▽ 1-1
何年も、何年も、ずーーーっと大好きだった人。そんな人が私の彼氏になった。
それだけでいつもと変わらない大学内の光景がキラキラと輝いて見えるし、眠気を誘う教授の声もすらすらと頭に入ってくる。
そんなるんるん気分のまま教室をでて昼ごはんを食べるために大学内のカフェへと向かう。時間帯のせいか人が多くて少しげんなりしたけど、窓際の席に座る松田の姿を見つけそのテーブルに駆け寄った。
「松田〜!!!今からご飯?私も一緒に・・・・って、萩原もいたんだ」
「ははっ、あからさまに嫌な顔すんなって♪ 心配しなくても俺は今から授業だから2人の邪魔はしねぇよ」
「あ、まじ?じゃあ私ここ座る!」
残り少なくなっていたコーヒーを飲み干した萩原が席を立つのと入れ替わりに、松田の対面の席に腰かける。
この2人ホントいつも一緒にいるよね。同じ学部だし被ってる授業が多いってのもあるんだろうけど、なんかずるいしムカつく。
「じゃあ頑張れよ、陣平ちゃん♪ 」
ぽんっと松田の肩を叩いた萩原は意味ありげにニヤリと笑う。てか頑張るのは今から授業の萩原の方じゃん。松田の授業は昼までのはずだし・・・・・・、あれ?朝イチだけのはずなのになんで松田はここにいるんだろ。
机の上には飲みかけのコーラが置かれているだけで、特に何かを食べている様子もない。
「おい、飯頼まねェのか?」
「あ、うん!食べる!松田はもう食べたの?」
「まだ。腹減ったからさっさと決めて頼もうぜ」
「てか松田の授業って朝イチだけだよね?この後授業ないし帰ったのかと思ってた」
「・・・・・・っ、」
くるくるとストローをグラスの中で混ぜていた松田の手が止まり、その肩がぴくりと跳ねる。
何、この反応。目の前のメニューなんて頭に入ってこなくて、松田の言葉の続きを待った。
*
じっと俺を見つめるなまえの大きな瞳。少しの沈黙の後、なまえは何かを思いついたように顔を顰めながら口を開いた。
「そんなに萩原と一緒にいたかったの?」
「・・・・・・・・・は?」
「授業ほとんど被ってるくせに、さっきも萩原と一緒だったし。萩原ばっかりずるい!!そんなに萩原と四六時中一緒にいたいってやっぱり2人なんかあるの?」
「っ、あるわけねェだろ!!てかやっぱりってなんだよ!気色悪ぃこと言うんじゃねェ!!」
「・・・・・・ムキになって怒るの怪しい」
こいつの考えることはいつも俺の斜め上をいく。腕を組みジト目で俺を見るなまえは、すっかりその気色悪ぃ妄想を現実として捉えているようだ。
普通に考えてそうじゃねェだろ、バカ。
「なに、その呆れたみたいな顔!言いたいことあるなら・・・っ、」
「待ってたとは思わないワケ?」
「・・・・・・誰が誰を?」
「俺が。お前を」
「〜〜っ、?!?!」
ぼん!って音がしそうなくらいなまえの顔が一気に赤くなる。何かを言いかけて口を開こうとしたなまえだったけど、目が合うと勢いよく視線を逸らしメニューで顔を隠した。
ちらちらとメニューの上から俺の方を見るなまえの反応が可愛く思えて、思わず小さく吹き出せばその表情に僅かに不機嫌さが滲んだ。
昔から変わらねェよな、こういうとこ。ホント分かりやすい奴。
*
「なまえさ、今週の土曜って暇?」
「暇だけど・・・、あ!テスト近いから勉強教えてとか?」
「勉強はまぁ教えてほしいっちゃほしいけど、土曜じゃなくていい。普通にどっか出掛けねェ?」
「・・・・・・誰と誰が?」
「俺と。お前が」
「〜〜っ、?!?!」
ついさっきと似たようなやり取り。でも私の心臓はさっきの何倍も大きく脈打つ。
ゆっくりとメニューから顔を上げてみれば、ストローを咥えていた松田と視線がばちりと交わる。
「行かねェの?」
「い、行く!!絶対行く!!てかこれってデートだよね?〜〜っ、松田との初デートだ!!!!」
「声がいちいちデケェんだよ、お前は」
呆れたように笑みをこぼした松田だったけど、その視線に冷たさはなくて。その仕草ひとつでまた大好きが私の中で大きくなるんだ。
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