番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ Happy Valentine’s Day のその後のおまけ話になります。未読の方はそちらからお読みください。





バレンタイン当日。



講義が被ってないこともあって、今日は夕方になってもみょうじと顔をまだ合わせていない。


何度か携帯を確認してみたけれど、こういう時に限っていつかした無駄に連絡しない≠チて約束をあのバカは律儀に守っているもんだから何の新着メッセージも表示しない画面に思わず舌打ちがこぼれる。




「陣平ちゃんお疲れ〜。帰りラーメン食って帰んない?」
「・・・・・・そんなに腹減ってねェし、ちょっと残って課題やってから帰る」


別の講義を受けていた萩とたまたま廊下で出会す。いつもみたいに自然と隣を歩きながら話しかけてきた萩にそう返すと、萩はぱちくりと何度か目を瞬かせる。


そしてすぐに何かを思い出したみたいにニヤりと悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺の肩に腕を回してきた。




「そういやまだ今日はなまえに会ってねぇよなぁ♪ 」
「・・・・・・っ、」
「あいつもこの時間授業じゃなかったっけ?連絡したのか?」
「なんで俺があいつに連絡しなきゃなんねェんだよ」
「そんなこと言ってっとせっかくのバレンタインなのにチョコ貰い損ねるぞ?」



ケラケラと笑う萩の腕を解きながら携帯を見るけれど、やっぱりあいつからの連絡はない。



なんだよ、昨日あんだけギャーギャー騒いでたくせに。



高校までのみょうじはバレンタインになると、クラスが違っても朝一番に俺のクラスに走ってきてチョコを押し付けてきた。そのあとは休み時間の度に俺の周りでキャンキャン騒いでた。他の女にチョコ貰わないようにって喚くみょうじにげんなりしてたのが懐かしい。



「まぁでもマジでなまえなんかあったのかね?あんなに気合い入れてたし、朝イチで陣平ちゃんに渡しに行くもんだと思ってた」



そういや、萩はみょうじのバレンタインの準備とやらに付き合ってたんだったよな。さっきまでとは違うモヤモヤとした何かが腹から込み上げてくる。



そんな俺の心の中を知ってか知らずか。萩は「あ、」と小さく呟くと少し前を歩いていた1人の女に声を掛けた。







バレンタイン当日だってのにどこかぶすっとして不機嫌な陣平ちゃん。話を聞いてみれば、まだなまえは陣平ちゃんにチョコを渡していないらしい。


あいつの性格的に朝イチで渡しに行きそうなもんなのに。



そんなことを考えていると、少し前になまえの友人の香織ちゃんが1人で歩いているのを見つける。


彼女を呼び止めて、なまえのことを聞いてみれば・・・・・・、





「熱出して寝込んでる?」
「なんか今朝起きたら38度超えてたらしいよ。本人は学校行こうとしたらしいけど、お母さんに止められて家から出れないってメッセージきてた」
「あらら、だから今日大学で顔見てねぇのか」
「インフルとかではなかったらしいけど、とりあえず今日は家で大人しく寝てろってメッセージ返したとこ。せっかくバレンタインだからってあの子気合い入れてたのに」




意味ありげに陣平ちゃんをちらりと見た香織ちゃん。どうやら彼女もなまえがバレンタインに向けて意気込んでいたのは知っているらしい。



「あ、そういえば松田くん誰か女の子からバレンタイン貰った?」
「・・・・・・何で?」
「なまえから何件もメッセージきてたのよ。松田が他の女から呼び出されないか見張ってて!!って」
「ははっ、なまえらしいな」
「・・・・・・体調悪いんじゃねェのかよ、あのバカ」



呆れたみたいにため息をついた陣平ちゃんだけど、心做しかさっきまでよりは少し機嫌がいいようだ。



本当ならここで見舞いでも行ってやれよって揶揄いたい気持ちもあるけど、天邪鬼な陣平ちゃんはそれをしたらなまえのとこには行かないだろう。


となればここはさらっと流すのがベストなわけで。



「まぁただの風邪ならしばらく休めば元気になるだろ。 呼び止めてごめんな」
「ううん、ヘーキ。じゃあ私次も授業あるから行くね」
「おう、頑張ってねん♪ 」
「あ、松田くん!私があの子に怒られるから変な女に捕まらないよーにさっさと帰ってね!」



ひらひらと手を振りながら教室の中へと消えていく香織ちゃん。あの歯に衣着せぬ物言いというか、サバサバした感じがなまえと気が合うんだろうなぁなんて思いながら、その背中を見送った。

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