番外編 ゼラニウム | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


▽ 1-3


遅れて現場にやって来たのは、捜査一課の佐藤刑事。そして・・・・・・、


「・・・・・・僕は何も知らないからな」
「まだ何も言ってねェだろ」
「はぁ・・・、とりあえずその顔を何とかしろよ」

隣にやって来た松田はそれはそれは不機嫌そうに顔を歪めていて。そんな顔で容疑者達に声を掛けたものだから、佐藤刑事に注意されこっちに逃げてきたらしい。


ただでさえガラが悪いっていうのに・・・。ちらりとなまえの方を見れば、松田のジャケットを羽織り飼い主に怒られた犬みたいにしょぼんと椅子に座っている。


松田は小さくため息をつくと、近くにいた高木刑事に事件の概要を確認しに向かった。・・・・・・ホント、分かりやすい奴。

萩原あたりに今回のことがバレたら、また揶揄われるんだろうなと、その光景が目に浮かんでふっと笑みが溢れた。





しばらくして、安室さんのおかげで無事に解決した事件。朝倉さんが搬送された病院から彼女の意識が戻ったと連絡があった。


現場には一件落着の安堵の雰囲気が流れる。


「・・・・・・えっと・・・、怒ってる・・・よね?」
「逆にこの状況で怒らねェと思うか?」
「・・・思いません。ゴメンナサイ・・・、」

そんな空気から少し離れたテーブルで、ちょこんと項垂れて座るバニーガール姿の女の人と彼女の前で片肘をつきながらとんとんと机を指で叩きイラつきを隠そうとしない松田刑事。


バニーガールのお姉さんが羽織っているのは、おそらく松田刑事のジャケット。親しげなその雰囲気が気になり、隣にいた安室さんの服の裾を引っ張った。


「ねぇ、あのお姉さんって松田刑事の知り合いなの?」
「あぁ、彼女は松田の幼馴染みで恋人だよ」
「やっぱりそうだったんだ。でもどうして松田刑事の恋人がここに・・・?」
「友人からの頼みを安請け合いしたらしい。・・・昔から頭はいいくせにバカな奴だから」

オレの目線に合わせるように屈んだ安室さんは、彼らしくない口調でそう言いながら松田刑事達に視線をやる。話を聞けばどうやら安室さん自身も、警察学校で松田刑事と知り合うより前に彼女とは顔見知りだったらしい。


口ではそう言いながらも、彼らを見る安室さんの横顔はいつもより穏やかに見えた。


「とりあえず俺は本庁戻んなきゃいけねェから、お前はアイツに送ってもらって先帰ってろ。終わったら家行くから」
「ひとりで帰れるよ、まだ電車あるし」
「・・・・・・あ゛?」
「うっ、ワカリマシタ」



松田刑事はそう言いながら、安室さんの方を親指で指さした。安室さんはまるでこうなることが分かっていたみたいに、やれやれと肩を竦め立ち上がるとおっちゃんの方に向かい先に帰る旨を伝えている。


なんていうか・・・、意外と過保護なんだな、松田刑事って。いつもの彼とは違う姿が新鮮で、2人のやり取りを眺めていると安室さんと入れ替わりでやって来た蘭が腰を屈め「ねぇ、コナン君」とひそひそと耳元で囁く。


「あの人ってやっぱり松田刑事の彼女なのかな?」
「そうみたいだよ。さっき安室さんに聞いたら幼馴染みで恋人だって」
「っ、やっぱり?!あんな顔してる松田刑事って初めて見るよね!」


女ってのはこういう話が好きだねぇ、ホント。1人で盛り上がりながらオレの腕を引く蘭を横目にそんなことを思った。





刑事さん達が出ていき、さすがに営業を続けれる状況ではなかったので今日の営業は終わりになった店内。

香織に連絡をして明日からのバイトは難しいと事情を説明すると、熱も下がったからもう大丈夫とのことらしい。香織の方はすんなりとそれで話が終わったけど、店長の方はなかなか面倒くさくて・・・。何度も「月に1回だけでもいいから!」と頼み込まれたけど、さすがにこれ以上陣平を怒らせたくもない。

