番外編 ゼラニウム | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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▽ 1-1


※ FILE 1087話のネタバレ、内容の改変を含むので苦手な方はご注意ください。



あーーーー、もう限界!!!!!



周りのクラスメイトの騒がしい声も、ホームルームを終え帰路に着く他のクラスの生徒の声も、全ての雑音が癇に障る。



この日は朝から先生からの呼び出しや、移動教室が続いていて松田に会いにいくことが出来ずにいた。おかげで私のイライラは最高潮。普段は何かと声を掛けてくる取り巻き達も機嫌の悪さを察して遠巻きに私の様子を伺っていた。




気が付けば、放課後で・・・・・・。




「・・・・・・最悪だ、」
「今日はいつにも増して機嫌悪ぃな」


机に突っ伏しながらぽつりと呟いた独り言。そんな私の耳に入ってきたのは、これまたイライラを煽る男の声。


首だけを横に向け、ジト目でそいつを睨む。



「うっさい。今は萩原の顔なんて見たくない」
「ははっ、じゃあいつもは見たいって思ってくれてるってこと?」
「・・・・・・・はぁ、」
「ため息だけはさすがの俺でも傷付くなぁ」


嘘つき。
1ミリだって気にしてないくせに。


「まぁ今日は色々バタついてて陣平ちゃんに会えてねぇもんな、なまえ」
「分かってるなら言うな、バカ」


ヘラヘラといつも通り笑う萩原とこれ以上問答をする気にもなれなくて、ポケットから取りだした携帯で時間を確認する。



もう少しで運動部の部活が始まる時間だ。


最近の松田は、インターハイに向けてボクシングの練習に一生懸命で放課後になるとすぐに練習に向かってしまう。


ただでさえクラスが違うから会える時間は限られてるわけで、練習が始まるまでの僅かな時間まで取り上げられたら今度こそ私は松田不足で死んじゃうと思う。



さっさと担任帰ってこいよ、まじで。


なかなか職員室から戻ってこない担任にイライラしていると、萩原は私と同じように机に肘をつきながら口を開いた。



「まぁでも今日はさすがに練習ねぇと思うし、一緒に帰れんじゃね?」
「・・・・・・は?何で?」


予想していなかった言葉に、携帯を触っていた手が止まる。


練習が休み?
ううん、そんなはずない。


部活が休みでもさっさと家に帰って練習するような奴だもん。



「あー、なんつーか怪我?昨日ちょっと色々あってさ、」
「っ、何それ!怪我ってどういうこと?松田は大丈夫なの?!」


ガタン!と勢いよく立ち上がったせいで椅子が音を立てる。私の大声にクラスメイトの視線が集まるけど、そんなの今はどうでもいい。


萩原の腕を掴むと、捲し立てるみたいに言葉の続きを急かした。



「大丈夫だよ、落ち着けって。ちょっと手怪我して何針か縫っただけだから」
「・・・っ、縫うって・・・、ちょっとじゃないじゃん!!松田のとこ行ってくるから先生には適当に誤魔化しといて!!!」


呑気にホームルームなんか受けてる場合じゃない。机の横に引っ掛けていた鞄を掴むと、そのまま教室を飛び出す。


松田のクラスを覗くとすでにもう生徒は疎らであいつの姿はない。


そのまま靴箱に走り、松田の名前が書かれている場所を確認するとそこには室内用のスリッパが入っていてすでにあいつが帰ったあとだってことを教えてくれる。



その時、ちょうど隣にやってきたのは松田と同じクラスの男子生徒。自分の靴箱からローファーを取り出しながらそいつらに声をかける。



「ねぇ、松田がいつ帰ったか分かる?」
「え、みょうじさん!」
「やば!みょうじさんに話しかけられるとかレアすぎね?」
「ごちゃごちゃうるさい。さっさと答えて!」
「あぁ、ごめんごめん。松田ならちょっと前に帰ったよ。怪我のせいで練習できねぇからって」
「っ、」


それだけ聞ければ十分だ。惚けたみたいな顔をしたそいつらを無視してローファーを履くとそのまま校舎を飛び出した。






ぐるぐると包帯の巻かれた右手を見ながら、はぁと小さくため息をつく。



大袈裟に巻いてくれたもんだぜ、ホント。


公園のベンチに腰掛けながら、オレンジ色に照らされた空を見上げながら昨日のことを思い返す。



考えるよりも先に体が動いていた。
別に後悔はしてねェし、多分あの場にいたのが誰であっても同じ行動をとっていたと思う。



病院で処置を終えて包帯でぐるぐる巻きにされた右手を見た時。最初に頭に浮かんだのは、あの我儘女の顔だった。


こんな手見たらあのバカが大袈裟に騒ぎそうだなって。そんな考えがふと頭に過ぎったんだ。



「・・・・・・っ、松田!!!!!」


静かだった公園に響いたデカい声。


突然名前を呼ばれ、ぎょっとして公園の入口を見れば少しだけ息を切らしたみょうじがいた。



そのまま隣にやって来たみょうじ。俺の右手を見るなり、その整った顔がぐにゃりと歪む。



「萩原に昨日怪我したって聞いて・・・っ・・・、ボクシングの練習も無理ってクラスの奴も言ってたから・・・っ、大怪我でもしたのかって・・・、包帯まみれだし・・・っ・・・」


