番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▽ 1-2


館内に入ると、そこには中森警部を始めとした捜査二課の連中がティアラの警備にあたっていた。


しばらくしてそこに入ってきたのは、公安の風見という男。そこまで話したことこそないが、その顔は何度か見かけたことがあった。



今度来日するどっかの女王がこの展示会を楽しみにしてティアラがキッドに盗まれでもしたら問題だと。中森警部相手に話す風見刑事。


ちらりと零に視線を向けると、態とらしく片方の眉を上げ俺に視線を返してくる。



・・・・・・意外と暇なのか?公安って。



探偵ボウズと零、それに流れで俺。ティアラの警備に加わることになり、なまえと女店員は部屋から出るように指示される。



「えぇ、私もここに居たらダメなの?」
「ダメだ。ほら、後ですぐ迎えに行くから大人しく待ってろ」
「陣平のケチ」
「へいへい、ケチで結構。ほら、早く行け」


少しだけ不貞腐れた顔のなまえ。それでもさすがに捜査の邪魔をするわけにはいかないことは分かっているんだろう。


背中を押せば、素直にモニターの設置されているという別室へと向かった。






いつもの儀式ってことで、思い切り頬を抓られた俺達3人。無事にキッドの変装ではないと認められ、警備についての詳細を聞く。



ティアラの展示ケースの警備は万全。まぁこれまでもその万全の警備でも、あの怪盗にはしてやられて来たわけだか。




「いいのかよ、公安がこんなにキッド絡みの事件に首突っ込んで」
「問題ない。セリザベス女王がこの展示会を楽しみにしているのは本当だからな」


隣に立つ松田が、怪訝そうな視線を向けてくるもさらりとそれを受け流す。


そのとき、1人の隊員が携帯を片手に中森警部に駆け寄る。



「中森警部!たった今、警視庁にキッドから改めて予告状が!」



今夜零時 貴方達が白昼夢に現を抜かしている間に『王妃の前髪』をバッサリ切り取ってご覧に入れましょう・・・ 怪盗キッド



警察官達を眠らせてティアラを奪う気だと声を上げた中森警部によって用意されたガスマスク。



あっという間に時刻は23時を過ぎた。


キッドの予告時間まで残り1時間、か。






安室さんと松田刑事は、風見刑事と一緒に館内の警備設備を確認してくると部屋から出ていった。



風見刑事は安室さんが呼び出したからアレだけど、松田刑事に安室さんまでたまたまここに居合わせるってスゲェ偶然だよな。




ティアラから一定距離を保ち、壁際をぐるりと囲む警察官。刻一刻と時間は流れ、予告時間まで残り5分となった。



にしても、安室さん達遅いな・・・。もうキッド来ちまうぜ?


腕時計で時間を確認しながら、戻らない3人を入口近くで待っていると背後から「コナン君」と声を掛けられる。



「っ、なまえお姉さん?どうしてここに・・・、」
「眠くなっちゃったから先に帰ろうかなと思って。陣平にそれだけ伝えたかったんだけど、ここにいない感じ?」
「あ、うん。さっき安室さん達と館内の警備の確認に行っちゃって。それよりよく中に入れてもらえたね」
「まぁね♪ 警部さんにお願いって頼んだら入れてもらえた」


悪戯っぽくウインクをしたなまえさん。それを見た周りの隊員達の顔が一気に赤くなる。もちろんそれは中森警部も例外ではないわけで。



・・・・・・美人てのは得だな、何かと。なんて乾いた笑みが溢れた。




「なまえ?お前なんでここにいんだよ」
「あ!陣平!ちょっとこっちの様子が気になって来ちゃった♪ 」
「ここにいて大丈夫なんですか?」
「端っこにいたらいいって警部さんに言われたから大丈夫だと思うよ」


戻ってきた松田刑事と安室さんに近付きながらそう言ったなまえさん。



予告時間の1分前。



中森警部をはじめとした隊員達がガスマスクを被る。




ゴーン、ゴーン、と午前零時を知らせる鐘の音が部屋に響く。




何も起きない・・・・・・、いや!違う!


