番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 100万ドルの五稜郭の内容は含みませんが、苦手な方はご注意ください。( 聖さん出てくるよ!!!!←)



ずっと来たかった北海道旅行。


家族旅行で札幌に行ったことはあったけど、函館に来るのは初めてだ。ロープウェイに乗るのも楽しみだし、五稜郭も見てみたい。



飛行機に乗る前からわくわくが抑えきれなくてハイテンションの私と違って、地を這うようなテンションの陣平。


理由なんて簡単で、立て続けにおきた事件の捜査のせいで寝不足、疲労、えとせとら、えとせとら。飛行機に乗った瞬間、即夢の世界に旅立った陣平を横目に小さくため息をつく。


仕事だから仕方ないってことは分かってる。そんな中でも私との約束を守って、こうやって連休をとって旅行に連れてきてくれたことも感謝してる。


「でもやっぱりつまんない」
「・・・・・・あ゛?なんか言ったか?」
「別に〜。何も言ってないよーだ!」
「あっそ。まだ着くまでに時間あるよな?」
「うん。あと2時間くらいだって」
「ん、もうちょい寝る」


すやすやと眠っていた陣平の頬っぺたをつつくと、薄らと目を開けた陣平。でもまたすぐに夢の世界へと旅立ってしまう。


すっかり深い眠りに落ちた陣平の手を握ってみたり、肩にもたれてみたり。何だかんだ陣平で遊んでいると飛行機は函館空港へと到着した。



先にホテルに荷物を置きに向かった私達。部屋の鍵を貰ってエレベーターに乗る。陣平は2人分の荷物が入った大きめのキャリーケースにもたれながら、ふぁーと大きな欠伸をしながら眠そうに目を擦る。





ホテルの部屋に入り、荷物を机の脇に置く。そのままベッドに倒れ込むと、一気に眠気が加速する。


あ゛ー、やべェ・・・・・・、マジで眠い。

無理やり連休をもぎ取ったせいもあって、ここ数日の激務といったら思い出すだけでもため息がこぼれる。



「悪ぃ、晩飯までちょっとだけ寝かして。飛行機ん中で寝ただけじゃ足りねェわ」
「えぇー、函館観光は?」
「明日は1日お前の行きてェとこ付き合うから。まじで眠過ぎて全然頭働かねェんだよ」



枕に頭を埋めながら視線だけなまえの方に向けると、明らかに不満そうな表情をしたなまえ。まぁそりゃそうだわな、こいつこの旅行スゲェ楽しみにしてたし。


・・・・・・俺も楽しみしてたのは同じだけど、さすがに学生の頃みたいにその気持ちだけじゃ体がついてこないのも事実。



「なまえ」
「・・・・・・なに?」
「こっち来いって」


ベッド脇に腰掛けたなまえの腕を引くと、ぽすりと隣に倒れ込む。そのまま強引に抱き込めば、ジト目で俺を睨んでくるなまえ。


長い髪をするりと耳の後ろに流し、買ったばかりと言っていたピアスが揺れる耳に唇を寄せた。



「しばらく抱き枕してて。その方がよく寝れる」
「・・・・・・陣平ってずるいよね、ホント」
「嫌?」
「・・・・・・嫌、じゃない」
「ん、いい子。お前もちょっと寝ろ。昨日もあんま寝てねェだろ」



