▽ 1-3
一緒にいる時間が長くなるにつれ、零はもちろん諸伏が悪い奴じゃない・・・・・・、いや、いい奴なことは嫌というほど分かった。
何かと周りとぶつかることの多い零を上手く庇いながら、周りのことを誰よりも見ている奴。
物腰柔らかで、人当たりのいいその性格は、あの我儘女が懐くのも無理ねぇなと思った。
「彼氏が警察学校に行くって泣きながら電話がかかってきた時は驚いたけど、まさかそれが松田だとは思わなかったよ」
悪気も敵意も1ミリもないそんな言葉。
頭では分かっていても、腹の底で何かどす黒いものが蠢く感覚が付き纏う。
「松田があんな我儘な奴を選ぶとは驚きだったよ」
「コラ、零。そんな言い方しちゃダメだ」
「ははっ、なまえが我儘なのは昔からだから、な!陣平ちゃん」
「松田の恋人が諸伏と降谷の友人とは、世間は狭いものだな」
あれやこれやと盛り上がる4人の話に何となく加わる気になれなくて、昼飯の親子丼を黙々と口に運ぶ。
何か含みのある笑顔で俺をチラチラと見てくる萩がムカついて仕方ねェ。
「そうだ!なまえが松田から連絡なくて寂しいって言ってたよ?」
「・・・・・・はァ?」
「落ち着いたら電話する約束してたから昨日の夜電話したんだよ。松田のこと話したらびっくりしてたけど、寂しくて死にそうだから1分でもいいから電話したいって伝えてって言われてたんだ」
「寂しくて死ぬなんてあるわけないだろう」
ど真面目な零の返しに突っ込む余裕がなかった。
何が寂しいだよ、あのバカ。
人には浮気すんなって喚き散らかすくせに、自分は男と電話してんのかよ。
分かってるんだ。
諸伏はなまえを妹みたいにしか見ていない。なまえだって諸伏に友達以上の感情はないはず。ただアイツは心を許した奴には、とことん懐くだけ。
そうは思っても胸の奥を掴まれたみたいなこの感覚は消えてはくれない。
「んな顔するなら、たまには素直に電話してやれよ」
「・・・・・・うっせぇ」
隣に座っていた萩だけが、俺の心を見透かすみたいに眉を下げて小さく笑っていた。
prev /
next