番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


「ねぇ、いい加減にバイト先教えてくれてもいいじゃん!」
「絶対ヤダ。教えたらお前のことだからバイトあるとき毎回来そうだし」
「っ、私だってそんなに暇じゃないもん!!毎日は無理だから週に3回か4回くらいしか・・・・っ、」
「・・・・・・その頻度が毎回だって言ってンだよ」




何度目か分からないこのやり取り。


授業を終えバイト先へと向かう松田の腕に絡みついてみるけれど、そのままずるずると引き摺られていく可哀想な私。


少し後ろで萩原がケラケラと楽しげに笑ってるのがたまらなくムカつくけど、今日こそは!!と私の決意は固いのだ。



少し前からバイトを始めた松田。居酒屋ってことは教えてくれたけど、そのお店の場所だけは絶対に教えてくれなくて。まぁ理由はさっき言ってた通りだそうだ。



今日こそ尾行でも何でもして絶対突き止めてやる。そんな私の決意を見透かすみたいに、赤信号の横断歩道で立ち止まった松田が呆れたみたいな視線で私を見下ろした。



「あとつけて来たら一生口きかねェからな」
「っ、」
「あ、時間やべ。ンじゃあ俺は行くから気ぃつけて帰れよ」



するりと解かれた私の腕は、そのまますとんと重力に従って落ちていく。


ちょうど青に変わった信号機。小走りで横断歩道を渡った松田は、そのまま繁華街のある方へと消えていった。


人混みにのまれて見えなくなったその背中。思わず盛大なため息がこぼれた。



「・・・・・・一生口きかないなんて無理!!!!バイト先教えてくれるくらいいいじゃん!!松田のバカ!!!!」



感情のままに叫んでみても、すっかり見えなくなった松田に届くことはない。ただすれ違う人がびっくりしたみたいな顔で私を振り返っただけだ。



そのとき、背後から聞こえてきた笑い声。振り返らなくても誰かなんてすぐ分かる。めちゃくちゃムカつく笑い声だもん。



「あー、まじ面白ぇ。陣平ちゃんもバイト先くらい教えてくれてもいいのになぁ」


そう言いながら私の肩に腕を回す萩原。頭ひとつ以上は余裕で身長差があるから下から思いっ切りそのムカつく顔を睨む。



まぁ萩原相手にそんなの通じるわけもなくて、今度は私が呆れる番だった。




「てか萩原も松田のバイト先知らないわけ?」

さっきの口振り的に何となくそんな気がして、肩に回された腕を振り払いながら尋ねてみる。




「ん?知ってるよ。この前も同じゼミの奴らと飲みに行ったし♪ 」
「・・・・・・・・・はぁ?!何で萩原には教えるくせに私には教えてくれないわけ?!?!意味わかんない!!!」
「ははっ、そんなに怒んなって。だってなまえに教えたら、さっきの陣平ちゃんのセリフじゃねぇけど毎回来そうだもん」



当たり前みたいにさらっと答えた萩原に、私の中の怒りのバロメーターが一気に跳ね上がる。


私だけバイト先を教えてもらえなかった。それでもって目の前のこいつはそれを知っているわけで。またまたまたまた!!!私が萩原に負けてるってこと?!



・・・・・・でも待って・・・?松田はさっき私があとをつけたら一生口きかないって言ったよね?じゃあ、萩原に教えてもらって会いに行くのはセーフじゃない?それなら怒られるとしたら、多分私じゃなくて萩原でしょ。


ぴこん!と頭の中で漫画みたいな電球が閃く。そしてそのまま隣で相変わらずムカつく笑みを浮かべている萩原の腕を引いた。







大きな目をキッと吊り上げて怒ったかと思えば、何かを閃いたみたいに口の端に笑みを浮かべたり。ホントに陣平ちゃんが絡むとなまえの表情はくるくると変わるから見てて飽きることがない。


まぁそれは陣平ちゃんの方も同じなんだけど。



何かを思いついたらしいなまえは、にっこりと笑顔を作ると俺の腕を引いた。




「萩原って今日バイト休みだよね?」
「おう、休みだけど」
「松田のバイト先連れてって!萩原に連れて行ってもらうんなら、私があとつけたことにはならないからセーフでしょ?」




まぁ、そんなことだろうと思った。


なまえにとって陣平ちゃんに一生口きいてもらえないなんて、死刑宣告とほぼ同じだろう。



さてさて、どうしたものか。

なまえには言うなって陣平ちゃんに言われてるしなぁ。それに陣平ちゃんのバイト先であるその居酒屋は、割と俺らと同年代の奴らが多い。もちろん女の子もいるわけで、そんなのなまえが見たら不貞腐れるかキレるかの二択だろう。




そんなことを考えていると、なまえは苦渋の決断をくだすかのようにぐっと顔を顰めながら口を開いた。







「コンビニで煙草買ってあげるから」
「マジ?それはすげぇ助かる♪ 1箱だけ?」
「・・・・・・・・・1カートン」
「よっしゃ!交渉成立だな!」



なまえが俺に何か奢るなんてレア中のレア。そこまでして陣平ちゃんのバイト先知りたいなんて健気だよなぁ、ホント。



正直煙草なんてどっちでもいいけど、こりゃ面白いもんが見れそうだ。そんなことを考えるとふっと笑みがこぼれた。

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