番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▽ 1-1


「だからさっきから謝ってんだろ!」
『なにその言い方!謝ってる態度じゃないし!』
「お前がしつけェからだろ。仕事なんだからそれくらい分かれよ」
『分かってるもん!だからこの前デートの約束してたときも、陣平が急に仕事入って無理になったって何も言わなかったじゃん!そのときにホワイトデーは一緒に出掛けようって約束したのに・・・、寂しいって言うのもダメなわけ?!』
「今こうやって文句言ってきてるじゃねェかよ。だいたいホワイトデーって・・・、誕生日や記念日でもねェんだからそこまで拘らなくたって」
『っ、陣平のバカ!!!そんなに仕事仕事って言うなら仕事と付き合えばいいじゃん!!!もう知らない!!』



俺の言葉を遮ったなまえの怒鳴り声。勢いよく切られた電話の向こうから無機質なツーツーという音だけが聞こえてくる。



はぁ、と盛大なため息をつきながら携帯をポケットに入れると、助手席の窓から流れる外の景色を見た。



バレンタインが終わったかと思えば、次はホワイトデーって何かと忙しない世の中だよな。



「さっきのは松田君の言い方が悪かったと思うわよ」
「事実だろ。だいたい付き合い始めでもねェのにそこまでホワイトデーなんかに拘るか?」


赤信号で車が止まる。なまえのデカい声は運転席に座っていた佐藤にも筒抜けで。


俺の言葉に佐藤は僅かに顔を顰め、呆れたみたいに小さくため息をついた。



「仕事が入って約束がダメになるのは松田君の言う通り仕方ないと思うわよ。でもなまえさんにとって今日っていう日は大事だったんじゃないの?それをあんな言い方したらそりゃ彼女だって怒るわよ」



信号が青に変わりエンジン音が車内に響く。何となく居心地が悪い車内、佐藤から目を背けまた窓の外に視線を向ける。


日曜日ってこともあって街中はカップルや家族連れが多い。本当なら今日は午後から休みの予定だった。ホワイトデーってこともあって、なまえと出掛ける約束をしたのが数日前のこと。


前回のデートをドタキャンしたこともあって、なまえは多分・・・いや、絶対に今日を楽しみにしてたんだと思う。



ましてあいつはこういう甘ったるいイベント事が好きだから。記念日や誕生日はもちろんバレンタイン、ホワイトデー、クリスマス。こだわる奴だって分かっていたのに、急な事件で今日約束もまた破っちまった。



売り言葉に買い言葉。別に本気であんなこと思ってねェし、俺だって会いたい気持ちがないわけじゃない。


ただどうにも素直にそれを表現するのが苦手なだけで。



「意地を張るのもいいけど、ほどほどにしなきゃ愛想尽かされるわよ」
「・・・・・・ありえねェな、それは」
「相変わらずすごい自信ねぇ。松田君がいつまでもツンツンしてたら、なまえさんだって優しい誰かにコロッといっちゃうかもよ?」
「あいつに限ってンなこと・・・」
「あ、そういえばこの前なまえさんが松田君に会いに来た時、別の課でも話題になってたみたいよ?すごく可愛い子がいるって」
「・・・・・・、」
「そんな顔するならさっさと犯人見つけて帰って謝りなさい。ほら!行くわよ!」



・・・・・・だからあいつが本庁まで来るの嫌なんだよ。無駄に目立つし人目を引く。てかそれ言ってた別の課の奴って誰だよ。


思わずこぼれた舌打ち。現場につき車を降りる佐藤に続きながら、わしゃわしゃと苛立ちを誤魔化すみたいに髪を乱した。







ムカつく、ムカつく、ムカつく!!!!!



なにあの言い方??私が悪いわけ??



1人きりの部屋で苛立ちを近くにあったクッションに思い切りぶつける。


テレビから流れてくるホワイトデーの話題にもムカついて、ブチッとリモコンの電源ボタンを押せば静かになった部屋。怒りをぶつけたせいで少し歪な形になったクッションに顔を埋めソファに倒れ込む。



別に何かがほしいわけじゃない。どこかに行きたいわけでもない。ただ少し恋人らしい日を一緒に過ごせたらよかっただけなのに。



「だいたいそんなに拘らなくてもって何?!こんな日くらい恋人っぽく一緒にいたいなって思って何が悪いの?!あの仕事バカ!!!てか事件が起きるのが悪いんだよ!!!毎回毎回・・・っ、」


電話越しの気だるげな陣平の言葉を思い出してふつふつと込み上げてくる怒り。


このままひとりで部屋にいてもこの怒りは収まってくれそうにない。



こういうときはめちゃくちゃ気合い入れて可愛くして、美味しい物食べて欲しいもの買って発散するしかない。


クッションから顔を上げて立ち上がると、そのまま寝室のクローゼットを開ける。買ったばかりのワンピース。それなりにいいお値段だったけど可愛くて一目惚れしたそのワンピースは、陣平とのデートで着ようと思ってまだ1度も袖を通していないもの。



迷うことなくそのワンピースに着替えた。いつもより気合を入れて化粧をして、丁寧に髪を巻けば鏡の中の私は文句なしに可愛い・・・・・・、はずなのに。



「・・・・・・陣平のバカ」



仕事で約束がダメになるのは仕方ないって分かってる。ここ最近忙しくて陣平も疲れてるんだろうなって思うのに、感情が先行してあんな言い方しかできない自分が嫌い。


待ってるから早く帰ってきてって素直に言える女の子なら、陣平もあんな言い方しないのかな?って思ってみたけど、やっぱり私はそんな女の子にはなれそうになくて。



ワンピースと同じく買ったばかりのヒールの高いブーツ。好きな物に包まれるといつもならわくわくして気分も上がるのに、今日はちっとも楽しくなれなくて。そんな私の気持ちとは裏腹に、玄関のドアを開けると腹立つくらいに澄んだ青い空が広がっていた。

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