番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


イケすかねェ男だなって思った。てか何だよ、なまえもほいほい近付いてんじゃねェよ、バカ。


ホテルの部屋に戻ってきた俺達。なまえはすっかり機嫌がよくなったみたいで、「晩ごはんなに食べるー?」なんて聞いてくる。


それがどうにも気に入らなくて。



ベッドに座っていた俺は、なまえの腕を引き向かい合うように自分の膝の上に座らせた。



「・・・・・・?陣平お腹減ってないの?」
「減ってる。でもさっきの男の話聞く方が先だ」
「1人でフラフラ散歩してたらウザいのに絡まれて、それをあの人が助けてくれたの。それでホテルまで送ってくれただけ」
「へぇ。その割には、随分仲良さそうだったじゃん」
「っ、もしかしてヤキモチ?!」
「・・・・・・だったら、悪ぃかよ」


こいつ相手に下手に隠したり、遠回しな言い方は拗れる原因だから。


これまでの経験で嫌というほどそれは学んできた。



素直に答えれば、なまえは勢いよく抱きついてくる。予期していなかったその重みに、背後にあったベッドに押し倒される。


俺の胸に頭を埋めたなまえは、「陣平が可愛い!〜〜っ、大好き!!!」なんていつもみたいに騒いでいて。



・・・・・・なんか毒気を抜かれるってこういうことだよな、マジで我ながら単純だ。



「1人にして悪かった。お前が他の男に絡まれンのすげぇムカつくからあんまフラフラすんな」
「〜〜っ、」
「返事は?」
「・・・・・・ワン?」
「ふっ、犬かよ」


垂れ下がった耳と、ぶんぶん振る尻尾が見える気すらしてくる。いつもこれくらい素直な忠犬なら手もかからねェのに。


犬を撫でるみたいにくしゃくしゃと頭を撫でれば。なまえの大きな目がふにゃりと垂れ下がる。


その表情とこの距離に込み上げてくる加虐心と庇護欲を足して2で割ったような熱。頭を撫でていた手でするりと頬をなぞり、顔を近付けようとしたそのとき。



「あーーー!!!!てかさっきの人の顔見た??!」
「・・・・・・っ、あ゛ーーー、マジでお前はそういうとこあるよな・・・。さっきの男の顔?」


ばっと勢いよく俺の胸を押し離れたなまえは、思い出したと言わんばかりにデカい声を上げる。



・・・・・・マジでムードもへったくれもない奴。


わしゃわしゃと自分の髪を乱し、ながらさっきの男の顔を思い出す。


道着姿だったことと、・・・・・・まぁ整った顔はしてたような気もする。ムカつくしちゃんと見てねェけど。


「・・・・・・なに?あぁ言うのがタイプなワケ?」
「は?んなわけないじゃん!私のタイプは陣平だけだし!!!」
「だったらあの男がどうしたんだよ」


何でもない風を装いながらも、なまえのその言葉に満たされるような感覚。


返ってくる言葉なんて分かっていたくせに。


「萩原にめっちゃ似てない?まぁ萩原よりはいい奴っぽかったけど!チャラくもないし!」
「萩に?あいつが?」
「うん!顔とか雰囲気とか・・・、ほら!大学の頃のあいつに!!」



その男の顔を改めて思い出してみる。
言われてみれば何となく・・・、似てなくもない・・・ような気もするけど、


「あーあ、優しい人だったし、萩原の為に爪の垢でも貰ってくればよかった」


大袈裟にため息をつきながら、肩を竦めてみせるなまえ。


正直、あの男が萩に似てるかどうかなんてどうでもよくて。目の前で自分以外の男を、優しいと称して褒めるなまえを見てるのはどうにもおもしろくない。


ったく、諸伏に懐いてるだけでもムカつくってのに。





「そうだ!さっきの人に聞いたんだけど、やっぱり函館山からの夜景って綺麗なんだって!明日の夜行ってみようよ!」


【函館山 夜景】って携帯で調べて陣平に見せようとしたけど、机に伸ばした手が携帯を掴むことはなかった。


不意に手首を掴まれ、ぐるりと反転した視界。目の前には真っ白な天井と陣平の顔があって。押し倒されたって気付くと、一気に頬に熱が集まる。



「・・・・・・っ、」
「さっきからそいつの話ばっかしてんのうぜェんだけど、」
「〜〜っ、」
「大体夜景なら俺だって調べてたっての。お前のことだから、そういうの好きそうだし」


視線を逸らしながら、ぼそっと不貞腐れるように呟く陣平に心臓の音が加速する。


あぁ、やっぱり私は目の前にいるこの人のことがたまらなく大好きだ。大好きで、大好きで仕方ない。



がばっとその首に腕を回し引き寄せると、私の上に体重をのせ首筋に顔を寄せる陣平。彼の唇が首筋に触れて、擽ったさと恥ずかしさから体が熱を持つ。



「あんますぐそうやって他の男に懐いてンじゃねェよ、バカ」
「懐いてなんかないもん。ただ陣平の話聞いてくれたから優しい人だなって・・・、」
「・・・・・・はぁ、お前の優しいの基準がそもそもズレてんだよ」



呆れたみたいに笑いながら、私の服の裾から侵入してきた彼の手がそっと腰をなぞった。




────────────────



「じゃーん!萩原にもちゃんとお土産買ってきてあげたんだよ!私ってホント優しいよねぇ」

ドヤ顔でなまえが渡してきたのは、なんとも言えない顔とフォルムをした謎の白いキャラクターのキーホルダー。

何これ、尻尾だけ赤いしこのフォルムって、


「何これ、ゆるキャラ?」
「ずーしーほっきー!なんか可愛い顔してるでしょ?」


可愛い・・・、のか?これ。
まぁせっかく買ってきてくれたもんだし、「サンキュ」と言って受け取る。


上機嫌で土産解説をしているなまえの隣で、何故か陣平ちゃんはじっと無言で俺の顔を見ていて。


「なになに、陣平ちゃん。そんなに俺のこと見つめちゃって♪ 北海道旅行の間会えなくて寂しかった?」
「はぁ?ずっと私と一緒だったんだから寂しいわけないじゃん!!ね!!陣平!!」

冗談めかして揶揄えば、噛み付いてくるなまえ。

この様子だと喧嘩したとかでもなさそうだし、まじで何があったんだ?


そんな疑問はなまえの言葉ですぐに解決することになる。



「そういえば向こうで萩原にそっくりな人見たの!雰囲気とかめっちゃ似てた!」
「俺にそっくりな奴?」
「うん。あ、でも中身はあの人の方がいい人そうだったよ?優しいし」
「ひでぇなぁ。俺だってこんなに優しいのに」


俺にそっくりな奴ねぇ。
ちらりと陣平ちゃんを盗み見れば、不機嫌そうに顔を顰めていて。・・・・・・あぁ、なるほど、そういうことね。


分かりやすい反応に思わずくすりと笑みが溢れる。


「陣平ちゃんもそいつに会ったんだろ?そんなに似てた?」
「・・・・・・別に。お前の方がまだマシ」
「ははっ、俺のこと大好きだよなぁ♪ 陣平ちゃんは」
「なっ、やっぱ萩原ムカつく!!陣平が大好きなのは私だもん!!」


ギャンギャンと噛み付いてくるなまえと、呆れたようにため息をつきながらもまとわりつくなまえを振り払おうとはしない陣平ちゃん。


まぁ、何はともあれ楽しい旅行になったみたいで良かったよ。


Fin



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