しぶしぶ納得してれた店長にお礼を言い、1日分にしては多すぎるお給料を貰い外に出ると店の近くに停められた白い車。運転席にもたれながら携帯を触っていた零に近付き声を掛ける。


「・・・・・・遅い、」
「ごめんって。店長に引き止められて大変だったんだもん」
「まぁ彼も貴重な稼ぎ頭を失いたくなかったんだろうな」
「てことは・・・、やっぱり零も可愛いって思ったってこと?」
「お前の中身を知ってたら論外だけどな」

車に乗り込みながら、冗談めかして聞いてみると返ってきたのは呆れたような視線と盛大なため息。

待っててくれたのは助かるけど、やっぱりムカつく。


零は車のエンジンをかけると私が抱えていた紙袋を見て、「何だ?それ」と尋ねてきた。


「あ!これ?店で着てたバニーガールの衣装!可愛かったしダメ元で店長に記念で貰えないか聞いたらすんなりくれたんだぁ♪」
「・・・・・・はぁ、聞いた僕が馬鹿だった。そんなもの持って帰ってどうするんだよ」
「それ聞いちゃう?零の変態〜!」
「なっ、」

ぎゅっと紙袋を抱きしめながらニヤリと笑えば、こつん、と頭を小突かれた。





報告書をまとめ終え、なまえの家に帰るとなまえはリビングのソファの隅でちょこんとクッションを抱きしめ座っていた。


「・・・・・・えっと、おかえり・・・なさい?」
「ん、ただいま」

スーツのジャケットを脱ぎ、その隣に腰掛ける。テレビのついていない静かな部屋に響く時計の秒針の音。

沈黙に耐えきれなくなったのか、ソファの上で正座に座り直したなまえは勢いよく頭を下げた。


「黙っててホントにごめんなさい!香織にバイトの代わり頼まれて・・・、時給も良かったし・・・っ、つい・・・」

徐々に小さくなっていく声。こいつがこんな風に素直に謝んのは珍しい。まぁそれだけまずいことをしたって自覚はあるんだろう。


「何か金に困ってたワケ?」
「そういうわけじゃないけど・・・。記念日近いしちょっとでもいいプレゼント買えるかなと思って・・・、」

半分くらいは予想していた通りの理由に、小さくこぼれたため息。


「お前は・・・・・・、バカか!!あぁいう店を否定するわけじゃねェけど、自分の女があんな格好して働いてるの知って喜ぶ男がいるわけねェだろ!!」
「・・・・・・うぅ、ごめん・・・、」
「ツレの頼みなら仕方ねェのも分かるけど、そういう時は決める前にまず1回相談しろ」
「・・・相談したらいいよって言ってくれてた?」
「言うわけねェだろ、バカ」


あんな格好して男の隣でヘラヘラ笑うお前なんか認められるわけねェだろ。


クッションに半分顔を埋めながら、大きな瞳をうるうるとさせるなまえ。さすがにこいつも反省してるんだろう。


「・・・・・・次黙ってあんなとこで働いたら、俺も同じことするからな」
「っ、絶対無理!!ヤダ!!!」
「だったら二度とすんな。分かったか?」

こいつには多分これが1番効くはずだから。こくこくと何度も首を縦に振るなまえは、そのまま勢いよく抱きついてくる。

これ以上怒るのもあれだし、せっかく一緒に過ごせる時間を無駄にはしたくない。片手でそれを受け止め、くしゃりと長い髪に指を沈める。





「・・・・・・ねぇ、陣平」
「ンだよ、」






「私のバニーちゃん姿可愛かった?」





・・・・・・前言撤回だ。


こいつはマジで・・・・・・っ、






「お前、全く反省してねェだろ!!!」
「黙って働いたのは反省してるもん!でも可愛い可愛くないはまた別の話でしょ?」
「別じゃねェよ!!あの格好がまずアウトだって言ってンだ!!」
「なっ、バニーガール可愛いじゃん!零だって可愛いって言ってくれたもん!」
「はァ?!・・・っ、あの野郎・・・、俺はそんなコスプレなんて興味ねェんだよ!!」


・・・・・・こいつの面の良さが逆にムカついてきた。てか零の奴もなに言ってンだよ、マジで。

似合わなきゃ俺以外誰も見向きもしねェからまだマシなんだ。でもお前はそうじゃねェから尚更ムカつくんだよ!!!




