番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


せっかくの非番だってのに、俺の目の前には人、人、人。振り返れば後ろにも数えるのも嫌になるほどの人が行列を作る。



「空いてるからすぐ入れるんじゃなかったのかよ。この調子だとまだ1時間はかかるぞ、これ」
「昨日までは空いてたみたいなんだけどね。なんかキッドがここのティアラ盗むって予告状だしたせいで人が集まってるみたい」



思わずこぼれた欠伸を噛み殺した俺に、今朝のネットニュースを携帯で開き見せてくるなまえ。画面を覗けば、その予告状とやらがでかでかと映っている。どうやら周りの連中は、『ロバノフ王朝の秘宝展』なんてもんよりあのキザな怪盗に夢中らしい。



元はと言えば、俺もなまえも今回の展示会に特別興味があったわけじゃない。たまたまなまえが母親からこの展示会のチケットを貰って、せっかくならってことで休みの日に見に来たってだけのこと。



まさかここまで並ぶなんて思ってなかった。



なまえも並ぶのには飽きてるみたいで、俺に背中を預けるとそのまま携帯のアプリで最近何故かハマってるオセロゲームを始める。



「バカ、なんでそこなんだよ。普通にこっちだろ」
「はぁ?こっちの方がいっぱいひっくり返るじゃん」
「違ェし、そこ置いたら・・・・・・ほら、全部返された」
「〜〜っ、陣平うるさい!!こっから勝つもん!!」


こういうゲームのセンスが皆無のなまえ。対戦相手の色にそまる画面を見ながら、眉間に皺を寄せながら睨んでくる。


基本的にデカいなまえの声はよく響く。



そのとき、少し後ろから「なまえさん?」って誰かがこいつを呼ぶ。


ちょうどゲームに負けたなまえと俺は、その声の方へと振り返る。



そこにいたのは、いつかの喫茶店の店員と・・・・・・




「れ、」


零。

思わずその名前を呼びそうになったなまえの口を片手で塞ぐ。


少し後ろに並んでいたのは、キャップを被った私服姿の零とメガネ姿のあの女店員。捜査の一環というわけでもなさそうだけど、さすがにここでその名前を呼ぶのはまずいだろう。



零達に近付くと、なまえはさっきまでの不機嫌が嘘みたいに悪戯っぽく笑う。揶揄うネタを見つけた、と言わんばかりに零の腕を引いた。



「安室さん=I梓さんとこんなところにいるってことはもしかしてデートですか?」
「違いますよ。今日はエアコンの修理をするのでポアロが臨時休業なんです。それでマスターにここのチケットをもらって2人で行ってこいと」
「へぇ、じゃあやっぱりデートってことだ♪ 」


わざとらしく安室≠フ名前を強調するなまえと、それを笑いながらも冷たい目で睨む零。まぁなまえがそんなの気にするわけもなくて、梓とかいう女店員も加わり盛り上がる3人。


女2人がわいわいと話していると、その輪から零が外れ俺の方へと近付いてくる。




「・・・・・・お前達がこの展示会に興味があるとは思えないんだが。もしかしてキッド狙いか?」
「まさか。コソ泥に興味はねェよ。たまたまなまえがここのチケット貰ったから来ただけ。お前こそマジでデートなわけ?」


口元に笑みを浮かべながら揶揄うと、零に「お前までバカなことを言うな」と一蹴される。



まぁそりゃそうか。こいつがそんな浮ついたことするとは思えねェし、キッドに公安が絡むこともないだろう。



となれば、居合わせたのはホントにただの偶然。


自然と4人で並ぶ流れになり、他愛もない話をしていると今度は足元からこういう現場で聞き慣れたあの探偵ボウズの声がした。




「安室さん?それに松田刑事も!どうしてここにいるの?」
「コナン君?!キミこそどうしてここにいるんだい?」
「次郎吉おじさんに呼ばれたんだ。本当は蘭姉ちゃん達と来る予定だったんだけど、用事ができちゃったみたいでさ」



そう言えばこいつ、キッドキラーなんて巷で騒がれてたっけ。ガキ1人で並ばすのも、ってなった俺達は探偵ボウズを列の中に入れ5人で並ぶことになる。


「あの子誰なの?」
「あぁ、あの眠りの小五郎のとこで預かってるってガキだよ。よく事件現場で出会すんだけど、なかなか勘が良くて面白い奴でさ」
「小学生だよね?キッドキラーってそういえば前にテレビで見たかも、」



俺達がそんな話をしている隣で、暇つぶしがてらトランプでのカードマジックを披露していた零。相変わらず器用な奴・・・・・・ってか、そのトランプどこから持ってきたんだよなんて心の中でツッコミつつもそのマジックを眺める。


「・・・・・・はい、それで1番上のカードを捲ると・・・、」
「すごい!ハートのエースだ!!どうやったんですか?」
「慣れたら簡単ですよ、これくらい」
「さすが安室さん♪ 本物の奇術師みたいですね!キッドみたい!」


よくあるカードマジック。女店員はそのマジックに驚いて感嘆の声を上げているけど、なまえはむっとした顔のまま零の持つハートのエースのカードを凝視している。


「もう1回やって!そしたらタネ分かる気がする!」
「ははっ、なまえさんには無理じゃないですかねぇ」
「なっ、無理じゃないし!今度は私がカードきる!!」


何かと負けず嫌いななまえだけど、昔から零相手だとそれが特に顕著だった。いつもは止めに入る諸伏もいないこの状況では、まぁそりゃこうなるわな。


2回目のマジックでもタネを見破ることが出来ず悔しがるなまえ。近くにいたバケットハットを被った男がなまえに近付く。



「お嬢さん、そんなに悔しがることはないさ。大昔からやられているこんな子供だましで」


そう言うとその男は零の持っていたカードを手に取り、さらさらとマジックのタネを暴いていく。



「こんなんで勝った気になってんなら・・・・・・痛い目に遭うぜ?・・・・・・・・・名探偵!」


男がそう言うと、トランプは真っ白な鳩に変わり空へと羽ばたいていく。気が付くと近くにその男の姿もない。


最後の一言は、俺や零に向けられたものじゃない。あいつの視線はたしかに俺達よりも下、あの探偵ボウズへと向けられていた。



「さっきの人何だったの・・・?」
「多分、怪盗キッドだと思うよ。キッドキラーって呼ばれているボクを挑発しに来たんだと思う」


探偵ボウズのその言葉に、眉をぴくりと動かしたのは零だった。腰を屈め、探偵ボウズに視線を合わせた零が口を開く。


「さっきの男が怪盗キッドだというのは本当なのかい?」
「あ、うん・・・。た、多分?」


ヘラヘラとした愛想笑いじゃなくて、どこか冷たさを孕む零の笑み。おいおい、ガキ相手になにやってんだよ、あいつ。



・・・・・・子供だましって言われたの、絶対根に持ってるだろ。



そんな状態の零を煽るのがなまえだ。



「まぁでもやっぱり怪盗キッドには安室さんも勝てないってことだよね」
「なるほど、そこまで言われるとは心外ですね」
「キッドの方がすごいってことでしょ?さすがだなぁ、怪盗キッド♪ 」


べーっと赤い舌を出して零を揶揄うなまえ。


するとどこかに零が電話をかけ始める。


「風見か?」

「降谷だが、たしか君は今日非番だったよな?」

「悪いがフェスはまた次の機会にしてくれ」

「今すぐ僕に合流しろと言っているんだ!!」





風見ってたしか公安の・・・。


思わずこぼれた呆れたようなため息。貴重な休みを潰されたであろう、零の部下に心の底から同情したのは言うまでもない。

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