部屋中をじんわりと覆っていく白い煙。空調から吐き出されるその煙は瞬く間に部屋を覆い尽くしていく。



「っ、ただの煙じゃないですよ、コレ!」
「白い塗料を霧状にして噴霧しているんだ・・・っ、」


「ガスマスクを付けていない奴は展示室から出ていけ!すぐに空調設備を元に戻すんだ!!」

近くで安室さん達の声がしたかと思うと、中森警部の鋭い指示が飛ぶ。



やがて薄らと晴れた視界。慌てて展示台に視線を向けると、そこには1枚のキッドカード。



王妃の前髪は頂戴した! 怪盗キッド



「か、か、怪盗キッド!!!」
「そんなバカな!!」



中森警部と次郎吉さんの声が展示室に響く。


すぐに確認のため、防犯システムを切るように支持した中森警部。安室さんの提案で、キッドが化けることのできない子供のオレが中身のティアラを確認することになった。



ゆっくりと慎重に展示ケースを開けると・・・、




「な、無くなってる・・・!!」



すでに奪い去られたティアラ。展示ケースの中には何もなかった。



まだ館内にいるであろうキッドを探す為、慌ただしく動き回る隊員達。


彼らの間を歩きながら、さっきまでの状況を振り返る。



今までのことを踏まえると、犯行時にガスマスクを付けていた中森警部と次郎吉さんはキッドではない。


変装が崩れるのを防ぐ為、きっとあいつは犯行時ガスマスクをしていなかった。そうなれば怪しいのはあの4人。



あの煙が吐き出された時、この展示室の中でガスマスクをしていなかったのは安室さん、松田刑事、風見刑事、なまえさんの4人だけだ。




部屋の隅で何やら考え込む安室さんに近付き、彼の服の裾をそっと引っ張った。



「ねぇ、安室さん。誰がキッドか分かった?」
「いいや、まだ分からない。怪しいのは、あの煙が排出された時にガスマスクをしていなかった僕を含めた4人ってのは分かるんだけどね」


オレに視線を合わせるように屈んだ安室さんは、ふっと笑いながらそう言った。


少し離れた場所で、松田刑事に話しかけるなまえさん。そんな2人を見ながら、安室さんは小さく首を傾げた。



「そういえば、なまえはなんで別室からここに戻ってきてたんだい?」
「あぁ、何か眠くなっちゃったから先に帰るって松田刑事に言いに来たみたいだよ。それがどうかしたの?」
「・・・・・・たしかに彼女がそう言ったのか?」
「う、うん。でも安室さんたちが戻ってきてすぐに予告時間になっちゃったから、」


さっきまでとは違い、なまえさんの名前を呼び捨てで呼ぶ安室さん。松田刑事と昔からの友人ってことは、彼女のことも以前から知っているんだろう。


安室さんが親しげに誰かをそんな風に呼ぶのは新鮮で。そんなことを考えていると、なまえさんから離れた松田刑事がオレ達の方へと近付いてくる。



「おい、零」
「今はその名前で呼ぶなよ」
「いいだろ、別に。探偵ボウズは知ってるみてェだし」


周りにオレ以外がいないのを確認した松田刑事は、壁にもたれながらオレに意味ありげな笑みを向けた。



「それで?誰がキッドか分かったのかい?」
「・・・・・ほぼ勘だけど、な。その様子だとお前も分かってンのか?」
「刑事が証拠もなしに判断するなんて、といいたい所だがこればっかりは・・・、ね」



含みのあるふたりの会話。


その会話の真相が分からなくて、黙ったままのオレを見て松田刑事はくしゃりとオレの頭を撫でた。



「っ、」
「たまには大人に任せとけ、探偵ボウズ♪ 」
「こればっかりは推理とも言えないものだしね」



まるで事件の真相を見透かすように、2人はよく似た笑みを浮かべていた。

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