽率な行動をしたせいで、あの2人喧嘩になったりしたら・・・」

隣に座った諸伏ちゃんは、はぁとため息をつく。


降谷ちゃんといい、諸伏ちゃんといい、ホント真面目だよな。思わずくすり、と笑みがこぼれた。


「大丈夫だよ。陣平ちゃんのアレは可愛いヤキモチだから」
「でも・・・・・・っ、」
「それに、ほら」

俺は廊下の少し向こうにある公衆電話を指さした。


そこには受話器を片手に壁にもたれて電話をしている陣平ちゃんの姿。


「あんな顔して笑ってるんだから大丈夫だよ」


Fin


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