番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


朝っぱらからヤケにそわそわして落ち着きのない様子のなまえ。朝飯に用意された食パンをかじりながら、対面に座るなまえを見ればやっぱり視線をちらちらと俺に向けたり逸らしたりと忙しそうだ。



・・・・・・・・・ぜってェなんか企んでるだろ、こいつ。



さすがにもう何年も一緒にいるとこいつが考えそうなことは何となくわかる。



ちょうどテレビ番組が切り替わり、朝のニュース番組が始まる。アナウンサーが今日の日付と天気を読み上げると、あからさまにぴくりとなまえの肩が跳ねる。



「あ、あのね!陣平!!話があるんだけど、」
「なに?」


意を決したようにコップに残っていたカフェオレを飲み干したなまえは席を立ち、俺の隣に移動する。










「・・・・・・・・・私ね、好きな人できた!!!」





ぐっと俺の腕を掴みながら、デカい声でそう言ったなまえ。俺の顔色を伺うみたいにちらちらと感じる視線。



食パンの最後の一口を口に放り込むと、そのままコーヒーに手を伸ばす。ことん、と小さな音を立ててコップを机に置くと、なまえの方へと視線を向けた。







「へぇ、それで?」
「・・・・・・っ、それで?じゃないし!!」
「朝から元気だなぁ、お前は。ンで?好きな奴ができたからなに?」



気だるそうに欠伸を噛み殺しながら喋る陣平からは1ミリの焦りすら感じられない。



何これ!!話が違うじゃん!!!
今日はエイプリルフールなわけで、嘘をついても許される日。何かいい嘘ないかなーって昨日寝る前にネットで調べてたら出てきたのが、この好きな人ができたってやつだった。


彼氏が焦ったところで、実はその好きな人は貴方だよってネタばらししてラブラブに・・・・・・って書いてたのに何?!この反応!!!



陣平ってば焦りもしないし、気にしてすらなさそう。



・・・・・・・・・私に他に好きな人ができてもいいってわけ?!




欠伸をしたせいで目尻に浮かんでいた涙をロンTの袖で拭おうとした陣平の腕をぐいっと思い切り引っ張る。



「さっきから何だよ。ふぁ〜、ねみぃ・・・。俺今日非番だしもうちょっと寝たいンだけど、」
「はぁ?!寝てる場合じゃないでしょ?!私のさっきの話聞いてた?!」
「聞いてた。好きな奴できたんだろ?」
「できたんだろ?って・・・・・・、どんな人?とかそういうの気にならないの?!」
「・・・・・・あー、へいへい。じゃあどんな奴なワケ?」



机に片肘をついた陣平は気だるそうな表情のまま尋ねる。


何これ、誘導尋問みたいじゃん。私が言わせたみたいでめちゃくちゃムカつく!!!







「顔がめちゃくちゃカッコいい人」
「へぇ、そりゃ良かったな。そいつのいいとこって顔だけ?」
「っ、違うもん!!ちょっと・・・・・・、いやかなり?口は悪いけどホントは優しくて・・・・・、素直じゃないけどいつも私のこと考えてくれる人だもん・・・!!!」


悪戯っぽい笑みを浮かべる陣平にムカついて、勢いのまま紡いだ言葉。もちろん私が頭に浮かべる好きな人なんて陣平しかいない。


ヤケクソみたいに少しだけ早口でそう言った私を見て、陣平はくすりと笑みをこぼす。






「悪かったな、口は悪いし素直じゃなくて」
「・・・・・・っ、べ、別に陣平のことって言ってない・・・!!」
「ふーん、じゃあ俺以外の奴なの?」



私の企みなんて多分陣平にはお見通しだったんだろう。


勝ち誇ったみたいな笑みがたまらなくムカつくのに、同じくらいカッコよくて大好きで。



ばん!って勢いよく陣平の肩を叩こうと振り上げた手は振り下ろすよりも先に彼の手によって掴まれる。




掴んだ私の手首を軽く引っ張った陣平。そのまま至近距離で交わった視線。私のことを揶揄うようなその視線は悪戯をする子供みたいだ。




「答えろよ。お前は俺以外の奴のこと好きなれンの?」
「〜〜っ、ムカつく!!!!!ならないしなれないよ!!!ちょっと揶揄うつもりだったのに陣平のバカ!!!!」
「バカはお前だ、バーカ。エイプリルフールに嘘つくならもっとマシな嘘つけ」
「っ、ちょっとくらい焦ってくれてもいいじゃん!!陣平は知らないかもだけど私モテるんだからね!この前だって同じ会社の人に・・・・・・っ、」



勢いのままに叫んだけど、途中でやばいと思って掴まれていない方の手で自分の口を塞ぐ。


あ、やば。と思った時にはもう遅くて、さっきまでケラケラと笑っていた陣平の表情が一気に鋭さを帯びた。



「同じ会社の奴に何?また告られた?」
「・・・・・・えっと、それは・・・、」
「何でそれ隠してたワケ?」
「隠してたわけじゃないもん!その日帰ってきて陣平に話そうと思ったけど、陣平の顔見たら嬉しくなって普通にそいつに告られたこと忘れてた・・・・・・」
「・・・・・・はぁ。やっぱりバカだな、お前」



むぎゅっと私の鼻を摘む陣平の表情にはさっきまでの鋭さはない。



最近気付いたけど、私が思ってるより目の前の彼はヤキモチ妬きなのかもしれない。なんて言ったらたぶんまた怒られる・・・・・・よね?



そんなことを考えていると思わず頬が緩む。ぎゅっと勢いよく陣平の腰に腕を回すと、くしゃりと髪を撫でてくれる大きな手。



何年経ってもそれだけで心臓が一気に騒がしくなる。こんな風に思える相手は、これまでもこれからも陣平しかいないから。





「・・・・・・ちょっとは焦ってくれてもいいじゃん、せっかくのエイプリルフールなのに」
「なまえが俺以外に惚れるとことか想像つかねェもん」


腕の中で不貞腐れたように呟くなまえに自然と目尻が下がる。まぁ俺の胸に顔を埋めているなまえにはこっちの表情なんて見えねェんだろうけど。





「・・・・・・やっぱムカつく。てか陣平は?私以外好きになる?」



大きな瞳がじっとこっちを見上げる。ゆらゆらと揺れる瞳の奥に見え隠れする少しの不安。



変なとこですぐ不安になるバカな奴。でもやっぱりそれも含めて可愛いと思うんだから絆されてるなってつくづく思う。



「それ、言わなきゃ分かんねェ?」
「・・・・・・分かってても言って欲しいもん」



なまえの首にかかっていた長い髪をそっと払い、露わになった首筋に唇を寄せる。擽ったそうに身をよじるなまえの姿に心臓が大きく脈を打つ。



こんな風に思える相手なんて・・・・・・、






「お前以外なんて興味ねェから、ンなことで不安になってんじゃねェよ」




小さな嘘なんかで揺らがないほど、きっとこの気持ちは確かなものだから。




Fin



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