番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 本編後、結婚した2人に子供がいる if のお話です。苦手な方はご注意ください。(子供の名前変換なし)



陣平が非番のある日の夕方。珍しく休みが重なったこともあり、久しぶりにヒロや零が家に遊びに来ていた。


何かと忙しいヒロ達がこうして遊びに来るのは珍しい。まぁしょっちゅうご飯食べに来てる萩原がおかしいんだろうけど。


寒くなってきたからおでんが食べたいって言い出した零の案で、前の日に買い物を済ませておいた材料を冷蔵庫から取り出す。


仕事終わりの萩原も加わって、リビングで蓮と遊ぶ大の大人4人。萩原のことはもちろん、ヒロ達のことも蓮はちゃんと覚えていてトミカ片手に保育園であった出来事を楽しそうに話していた。



大きめの土鍋を取り出していると、隣にやって来たのヒロが袖をまくりながら「手伝うよ」って声を掛けてくれる。



「ありがと!やっぱりヒロは優しいよねぇ」
「ははっ、料理は好きだからね。こっちの大根とか切っておいたらいい?」
「あ、うん!その間にお出汁用意しとく!」


するすると器用に大根の皮を剥いていくヒロ。料理が好きだって聞いたことはあったけど、こうして一緒に料理するなんて初めてだ。


蓮のきゃっきゃと笑う声を聞きながら用意を続けていると、具材を切り終えたヒロが手を洗いながらリビングに視線を向けた。



「どうかした?」
「ううん、何でもないよ。ただ蓮も大きくなったなぁって思っただけ」
「もう来年は小学生だもんね。ホント1年があっという間だよ。そりゃ私も歳とるわけだ・・・」
「ははっ、なまえは昔と変わらないよ。今も昔も変わらず可愛い」


楽しそうち笑いながらそう言うヒロの昔と変わらない優しさに胸が温かくなる。同じようなセリフをこの前萩原にも言われたけど、あいつの場合はチャラいのに何でヒロだと誠実に聞こえるんだろ。不思議。


そんな話をしていると、リビングにいた陣平が立ち上がりキッチンへとやって来た。


それを見たヒロの表情が優しそうな笑顔から悪戯っぽい笑顔に変わる。



「お腹減った?もうちょっとでできるよ」


隣にやって来た陣平は、コトコトと煮込まれているおでんの鍋を見たあと袖を捲りシンクの前に立つ。



「・・・・・・?」
「洗いもんやる。もうこれ洗ったら終わりだろ?」
「私やるよ?ヒロが手伝ってくれたから早く終わったし」


私の言葉に少しだけ不貞腐れたみたいな顔の陣平。それを見たヒロがくすりと小さく笑った。そしてそのままヒロは私の耳元に顔を寄せる。



「多分ヤキモチだよ。オレが手伝ってたから」
「〜〜っ、」


ヒロの言葉に一気に真っ赤になった私の頬。思ったよりも近付いた私達の距離に、陣平が口を開きかけたけどヒロが私から離れる方が早かった。



「じゃあオレは蓮と遊んでこよっかな♪ 」


水道の蛇口から水が流れる音と、楽しそうに蓮が笑う声。萩原や零が蓮をあやす声にヒロの声が加わる。



鍋の火加減を調節しながら、洗い物をしている陣平をちらりと盗み見ると視線が交わる。



「っ、」
「ンだよ、ちらちら人の顔見て」
「べ、別に?何でもないもん」
「嘘つけ。さっきから顔赤いし何だよ」


洗い物を終えた陣平が手を拭きながら、コンロの前にいた私に近付く。ちょうどそこはリビングからは見えない場所で、心臓の音がうるさくなる。



「・・・・・・近い、」
「さっきの諸伏の方がもっと近かっただろ」
「それは別にそういうのじゃないじゃん」
「それでも無理。だいたいお前は諸伏相手だと気許しすぎなンだよ、いつも」
「っ、ヤキモチ?陣平ちゃん可愛・・・っ、」


ふざけてそう言おうとした私の唇に重なった彼の体温。一瞬だけだったけど、そのせいで私の言葉の続きはどこかへ消えてしまう。


頬が熱い。何年経っても慣れるなんてことはなくて、目の前の陣平がカッコよくて仕方ないし大好きで堪らないから。



「だったら悪ぃかよ、バーカ」


口癖みたいな憎まれ口すらも愛おしいなって思うんだ。






リビングに戻ると、萩原達と話していた蓮がぱっとオレの方を振り返る。


小さな手に握っていたトミカを床に置くと、萩原の膝の上からおりた蓮。とぼとぼとオレの方へと歩いてきて服の裾を引っ張った。



「蓮?どうしたの?」
「ヒロは おりょうり できる?」


松田にそっくりな蓮だけど、大きな瞳だけはなまえ譲り。その瞳がじっとオレを見る。腰を屈めて蓮に視線を合わせる。



「料理?何か食べたいものがあるの?」
「ケーキ!チョコレートのやつ!」
「チョコレートケーキ?レシピがあれば作れると思うけど、」


蓮を抱き上げながら零の隣に腰を下ろす。オレの膝の上に座った蓮は、作れるって言葉に目をキラキラとさせた。



「ケーキ食いたいなら飯の後、一緒に買いに行くか?」
「いまじゃないの!おたんじょうび!!」


萩原の言葉にそう返した蓮。慌てて小さな手で自分の口を塞いだ蓮は、松田達がいるキッチンをちらりと見る。幸い2人には蓮の声は聞こえてないみたいで、ほっとしたみたいに蓮が言葉を続けた。



「こんどのおやすみ ケーキあげたいの ママに」
「あぁ、そういう事か。なまえの誕生日だもんな、今度の日曜日」


やっぱりオレ達の中で蓮と過ごしてきた時間が長い萩原が1番最初に蓮の言いたいことを理解したみたいだ。


テレビの近くに置いてあったカレンダーを見れば、たしかに今度の日曜日はなまえの誕生日で。母親にケーキをあげたいっていう蓮の優しい気持ちに自然と目尻が下がる。




「でもなんでヒロなんだ?」
「けんじもゼロも おりょうり へた でしょ?」
「ははっ、子供って意外と大人のこと見てるよなぁ。降谷ちゃん♪ 」


どうやらなまえの手伝いをしていたオレは、蓮の中で料理ができる人の認識らしい。素直すぎる言葉に思わず吹き出すと、零はバツが悪そうに萩原と顔を見合わせ小さく笑った。



そうと決まれば話は早い。


なまえに呼ばれてキッチンの方へ走っていった蓮の背中を見ながら、零が口を開いた。



「今度の日曜か。昼からならヒロの分も僕が代わりに動けるよ」
「本当?助かるよ。じゃあ後は・・・、」
「なまえのことは陣平ちゃんに俺から話して頼んどくよ、当日連れ出してもらうように。蓮のことは俺が見とくからって」
「じゃあ午前中の仕事が終わり次第、萩原に連絡するね」
「オッケー♪ 必要なもん教えてくれたら蓮と買い出し行っとくわ」


さくさくと決まる当日の予定。多分、なまえは蓮からの気持ちに泣くんだろうなって思ったらその日が楽しみになったんだ。

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