体の力を抜いたなまえは素直に腕の中にすっぽりと収まる。擦り寄ってくる体温が心地よくて、俺はあっという間に意識を手放した。






陣平の寝顔は、いつもより少しだけ幼くてめちゃくちゃ可愛い。化粧なんてしてないくせに私と変わらない長さの睫毛はムカつくけど。



しばらく陣平の寝顔を堪能していたけど、完全に遠足の時の幼稚園児状態の私の目は完全に冴えてしまっていて全く眠れそうにない。


かといって、すやすやと気持ちよさそうに眠る陣平を起こす気にもなれない。しばらく考えた後、私はそっと彼の腕の中から抜け出した。



観光は明日陣平と一緒にするとして、ホテルの周りをちょこっと散策するくらいなら1人でもいいだろう。美味しいご飯屋さんとか見つけられるかもだし。



・・・・・・そんな考えでふらりと外出したのが間違いだった。





「だーかーらー!!まじでウザい!!!今すぐ離して!!てか触んな!!気持ち悪い!!!」


稽古終わり、いつも通る帰り道を歩いていると少し向こうから聞こえてきた女の人の声。


穏やかとは言えない口調。気になって声のする方を見れば、1人の男に腕を掴まれ、それを解こうと躍起になっている女の人がいた。



「ずっと1人でこの辺りフラフラしてたよね?観光?だったら俺と一緒に飯でも行こうよ」
「1人でも観光でもない!放っといてってば!」


絡まれている女の人は、とんでもなく苛立っていてその整った顔を盛大に歪めながら自分より頭ひとつ大きな男を睨み上げている。


なんていうか・・・、気の強い人だな。なんて心の中で思いつつも、このまま見過ごすのはどうにも後味が悪い。



「待たせてごめん。・・・・・・君は、僕の連れに何か用かな?」
「・・・・・・げ、マジで1人じゃなかったのかよ」


彼女の後ろから声を掛けると、露骨に顔を顰めるその男。一瞬緩んだその男の手を振り払った彼女は、「だから言ってんじゃん!」と言いながらべーっと赤い舌を覗かせる。


文句を言いつつも、すぐに人混みの中に消えていったその男。ふぅ、と小さく息を吐いた彼女は掴まれていた腕をパンパンとはたきながらこちらを振り返る。



「助けてくれてありがと・・・・・・、って、・・・・・・げ、」


僕の顔を見るなり、盛大に顔を顰めた彼女。さっきの男に向けていたような敵意こそないけれど、なんとも言えないその表情。


「大丈夫?」と声を掛けてみると、「あー、うん、ハイ、大丈夫、デス」とどうにも歯切れが悪い。







1人でふらふら街を散歩していると、羽虫が1人2人と声を掛けてくる。さすがに何回も声を掛けられ、行く手を遮られるとイラつきもピークに達する。


そんな時に助けてくれた目の前のこの人。剣道かなにかをやっているんだろうか。道着姿で背中には何か長い袋を背負っている。


皆が見て見ぬふりをする中、わざわざ声を掛けてくれるなんてきっと優しい人なんだと思う。


陣平以外の男は嫌い。
でもこうやって助けてくれた人にお礼を言わないほど非常識ではない・・・・・・んだけど・・・、



「・・・・・・僕の顔がどうかした?」
「っ、いや、それは・・・」
「もしかしてどこかで会ったことある?キミみたいな可愛い子、1度会えば忘れないと思うんだけど」


冗談めかしてそう言いながら笑う仕草も、私の大っ嫌いなあの男によく似ていて。


・・・・・・・・・この人、めっちゃ萩原に似てる・・・!!!!!


大学時代の萩原からチャラさをちょっとだけマシにしたような感じだ。この手の顔が昔からどうにも苦手な私だけど、さすがにお礼も言わずに立ち去るのは違うだろう。



「・・・・・・ちょっと嫌いな知り合いに似てて、びっくりしちゃって。助けてくれてありがとう」
「ははっ、それ素直に言っちゃうんだ。面白い子だね」
「っ、それって褒めてる?それともバカにしてる?」
「可愛いし面白い子だなって褒めてるんだよ」


やっぱり何か萩原に似てる。めーーーーっちゃ苦手なタイプ!!!!


きっと心の中が顔に出ていたんだろう。それなのに彼は嫌な顔ひとつすることなく、くつくつと小さく笑いを噛み殺していて。



「観光できてるの?1人?」そう言いながら私の鞄から覗いていた函館のガイドブックを指さした。


「まぁ、そんな感じ。彼氏と来てるけど、今ホテルで今寝てるから近くを散歩してただけ」
「そういうことか。夜になるとこの辺りは酔っ払いが増えるし早くホテルに戻った方がいい」
「・・・・・・分かった、ありがとう」
「ホテルの近くまで送るよ。また変なのに絡まれちゃいけないし」
「・・・・・・アリガトウゴザイマス」
「ははっ、すごい棒読み。よっぽどその人のこと苦手なんだね」
「苦手じゃなくて嫌いなの・・・!昔からめちゃくちゃムカつく奴で、」


