番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-3


珍しく仕事終わりに飲みに付き合ってってなまえから連絡がきた。松田くんと何かあったんだろう。この子がお酒に逃げるなんて珍しいから、きっとそれくらいしか理由が思いつかない。


たまたま訪れた居酒屋で彼に出会したっていうのにフル無視を決め込むなまえを問いただしてみれば、案の定、やっぱり酔いたい理由は松田くんで。



「まぁたしかにそれは松田くんも悪いわ」
「でしょ?!隙があるのが悪い!!それに何ですぐに私が信じてないって決めつけるの?陣平が浮気なんかしてないことくらい分かってるもん!!」


バン!っと空になったジョッキを机に置くと、なまえは綺麗な顔を歪めながら枝豆に手を伸ばす。


ぶつぶつとその女への恨み言を繰り返すなまえ。生き霊とか飛ばしてそう・・・、なんて思っている間にもなまえがお酒を飲むペースは上がっていく。



気が付いたらすっかりなまえは出来上がっていて。とろんとした目でいつの間にか私の隣にやって来て、腕に絡みつきながらぐずぐずと泣き言をこぼす。



・・・・・・この子、こんな絡み酒するタイプだったっけ。呆れたみたいな笑いがこぼれる。意地っ張りでめんどくさいこの子がこうして弱さを見せてくれることは少しだけ嬉しくもあるから。言わないけど。



「なまえ、そろそろ帰るよ。ほら、立てる?」
「・・・・・・ん、やだ」
「ヤダじゃない。私このあと彼氏と会う予定あるんだって。ほーらー、水!飲みな!」
「香織の裏切り者〜!!私よりそんな誰かも知らない男の方がいいんだ・・・」
「いつも松田くん最優先のアンタにだけは言われたくないわ!」


さすがにこの酔っ払いを放置するわけにもいかない。ちらりと店内を見回せば、ちょうど松田くん達のテーブルも会計をしているところ。


いい機会だしこのまま松田くんにこの酔っ払いを託して帰ろう。



「松田くん達のところも帰るみたいだし呼んでくるよ。さすがに1人で帰すのは心配だし」
「っ、ヤダ!無理!」
「じゃあどうすんのよ。1人で帰ったら変なのに絡まれるよ、絶対」


一気に酔いが覚めたみたいに勢いよく首を振るなまえ。そんなに頭振ったら酔い回るっての。


何かを考え込むみたいに俯いたなまえ。本人もさすがにこの時間の繁華街を1人で帰るのは不安もあるんだろう。


何かを決意したみたいに口を開いたなまえ。その言葉に、心の中ではぁとため息をつく。


絶対拗れるよ、それ。口には出さなかったけど、まぁもうあとはふたり次第か。萩原くんほど長い期間じゃないけど、素直じゃないあの2人の性格は大学の頃に嫌というほど見てきたから。



水を飲むようになまえに言いつけ、そのまま松田くん達の席へと向かった。






会計を済ませている間も、陣平ちゃんはちらちらとなまえ達の席を気にしていた。酒が弱いくせに調子よく飲んでいたなまえは遠目で見ても酔っているのが分かる。


その時、つかつかと俺達のテーブルにやって来たのはなまえの連れの香織ちゃんだった。



「香織ちゃん、久しぶり♪ なんかなまえ酔ってるみたいだけど大丈夫そう?」
「萩原くんも松田くんも久しぶり。まぁまぁ飲んでるからさすがに1人で帰らすのは心配だなって」


香織ちゃんの視線がちらりと陣平ちゃんに向く。けれどその視線は、すぐに陣平ちゃんから降谷ちゃん達の方へと向けられた。



「ヒロってどっちの人?その人呼んできてってなまえに言われたんだけど」
「・・・・・・・・・は?」



空気が凍るってのはまさにこのこと。

陣平ちゃんの低い声を聞いても顔色ひとつ変えない香織ちゃんは、さすがというかなんというか。まぁなまえと何年も友達やってるだけはあるよな。



「オレだけど・・・・・・、えっと、松田も一緒に行かない?なまえも酔った勢いだと思うし」
「・・・・・・行かねェ。お呼びじゃねェってこったろ」
「おい、ヒロに当たっても意味ないだろう」
「別に当たってねェよ!とりあえず頼むわ」


こうなったら陣平ちゃんは梃子でも動かない。香織ちゃんだってそれくらい分かってたはず。それでもこうして言ってきたってことは、まぁなまえの友達として少なからず陣平ちゃんに思うところもあるんだろう。



会計を済ませていたこともあって、諸伏ちゃんが呼び止めるよりも先に店を出た陣平ちゃん。なまえのことを放っておくわけにもいかないから、諸伏ちゃんは俺達に「とりあえずなまえのこと家まで送ってくるね」とだけ言い残しジャケットを羽織ると席を立った。



降谷ちゃんも予定があるらしくそのまま店を出て、俺と香織ちゃんもそれに続いた。



「よりによって諸伏ちゃん指名とはねぇ。せめて俺ならもうちょっと陣平ちゃんの怒りもマシだっただろうに」
「そんなに仲良いの?あの2人って」
「高校の頃から、なまえの唯一の男友達がそのヒロなんだよね」
「なるほどね。そりゃ松田くんもあんな顔するわけだ」
「まぁでも聞き役にはもってこいかもな、諸伏ちゃんは。なまえも素直に話聞くだろうし」



駅までの道すがら。そんな話をしながら香織ちゃんを駅の入口まで送り届け、来た道を戻る。


あとは陣平ちゃん次第だよな。


薄らと闇夜に光る欠けた月を見上げながら、そんなことを考えた。

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