番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


▽ 1-2


「わぁ、焼きそば美味しそ〜!ポテトも食べたいし、たこ焼きもいいなぁ」


たくさんの屋台が並ぶ祭りの会場。キョロキョロと屋台を見回しながらふらつくなまえ。そのまま離れていきそうだったから、思わず繋いだ手を軽く引くと、「松田は何食べたい?」って嬉しそうに見上げてくる。


見慣れた顔のはずなのに、その表情に不意に心臓が大きく跳ねたような気がして思わず目を逸らしてしまう。


「お前が食いたいもんでいい。どうせ全部食いきれねェだろ?残ったやつ俺が食うから好きなやつ選べよ」


そう言うとなまえは大きな目を見開き、ぱくぱくと何か言いたげに口を動かす。見上げる瞳は心做しか潤んでいるようにすら見えて・・・。


「松田が優しいよぉ〜、無理ぃ、私今日死んじゃうかも」
「・・・ンだよ、それ。あほなこと言ってねェでさっさと選べ」
「うぅ、だって・・・、」
「俺も腹減ってきた。ほら、焼きそば買うンだろ?」


ガチで泣きそうな顔をしてるなまえの手を引きながら、近くにあった焼きそばの屋台に並ぶ。順番が近付くと、なまえの興味は目の前の焼きそばに移り楽しそうにニコニコしている。


・・・・・・ホント現金なヤツ。てかそんなことで泣きそうになるほど感動するか?普通。


まぁでも昔の俺のこいつへの態度思い返せば、それも無理ねェのかもな。


だからこそ今は叶えられるもんは、全部叶えてやりたいって思うワケで。・・・・・・まぁ言ったら調子乗って「じゃあ今すぐ結婚しよ!」とか突拍子もないこと言い出しそうだから言わねェけど。





ふらふらと屋台を回っていると、花火が始まるまであと少し。最後に買ってもらった綿あめの袋を片手に、花火の観覧エリアの芝生に腰を下ろす。


懐かしいキャラクターが印刷された綿あめの袋を開けると、ふわりと甘い匂いが香る。真っ白なふわふわの綿あめを指でちぎり、そのまま口に運ぶと隣から感じた視線。


「なに?」
「いや、めちゃくちゃ甘そうだなと思って」
「久しぶりに食べたら美味しいよ。松田も食べる?」


途中で買った瓶ラムネを飲んでいた松田に、綿あめをちぎって差し出してみる。


甘いの苦手だし、「いらねェ」って言われるだろうなって思ってたけど、そんな予想に反して私の手首を掴むとそのままぱくりと綿あめを口にした彼。


近付いた距離と、一瞬だけ指に触れた松田の唇に一気に心臓の音が加速する。


「っ、」
「やっぱ甘いな。って、お前顔真っ赤じゃん」
「〜〜っ、だ、だって、松田が、」


私の顔を見て悪戯っぽく笑う松田。カッコよすぎて見惚れるってこういうことなんだろうな。めちゃくちゃ恥ずかしいのに視線が逸らせなくなる。


「俺が何?お前が食うかって聞いたんじゃん」
「聞いたけど・・・っ、このまま食べるなんて思ってなかったもん!!」
「へぇ、じゃあもう一口食わせてよ」
「〜〜っ、ヤダ!欲しいなら自分で食べて!!」


あぁ、もう・・・揶揄われてるって分かってるのに。くつくつと隣で笑いを噛み殺してる松田に綿あめの袋を押し付けながら、ふいっと顔を背ける。


けどすぐに腕を引かれ、こつんとお互いの肩がぶつかる。


「・・・・・・っ、何」
「花火、そろそろ始まるぞ。ほら、これ食って機嫌直せ」


振り向くと同時に口に放り込まれたのは、さっき押付けた綿あめ。指についていた綿あめを舐める松田の姿に、喉元まで出かかっていた抗議の声がするすると消えていく。


ホントにずるい奴。顔見たら文句のひとつも言えなくなるもん。


辺りに花火が始まるアナウンスが流れ始め、周りの人が携帯を取り出し空に向ける。


私も写真を撮ろうと携帯を取り出したけど、どのボタンを押しても画面は暗いまま。


「っ、ウソ!最悪!電池切れてるじゃん!」
「そりゃあんだけ写真撮ってりゃ切れるだろ」
「だって松田の浴衣姿残しておきたかったんだもん。松田の携帯で花火撮っといてよ!お願い!」


