番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


陣平の意識が戻って嬉しい。言葉じゃ表現できないくらい、安心したし抱きついて喜びたいって思った。


でも同じくらい、心の奥に蓋をして閉じ込めた感情がうるさいの。


今・・・・・・目を合わせたら、何か言ってしまったら・・・、きっとそれを押えきれない気がするから。



それなのに掴まれた腕が逃げることを許してくれない。



「・・・・・・心配かけて悪かっ・・・」
「っ、謝らないで!」


気が付くと、咄嗟に陣平の言葉を遮っていた。


驚いたように目を見開いた陣平は、眉を上げながら私の方を見る。



「・・・・・・謝んなくていい。陣平は何も悪いことしてないじゃん」
「お前に心配かけた。それが謝る理由だろ」



心配・・・?そんなの毎日してるよ。


命の危険と隣合わせの仕事だから。見送る度に心配になるし、事件だって聞く度に不安で押し潰されそうになる。でもそれが陣平の選んだ仕事だから。


否定なんてしたくないから・・・、ずっと気付かないフリをしてただけ。



「・・・・・・陣平は・・・、警察官として間違ったことはしてない。だったら私に謝る必要なんてないんだって!!!」


目の奥がツンとなって、ぐにゃりと視界が歪む。怒鳴るようにそう言った私の声が病室に響く。・・・・・・個室でよかった、なんて頭の隅で思いながらも頬を伝う涙は止まりそうにない。



慌てて両手でその涙を拭おうとするけれど、次から次へと溢れてくる涙のせいで袖が濡れていく。



「・・・・・・なまえ」
「っ、次謝ったら許さないから!!今さっさと怪我治して、仕事復帰すること考えろ!バカ!!」


嘘。そんなの嘘だよ。

本当はこのまま危ない現場から離れて欲しい。
手の届く距離で、ずっとずっといて欲しいのに。



キッと睨むように陣平を見上げると同時に、点滴の繋がれていない方の彼の手が私の方へと伸びた。


そのまま片手で抱き寄せられた私の体は、すっぽりと陣平の胸の中におさまる。


「・・・・・・っ、」
「暴れンな。普通にまだ背中痛ェからじっとしてろ」


慌てて離れようとしたけど、そう言われたら動けなくなってぴたりと体が固まる。


そんな私の頭をゆっくりと撫でる大きな手。その手が温かくて、陣平が生きてるってことを教えてくれてまた涙腺が刺激される。



どれくらいそうしていたんだろう。久しぶりに感じた彼の体温のおかげで、少しだけ冷静になった気がする。



「落ち着いた?」
「・・・・・・ん、」
「んじゃあ、このまま話聞け。離れんのも逃げんのも無理。返事は?」


私が頷いたのを確認すると、陣平はそのままの体勢で私の頭をぽんぽんとゆっくり撫でながら言葉を続けた。



「たしかに今回のこと、警察官としては間違ったことはしてねェと思う。あそこであの男殺されてたら今までの捜査が水の泡になってたし、もう1回同じ場面に遭遇しても俺は同じことすると思う」
「・・・・・・分かってる、っ・・・だから何も言ってな・・・っ、」
「だーー、だから最後まで話聞けって!!」


顔を背けようとした私の頬に触れた陣平の手。軽い力で頬を抓られ、思いっきり顔を顰めた陣平の顔がすぐ近くに迫る。


その瞳があまりにも真っ直ぐで真剣だから、思わず言葉に詰まってしまう。



「でもそれと、お前に心配かけたことを悪いと思うのはまた別の話だろ」
「・・・・・・・・・っ、」
「逆の立場なら多分生きた心地しねェと思う。誰かのせいでお前に何かあったら、多分俺はそいつのこと許せねェし理解なんてしたくない」
「それは・・・、」
「・・・・・・俺がこの仕事に就いてからずっとなまえが不安に思ってたことは知ってた」



静かに告げられた言葉に、ひゅっと喉が締め付けられるような感覚。1度だって口にしたことがなかったその感情を言い当てられて、何を言えばいいのか分からなくなる。


負担って思われたくなくて。ずっとそれだけは言っちゃダメだって思ってたから。





「・・・・・・気付いてたの、?」

いつも気が強くて、こんな風に弱ったところなんて滅多に見せないなまえの声が震えていた。



「そりゃな。昔から俺がいなきゃ生きていけないって何回も言われてきたし。お前の場合、大袈裟なんかじゃなくて、ガチでそう思ってンだろ?」
「当たり前じゃん、そんなの!陣平が私の全てだもん!」


そう、こいつは昔からこういつ奴だから。

マジで全てを俺中心に考えてるんだ。だから他人に対する配慮が欠けていて、・・・・・・それに何より自分自身よりも俺を優先する。


なまえがどれくらい俺のことを大切に思ってくれてるかなんて、他の誰に言われなくても俺が1番分かってるんだ。



「・・・・・・お前がその不安を口にしねェで耐えるなら、俺に出来るのは何があってもお前のところに生きて戻ってくることだと思ったから」
「っ、」
「爆処にいた頃からいつもそう思ってた。なまえが泣くと思ったら、そう簡単に死ぬわけにもいかねェし」


胸元を掴んでいたなまえの手にぎゅっと力が入る。もう1度ゆっくりと頭を撫でると、なまえは顔を埋めながら涙を堪えるように鼻を啜る。



「だから今回のことは謝らせてくれ。心配かけて・・・、不安にさせて悪かった」
「・・・・・・っ、」
「これから先もこの仕事続けてる限り、不安にさせるし心配もかけると思う。でも絶対ちゃんと帰ってくるから。・・・・・・だからお前は信じて待ってろ」


きっとお前がいなきゃここまで生きるってことに固執出来なかったと思う。


なまえが待ってくれてると思うから、死んでも帰らなきゃいけねェって思えるんだ。









「陣平のバカ!!!アホ!!!大バカ!!!そんなの言われなくても信じてるもん!!!不安にもなるし心配もするに決まってんじゃん!!でも陣平が選んだ道だから・・・っ、私はちゃんと信じて待ってるもん!!だから陣平が私のところに帰ってくるのは当たり前なの!!!」

整った顔を歪め、目を吊り上げ俺を睨みながら叫ぶようにそう言ったなまえ。・・・・・・やっといつものこいつらしい顔が見れたな。


振り上げた手で俺の胸を叩こうとしたから、手首を掴みそれを制すとそのままもう1度自分の方へと引き寄せる。


その存在をたしかめるみたいに強く抱き締めると、なまえはそのまま上目遣いで俺を見た。



「・・・・・・私のこと残して死んだりしたらあの世まで追いかけていってぶん殴ってやる」
「ふっ、じゃあやっぱ簡単には死ねないな」


気が強くて、我儘で、誰よりも俺を想ってくれているなまえだから。そんなお前だから俺は惚れたし、多分今じゃお前に負けないくらい俺もなまえのことが大切だから。


きっとこれから先・・・、何度泣かせることになってもこの温もりだけは手放せないって思うんだ。



Fin


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