番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


警察学校に入校して数日が過ぎた。


朝から晩まで予定を詰め込まれる生活は、想像以上に過酷で何となくあの能天気なアイツの笑顔が恋しくなってきた気がするんだから俺も中々疲れているらしい。


「陣平ちゃん♪ 一緒に飯食おうぜ」

食堂で昼飯を食っていた俺の隣に腰掛ける萩。トレーを机に置くと、「いただきます」と手を合わせてスプーンを握る。


「んで、どうなのよ、ぶっちゃけ」
「何の話だ?」
「なまえだよ、なまえ。こんなに会わないの初めてだろ?寂しかったりしねぇの?」
「・・・・・・別に、静かに飯が食えるって幸せだなって思う」
「ははっ、なんだそれ。てかなまえがよく素直に陣平ちゃんのこと送り出してくれたよな」


楽しげに笑う萩を思わずジト目で睨む。アイツが前日になってまたごねたのは、お前のせいでもあるんだぞ。


「拗ねるし怒るし大変だったんだぞ、お前のせいで」
「俺?あぁ、可愛い女の子いるかな?ってやつ?」
「浮気すんなだの、目が合ったら浮気だの・・・」
「ぷはっ、何それウケる!なまえらしいなぁ」

水を飲んでいた萩が大袈裟にむせながらケラケラと笑うもんだから、なんとなくムカついて1発叩いたけど俺は悪くないはずだ。


そんなやり取りをしていると、女子生徒3人組が俺達の前に立った。


「ねぇ、萩原君!昼食一緒に食べていい?松田君も!」
「もちろん♪」

萩がそれを断るわけもなく、向かいの席に腰掛けるそいつら。ニコニコしながら萩に話しかけるのを横目で見ながら、残り少なくなっていたカレーを口の中にかき込む。


「萩、食い終わったから先行っとくぞ」

1人の女子生徒が俺の方を見て口を開こうとしたけれど、それより前に食い終わったトレーを持って立ち上がる。


「オッケー!また後でな」
「ん、」


返却口に向かう俺の後ろで、「ホント、素直じゃないなぁ、陣平ちゃんは」なんて楽しげな萩の声が聞こえたような気がしたけれど気付かないフリをした。


ふと返却口で前に立つ男に目が止まる。


この金髪、たしかオールAの優等生くんか。隣の奴は連れか?


何かと目立つその金髪は、同じ教場ということもあり目につく奴だった。


派手な見た目なくせにお固くて真面目な奴。警察官の理想を語る姿がなんとなくイケすかねェなとは思っていた。


「ヒロ、この後少し付き合ってくれないか?」
「いいよ。何か調べ物?」
「あぁ、さっきの授業で・・・・・・」


ヒロ

その名前に思わずぴくりと眉間に皺が寄る。


相変わらずなまえのオトモダチを続けているヒロという男。

どうやら金髪の隣の猫目の男も、そいつと同じ名前らしい。


よくある名前だし、別に珍しいことでもねぇか。


ただ何となくその響きは胸の奥をちりちりと焦がした。






人間というのは1度気になり始めると、それが気になって仕方なくなるもの。


「ヒロ、僕のシャンプー知らないか?」
「ヒロ、さっきの訓練で・・・」
「ヒロ、晩御飯が終わったら・・・」



あぁ!!!!うるせェ!!!!!!!

手に持っていたシャーペンがぴきり、と音を立てる。


このパツキン野郎、口を開けばヒロ、ヒロ、ってまじでうるせェ。


ただでさえ、警察大好きっ子でムカつく奴だというのに繰り返されるその名前のせいで余計に腹が立つ。


積もり積もったイライラはついに爆発した。



ひらひらと舞う桜の下。バキ!という鈍い音が響く。


「驚いたな・・・、僕の拳を食らって立っている奴がいるとは・・・」
「へっ、そいつはこっちのセリフだぜ。パツキン野郎!!」


お互いの拳がそれぞれの頬にめり込む。


「僕の何が気に食わないか知らないが・・・。僕は絶対に警察官にならなきゃいけないんだ。邪魔しないでくれ!」
「そう、それよ!ボクちゃん警察大好きっていう・・・その根性が気に食わねぇんだよ」
「何をバカな。君も警察官を目指してこの学校に・・・・・・入っただろうに・・・!!!」


半分本音、残りの半分は・・・・・・。

再び大きく振りかぶった拳がお互いに当たることはなかった。




「っ、何すんだよ!萩!!!!」
「ヒロ!!離してくれ!!!」

背後から俺の腕を掴む萩。同じくパツキン野郎は、猫目の男に肩を捕まれていた。


「陣平ちゃん〜、さすがに殴り合いはマズイっしょ」
「零もだよ。こんなとこ教官に見られたら大目玉だ」


手首を掴む萩の腕を振り払い、口に溜まっていた血をぺっと吐き出す。

そんな俺の頭を片手で掴むと、萩はその猫目の男に向けて口を開く。


「うちの陣平ちゃんがすいません」
「いや、こちらこそ。ほら、零も謝らなきゃ」

お前らは俺達の保護者かよ!って突っ込みたくなるようなそのやり取り。今だけは目の前のパツキン野郎も同じことを考えていると思った。


そんな保護者2人は顔を見合せたかと思うと、「「あ!」」と同時に声を上げた。


「君はあの時の・・・、!」
「やっぱそうだよな?すげぇ偶然!」
「ンだよ、萩。知り合いか?」

萩は何かと交友関係が広い。知り合いの1人や2人、いたって驚きはない。

けれど萩が答えるより先に、猫目の男が俺を見てぱっと目を見開く。



「てことはもしかして松田って・・・」
「あ゛?」
「なまえの恋人、だよね?」
「・・・っ、」


世の中ってのは、めちゃくちゃ狭い。


つくづくそれを実感した。


目の前で人の良さそうな笑顔を浮かべるコイツこそ、あの女がバカみたいに懐いているヒロ≠セった。

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