「せっかく陣平の為にバニーちゃんの衣装貰ってきたのに・・・」


いつも通りの怒鳴り合いの中で、なまえがぽつりと呟いた。





陣平は本日何度目か分からないため息をつくと、勢いよく私の腕を引きそのままソファへと押し倒される。


ぐるりと反転した視界。目の前の陣平の表情が読めなくて、思わずうっと押し黙る。



「俺の為だって言うなら、他の男の前であんな格好してんじゃねェよ」
「〜〜っ、」
「マジでムカつく。男ってのは単純な生き物なんだよ。あんな肌見せてどう見られるか分かんねェの?」
「そ、それは・・・っ、」


言葉の続きは強引に重なった唇によって飲み込まれてしまう。角度を変えて何度も荒っぽく重なる唇。息苦しさから目尻に涙が浮かび、酸欠寸前のところで唇が離れ思い切り息を吸い込んだ。


そのまま私の首筋に唇を寄せた陣平は、思い切りそこに歯を突き立てる。


「・・・・・・いっ、」
「マジで勘弁して。自分の面の良さ分かってンなら目立つことも分かれよ。他の男がそういう目でお前のこと見てるだけで腹立って仕方ねェ」

歯形が残っているであろう首筋を舌でなぞられ、びくりと体が跳ねた。

苛立ちと嫉妬が入り交じった瞳に胸の奥がきゅっと締め付けられる。


「・・・・・・可愛いなって陣平も思ってくれた?」
「ンなのお前がどんな格好しててもいつも思ってんだよ、バカ」


本日何度目かのバカ、は蕩けるくらい甘ったるい響きを伴っていた。



────────────────


黒ウサギ亭での一件の後。ヒロとたまたま空き時間が被り近くの居酒屋に立ち寄ると、そこにいたのは仕事終わりだという松田と萩原。

流れで4人で飲んでいると、いい感じに酒が入り赤らんだ頬の松田が隣にやって来てぐいっと僕の腕を引いた。



「なぁ、零。ちょっと聞きてェことあんだけど」


反対隣にいたヒロと顔を見合わせ、小さく首を傾げる。対面にいる萩原は、何故かニヤついていて。


何かの事件か・・・?僕に聞くってことは公安絡み?

というか、こいつ・・・、目が据わってないか?


「お前ってコスプレ好きだったりする?」
「・・・・・・は?」

予想していなかった質問に、口をついたのは何とも気の抜けた声で。詳しく聞けば、この前のなまえのバニーガール姿を僕が褒めていたとあいつが言っていたと不貞腐れた様子の松田。


萩原は堪えきれないといった様子で、ぷっと勢いよく吹き出す。ヒロも何かを察したようにくつくつと肩を揺らしながら笑いを堪えていて。


「・・・・・・松田、とりあえず水でも飲んで落ち着け」
「あ゛?話逸らしてんじゃねェよ」
「はぁ・・・。天地がひっくり返っても、僕があいつをいいと思うことはない。見た目はともかく、中身が全く好みじゃない」
「てことは見た目だけならアリってことだよな?例えお前でもぜってェ無理、」


勘弁してくれ、この酔っ払いめ。


「ははっ、なまえが聞いたら喜ぶだろうね」
「ヒロ・・・、笑ってないでこの酔っ払いをどうにかしてくれ」


まぁでも・・・、たまにはこんな平和な時間もありかなと思わなくもないな。

Fin


prev / next

[ back to top ]