声を掛けてきた羽虫とは違って、この人からは下卑た下心は感じなかったから。

それに加えて、私が陣平の話をすれば柔らかく笑いながら話を聞いてくれるところは好感が持てる。萩原みたいに揶揄ってもこないし。多分、悪い奴じゃない・・・・・・気がする。







ゆるゆると浮上した意識。体を起こしぐっと背伸びをすれば、すっかり頭は冴えていて。ここ数日間の睡眠不足もようやく解消されたらしい。


そしてはたと気付く。腕の中はもちろん、部屋になまえの姿が見えないことに。


「・・・・・・っ、あのバカ・・・!!!」


あいつの鞄もないってことは、1人でどっかにふらふら出掛けたってこと。携帯を確認してみても連絡はない。


ベッドから立ち上がった俺は、そのまま上着を羽織って部屋を出てなまえを探しに向かった。


携帯に電話してみても、聞こえてくるのは圏外のアナウンス。飛行機の中で携帯触ってたし、絶対充電切れだろ。そう思いつつも、一抹の不安は消えてくれない。


大体あいつは無駄に目立つ。今回も旅行だからって気合い入れて粧し込んでたし、1人でふらついてたら変な奴に絡まれるに決まってる。人一倍気の強いなまえがナンパ男に声を掛けられて、素直に周りに助けを求めるなんてしない。必要以上に噛み付いて、大揉めしてるとこを今まで何度も見てきた。


圏外のアナウンスを繰り返す携帯を耳から離し、ホテルのエントランスを出たところで聞き慣れた笑い声が耳を掠める。


振り返ってみれば、そこにいたのはなまえと1人の男。後ろ姿のせいでその男の表情は見えないけど、なまえの方は怒ってるというより楽しげに笑っていて。


・・・・・・はァ?何だ、あれ。

こんなとこでたまたま知り合いに会うなんてありえねェし、そもそもなまえが愛想よく話す男なんて俺か諸伏くらいなもんだ。



誰だよ、あれ。


つかつかと2人に近付くと、「なまえ」と声を掛ける。弾かれたように顔を上げたなまえは俺の顔を見ると「陣平〜!おはよ!」とあまりにも時間違いな挨拶をしてきた。






話をしてみれば、萩原のそっくりさんは意外と話の分かる人だった。


函館の観光地とかオススメのお店を教えてくれるし、陣平との話も聞いてくれる。そんな話をしているとあっという間にホテルの前に到着して、色々教えてくれたお礼を伝えていると少し向こうから「なまえ」と大好きな人の声がして顔を上げる。


こちらに近付いてくる陣平の顔は顰めっ面で、まだ眠たいのかなって思っていると目の前にいたそっくりさんが「あの人が噂の彼氏さん?」と私の耳元で尋ねてくる。


なんかやっぱり陣平のことを彼氏って呼べるの、めちゃくちゃ幸せだな。そう思うと自然と頬も緩む。頷こうとした私だったけど、隣にやってきた陣平に思いっきり腕を引かれぐらりとバランスを崩す。


「っ、そんな急に引っ張んないでよ。ヒール高いから転ぶじゃん」
「あ?ふらふらしてるお前が悪い」
「はぁー?陣平が寝てたから1人で散歩してただけじゃん!」


なんでこんなに機嫌悪いの・・・。売り言葉に買い言葉で言い合いになった私達を黙ったまま見ていたそっくりさんが、「ねぇ、」と私の方を向いて小さく手招きした。


言われるがまま彼に近付けば、陣平の眉間のシワが気持ち深くなったような気がする。



「さっき話してたオススメの観光地だけど、夜は絶対に函館山から見る夜景がいいと思うよ」
「夜景・・・?」
「うん。100万ドルの夜景って聞いたことない?」
「なんかテレビで見たことある!やっぱり綺麗なんだ!」
「きっと気に入る思うよ。じゃあ、僕はそろそろ行くね」



にこりと笑うと陣平に小さく頭を下げ、大通りの方へと消えていった彼。


隣を見れば、やっぱりぶすっとした陣平がいて。てか陣平はさっきの人見て、萩原と似てるって思わなかったのかな?


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