松田は写真撮りすぎたって言うけど、私からすれば今日1日を全てひとコマずつ写真にして残しておきたいくらいだもん。


モバイルバッテリー持ってくるべきだったな、って後悔をしていると一発の打ち上げ花火が夜空に咲く。


真っ暗な夜空に咲く大輪の花火。少し遅れてドン!と大きな音が辺りに響く。



「わぁ〜!めちゃくちゃ綺麗!!」

思わず口から溢れた感嘆の声。次々と夜空に咲く花火に目を奪われる。


花火を見るのは初めてじゃない。それでもこうして大好きな人の隣で見る花火はやっぱり特別で。この一瞬、一瞬、その全てを記憶に刻み込んで少しだって忘れたくないなって思った。





次々と夜空に打ち上げられる色とりどりの花火。


綺麗だなって思うし、スゲェなって思うのに。


そんな花火よりも、それを見て目をキラキラとさせるなまえの横顔から目が逸らせなくなる。


なまえが花火に集中していて、俺の視線の先に気付いていないことだけが救いだなって思った。


花火よりも好きな女の方に見惚れるなんて、ドラマとか少女漫画の世界だけだと思ってたから。まさか自分がそんなことを思う日がくるなんて、まして相手がこいつだとは思ってもみなかった。


「さっきの色んな色の小さい花火がぶわぁってなるやつ、めっちゃ綺麗だったね!」

花火を見上げていたなまえが不意に俺の方を振り返る。


子供みたいに目を輝かせる姿に、自然と目尻が下がった。少しの照れくささを誤魔化すように、「あぁ、そうだな」って返すとなまえは嬉しそうにふわりと笑いまた空を見上げる。


なまえがこの瞬間を写真に残しておきたいって言っていた気持ちが少しだけ分かった気がする。


気が付くと携帯の画面には、花火に夢中になるなまえの横顔が映っていて。花火の音にシャッター音がかき消される。


来年も、再来年も、その先も・・・、1番近い距離で、こうしてお前が嬉しそうに笑う顔を見ていたいって思ったんだ。



────────────────



数日後、課題を一緒にやるってことになって訪れた松田の部屋。休憩と称して、何度見返したか分からない夏祭りの写真を眺める。見る度にあの日のことを思い出して、自然と頬が緩む。


今回ばかりは萩原にも感謝しかなかったから、コンビニで煙草(1箱だけだけど)買って渡したら「サンキュ♪ いい仕事しただろ?」ってドヤ顔を返されてちょっと癪だったけどその時ばかりは言い返すことはしなかった。


あ、そういえば・・・!

「ねぇ、松田!この前のお祭りの写真送って欲しい!途中から松田の携帯で撮ってたやつ!」


自分の携帯を机に置くと、ベッドで寝転んでいた松田の方を振り返る。寝転びながら漫画を読んでいた松田は、「ん、」と自分の携帯を差し出してくる。視線は漫画に向いたまま、そんな何気ない仕草ひとつですら心臓がきゅんってなるからホントに困る。


データフォルダを開くと、画面にはあの日の花火の写真が並ぶ。黒に咲く色鮮やかな花火の写真にひとつひとつチェックマークを入れていると、途中でぴたりと手が止まる。



固まった私に気付いた松田が、片方の眉を上げながら私の方を見た。





さっきまでうるさかったなまえが突然黙り込んだから、何かと思ってあいつの方を見ると携帯を持ったまま真っ赤な顔をして固まっていた。


体を起こし、あいつの手元にあった携帯を覗き込む。


「・・・なっ、!!」

思わず声が溢れ、今度は俺が赤面する番だった。


携帯を奪おうとしたけど、なまえが後ろ手にそれを隠す方が早くて。そのまま反対の手で腕を掴まれる。



「・・・・・可愛いって思ってくれてた、?」
「っ、」
「浴衣着た私のこと、ちょこっとだけでも可愛いなって思ってくれた?」


可愛い≠ネんて褒め言葉、昔からこいつは言われ飽きるくらい浴びてきたと思う。俺以外の奴にそう言われた時は、嫌そうな顔でさも当たり前だと言わんばかりに顔を顰めるくせに。


赤らんだ頬と、少しだけ不安を孕んだ瞳で俺を見上げるなまえ。


・・・・・・そういや俺、あの日こいつの浴衣姿見て特に何も言わなかったっけ。


駅で俺を待っている姿を見た時から思っていたのに、それを口にしなかったのは俺がガキだから。素直に気持ちを言葉にするのが小っ恥ずかしくて。


でも多分、こいつの中では小さな不安材料としてそれがこびり付いていたんだろう。





「・・・・・・思ってる。浴衣も似合ってた、・・・可愛かったと思う」


たった一言、それだけで花が咲いたみたいにぱっと笑顔になって飛び付いてくる素直な奴。


その笑顔が見れるなら、たまにはこうして気持ちを言葉にするのもアリかなって思った。


Fin


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