番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


それから気が付くと松田くんを目で追う日が続いた。周りの友達達に相談すれば、みんな私の背中を押してくれる。


表立って女の子に囲まれる萩原くんほどではなくても、松田くんに想いを寄せる女の子がいることは知っていた。


あの日から、会えば挨拶をするし授業が被れば他愛もない話はする。飲み会の時は、女の子に挟まれた萩原くんの隣から逃げるように座敷の隅の席に移動した松田くんと話したこともあった。


知り合い以上、友達未満。


多分、名前を付けるならそんな関係。



気が付くとそんな関係のまま月日だけが流れていった。







ある日の昼下がり。中庭にはたくさんの生徒達がいて、その中で自然と視線が向いたのは女の子と話す萩原くんだった。


その隣に松田くんの姿はなくて、そういえば朝の授業もいなかったっけ。私の視線の先に気付いた友達が、「今日は萩原だけなんだね」なんて言いながら、食べかけのサンドイッチを口に運んだ。






「萩原!!」


辺りに響いたのは、少し高い女の子の声。萩原くんの周りにいる女の子の甘ったるいものとは違うそれは、校舎から出てきたみょうじさんのものだった。



「なまえ?どうしたんだよ、ンな怖い顔して」
「・・・・・・ちょっと付き合って」


多分、同じ学年で1番目立つ男の子が萩原くんだとしたら、女の子はみょうじさんだと思う。


直接話したことはないけれど、彼女の存在は私でも知っていた。それこそ入学した頃から有名だったから。



絵に書いたみたいに綺麗で可愛いお姫様みたいな女の子。作り物みたいに整った容姿と、小柄だけどスタイルだっていい彼女は周りの視線を自然と集める存在で。ツンとしていて周りを寄せ付けない雰囲気も相まって、特別感なんてものを持つ人だと思う。



ざわざわと騒がしくなる周りの生徒達。萩原くんの取り巻きの女の子は顔を顰めたけど、みょうじさんがひと睨みすればすっと視線を逸らし黙り込む。



萩原くんの腕を引くみょうじさんの長い髪が風に揺れる。



「あの2人って何だかんだ仲良いよね」
「同じ高校なんだっけ?やっぱり付き合ってんのかな?」


騒がしくなるのは私の友達も例外ではないみたいだ。


そっか、あの2人って同じ高校だったんだよね。みょうじさんは、めちゃくちゃモテるのに男嫌いって有名で。入学してから告白しては玉砕した人の数は両手ではおさまらないらしい。



そんなみょうじさんが唯一、砕けた口調で親しげに話すのが萩原くんだった。仲がいい・・・、って言っていいのかは分からないけど、多分他の男の子とは違う何かが2人の間には存在しているから。



だから私もみょうじさんは、萩原くんが好きなのかなって思ってたんだ。







次の日、友達と一緒に講義室に入るといつもと少し雰囲気が違ってみんなどこか落ち着きがない。



その理由に気付くのに時間はかからなかった。



「席、他にも空いてるだろ」
「松田の隣がいいもん」
「・・・・・・あっそ」


講義室の真ん中より少し後ろの方の席。並び座るのは、松田くんとみょうじさん。


不機嫌そうな顔で肘をつきながらため息をつく松田くんと、今までに見たことないくらいに楽しそうに笑うみょうじさんに思わず講義室の入口で足が床に縫い付けられたみたいに固まって動かない。



何で?みょうじさんと仲が良かったのは萩原くんでしょ?ううん、違う。今だって松田くんと彼女が仲が良さそうには見えない。でもそこにあるのは、萩原くんとはまた違った形の特別≠ナ。



聞きたくない。見たくない。


だってみょうじさんの視線が、声が、雰囲気が。その全てが松田くんへの気持ちを物語っているから。



それなのに私が座ったのは、2人から少しだけ離れた斜め後ろの席。心配そうに私を見る友達に曖昧な笑みを返して、携帯を触るふりをする。




「なぁ」

机に伏せていた松田くんが、少しだけ顔を上げてみょうじさんを見た。



心臓がうるさい。携帯を握る手に無意識に力が入る。




「何?」
「お前って俺のどこがそんなに好きなワケ?」


ひゅっと喉が締め付けられたみたいに上手く息が出来なくて。



昨日や今日のことじゃない。それはきっと随分と昔から2人の間にあったであろう感情。




「全部」
「何だそれ、適当かよ」
「適当じゃないよ!ホントに全部だもん!松田の全部が私は昔から大好きだも・・・っ・・・んんっ・・・「っ、声でけェよ!バカか!」


恥ずかしげもなくはっきりとそう言い切ったみょうじさんの口を慌てて塞ぐ松田くん。


私がずっと言えなかった気持ちを、目の前の彼女はさらりと口にしてしまう。



「みょうじさんって萩原くんと仲良いから、てっきりそっち狙いだと思ってた」


ぽつりと呟いたのは私の友達。その言葉に振り返ったみょうじさんから刺すような視線が飛んでくる。


一瞬だけ、彼女の大きな瞳が私を視界に捉えたような気がした。



「おい、そうやってすぐ周り睨むのやめろ」
「・・・・・・っ・・・、」
「ンだよ、変な顔して」


そんなみょうじさんの頭を軽く叩き、その手で彼女の頭を掴むとそのまま前を向かせたのは隣にいた松田くんだった。


親しげなやり取り。視線が逸らされる寸前、みょうじさんの大きな瞳がゆらりと揺れた。




「大好き!!!」
「マジで意味わかんねェ奴」



呆れたみたいに笑いながら、そう言った松田くんの表情が今まで見た彼のどの姿とも違っていて。



ちりちりと胸の奥で何かが焦げ付くような感覚。その後の授業なんて少しも頭に入ってこなくて。斜め前に座る2人の後ろ姿から目が逸らせなかったんだ。

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