番外編 ゼラニウム | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ 1-1


※ 本編後、結婚した2人に子供がいる if のお話です。苦手な方はご注意ください。(子供の名前変換なし)




「行ってらっしゃい♪」
「ん、行ってくる」

仕事に行く父さんを玄関まで見送り、恥ずかしげもなく抱きつく母さん。

父さんもそれをするりと受け入れ、軽く抱きしめると頭を撫でて仕事に向かう。


ガキの頃から見慣れたその光景。オレが中学に上がった今もそれは変わらない。


他の家と比べて、うちの親は無駄に仲がいいらしい。結婚して10年以上が経つというのに、父さんのことが大好きで堪らない母さん。2人とも年齢より若く見えることもあって、新婚にすら見えてくる。

母さんみたいに好き≠全面に出すことはないけれど、父さんも何だかんだ母さんには甘い。


「蓮〜?そろそろ出なきゃ遅刻するよ」
「分かってる!」

リビングに戻ってきた母さんは、食べ終わったオレの食器を下げながら振り返る。


「今日お父さん遅くなるから晩ごはんいらないんだって。蓮何食べたい?」
「別になんでもいい」
「なんでもいいはなし!」
「めんどくせェ、マジでなんでもいいって」


警察官の父さんは何かと忙しくて、オレは母さんと過ごす時間が長かった。


キッチンカウンターに肘をついたままオレをじっと見る母さん。昔から美人な母さんが自慢だった。今となっては何となくそれが気恥ずかしくて、子供みたいに構われることがオレのジソンシン?ってやつを刺激する。


「〜っ、ホント蓮はお父さんそっくりだね。昔の陣平思い出すなぁ」


頬を緩ませて笑う母さん。今でこそ鬱陶しいくらいに仲のいい2人だけど、学生時代はそうでもなかったらしい。2人の幼馴染みの研二がいつだったかそんなことを言っていた。


中学に上がって反抗期?を迎えたオレの物言いで、昔の父さんを思い出したらしい母さんは楽しげに鼻歌を歌いながら洗い物を始める。



「行ってきます」
「行ってらっしゃい!気をつけてね!」

洗い物で濡れた手を拭きながら、ぱたぱたと玄関まで走ってきてにこにこ手を振る母さん。ガキみたいなその笑顔がなんだか擽ったい。





中学生になると、周りの話題は誰が誰を好きとか、誰が誰に告ったとかそんなことばかり。

オレの周りも例外じゃない。


「蓮〜!おはよ!!」
「っ、紗菜!朝からうるせェ・・・」
「だって歩いてたら前に蓮がいたんだもん♪ 今日もカッコいいね!好き!!」


そう、最近のオレの悩みの原因。

朝からうざいくらい絡んでくるこの女。


小学生の頃から同じ学区で所謂幼馴染みというやつだ。


顔を合わせばオレのことを好き好き騒ぐもんだから、学校ではいいネタ扱い。本人はそんなこと気にもとめていなくて、「だって蓮のこと好きなのはホントのことだもん」なんて恥ずかしげもなく笑う。


その姿がたまに母さんに被る。オレが最近母さんへの当たりがキツいのはこれも原因だ。


うるさい性格は置いといて、何かと人目を引く容姿のコイツは意外とモテる。この前だって他の男に告られていた。


何となく、それを聞いた時に感じた不快感。

素直に認める気にはなれなくて、今日もコイツを突き放してしまうんだ。






一緒に帰るとうるさい紗菜。

付き纏われるみたいに家の下まで着いてきた紗菜は、ぺらぺらと他愛もない話を繰り広げる。


「じゃあまた明日ね!」

オレンジ色の太陽に照らされながらひらひらと手を振る彼女に背を向け、家に入ると玄関には父さんの靴があった。



この時間に帰ってるのか、珍しい。今日遅いんじゃなかったのか?


リビングの扉を開けると、ソファに座る父さんの姿。そんな父さんの足元に座り、テレビを見ていた母さんはオレを見るとぱっと笑顔になる。



「おかえり!今日も紗菜ちゃんと一緒だったんだね♪」
「おかえり、蓮」
「・・・・・・ただいま」


紗菜の声がデカいせいで家の中までその声が届いていたらしい。

立ち上がった母さんは、傍にくるとガキの頃みたいにオレの頭を撫でた。


「女の子には優しくしなきゃダメだよ?紗菜ちゃんにも、ね」
「っ、うっせー!母さんに関係ないだろ!」

自分でもガキみたいな癇癪だと思う。

それでも1度口に出した言葉を引っ込めることが出来なくて、ぱん!と頭に触れていた母さんの手を払う。


「っ、?!」
「ガキ扱いすんなよ!!そういうのうぜェ!」

母さんの大きな瞳がゆらりと揺れる。あぁ、言わなきゃよかった。傷付いたような母さんの顔を見た瞬間、後悔の2文字が頭をよぎる。
















「蓮」
「・・・・・・っ、」
「なまえに謝れ。言い過ぎだ」


ずっと黙ったままオレ達を見ていた父さんの低い声がリビングに響く。


オレの前で父さんが母さんのことを名前で呼ぶことは滅多にない。ぴりぴりと伝わってくるのは、間違いなく怒り。



「〜〜っ、」
「っ、蓮!!」


オレは気が付くとその場から逃げるように家を飛び出していた。

prev / next

[ back to top ]