震える手で俺の腕を掴むみょうじは、言葉を詰まらせながら今にも泣きそうだった。


別にお前が怪我したわけじゃねェだろ。
そう思うのに、何となくその手を振り払う気になれなくて。



「落ち着け、バカ。包帯まみれって怪我したの右手だけだし、大したことねェよ」
「っ、でも・・・」
「まぁさすがにしばらく練習は出来ねェし、インターハイは無理だろうけど」


悔しい気持ちがないわけじゃない。
まぁでもそれも仕方ねェだろ。過ぎたことをあれこれ考えても時間がもったいない。



何があったのかをみょうじに聞かれ、昨日のことを話せば泣きそうだった顔に怒りの色が浮かぶ。



「っ、バカじゃないの!!!!どうせ千速さんの前だったからカッコつけたんでしょ?!ホントありえない!!!」


昔からこいつの中の地雷は変わらない。


この女が1番嫌うのは俺の周りにいる女=Bその中でも千速の存在は、多分こいつの中で特大もんの地雷なんだろう。


まぁそりゃ馬鹿正直に話したから、こうなるわな。




「うっせーよ。別にカッコつけたとかじゃねェし」
「だったら他にも止め方あったでしょ?てかその女も男にフラれたくらいで死のうとするとかバカじゃない?死ぬ気があるならもっと出来ることあるし!!松田も松田だよ!!そのせいであんなに練習してたのにインターハイ棒に振るなんて・・・っ、」
「咄嗟にアレしか思いつかなかったンだよ」
「だからって・・・っ、」



まぁみょうじの言うことは最もだと思う。

自分で死のうとするなんて、ダセェなって思うし目の前でそんなことをしようとしている人間を見逃せるはずもない。



別に俺の怪我くらいで止められたなら安いもんだって思うのに。




「・・・・・・っ、・・・」
「・・・・・・なんでお前が泣くンだよ」


怒鳴り散らしていたみょうじの言葉が途切れる。怒りに染まっていた瞳から、ぼろぼろと溢れる大粒の涙。


俺の腕をぎゅっと掴んだまま涙を流すこいつを見ていたら、胸の奥がきりきりと締め付けられるみたいな痛みを覚えた。




「・・・・・・・・・私は、」


涙でいっぱいの瞳がキッと睨むように俺を見る。






「松田が怪我するのは嫌。他の奴らなんてどうでもいい。松田だけは傷付いて欲しくないし、そんなの勇敢でもなんでもないもん」
「相変わらず極端なンだよ、お前の考え方は」
「極端でもなんでもいい!誰だって好きな人が怪我するとこなんて見たくないに決まってるじゃん!!!」


瞳の縁に溜まっていた涙が、またぽたりと頬を伝い俺の膝の上に落ちた。


俺以外の人間をどうでもいいってはっきりと切り捨てるこいつの考えは、多分正しいってわけじゃないと思う。みょうじのこういう周りの人間を思いやれないところが昔から苦手だったし、俺を最優先にするところにも正直うんざりしてたはずなのに。



















「・・・・・・悪かったよ、心配かけて」
「っ、」
「もう無茶はしねェ・・・・・・、ようにする。だから泣きやめ」




左手の制服の袖で乱暴に流れる涙を拭う。


普段はバカみたいに気が強くて、涙なんてみせないくせに。俺のことになるとこうして涙を流す変な奴。


不思議と嫌な気はしなくて、むしろ・・・・・・、







「・・・・・・ボクシングの練習ないならしばらく放課後暇だよね?」



ずずっと鼻を啜りながら、涙目で俺を睨むみょうじ。こいつ今俺の袖で鼻水拭きやがったな。


俺の腕を両手で持ったまま、大きな瞳がゆらゆらと揺れる。



「暇っちゃ暇だけど、」
「その間、一緒に帰ってくれるなら許す」


いつの間にかみょうじのペースに飲み込まれていく。

こいつが許す、許さねェなんてどうでもいいはずなのに。


これ以上泣かせたくないなんて、らしくもないことを考えちまうんだ。



「分かったよ。帰るだけだからな」
「っ、ホント?!萩原なしでもいいの?!」
「それは萩に言えよ。てか泣き止んだなら腕離せ」
「ヤダ!!!離したくないもん!!ただでさえ今日は松田に会えなくて寂しくて死にそうだったんだよ?!」
「ンなことで死ぬかよ、バーカ」



泣き止んだ途端、いつもみたいにギャーギャーうるさいみょうじを見ていたら、いつの間にか俺もつられて声がデカくなる。


こんな日もたまにはありか。


腕にしがみつきなから、「明日の帰りにどこ行く?」なんてアホなことを言ってるみょうじを見ながら思った。




Fin




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