番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


「ねぇ、ひとり?誰かと待ち合わせしてるの?」
「暇なら俺達とどっか行かない?」


駅前の大きな時計の下。待ち合わせ場所としてよく使われるその場所でベンチに腰かけ、陣平を待っていると目の前で立ち止まる2人の男。


「少し前からここいるよね?」
「めっちゃ可愛いなって思ってたんだ♪ 」


チャラチャラした喋り方がイラッとするし、まず私に話しかけてくること自体がムカつく。せっかくこっちは陣平とのデートが楽しみで、朝から気合い入れてきたってのにお前らにどうこう評価されるなんてそれだけでウザい。



携帯片手にガン無視を決め込んでいると、画面の上部に1通のメッセージが表示される。



『悪い、寝坊した。30分くらい遅れるからどっか入って待ってて』


それは陣平からのメッセージで。思わず携帯を持つ手に力が入る。


寝坊って・・・!!!せっかくのデートなのに!!瞬間湯沸かし器みたいに一瞬カッとなったけど、昨日も遅くまで仕事だったことは知っているから、ふぅと小さく息を吐き冷静さを取り戻す。


そんな一瞬歪んだ私の顔を見逃さなかったのは、目の前の男達だった。



「なになに、何かあったの?」
「もしかしてドタキャン?」


ヘラヘラと下卑た笑みを浮かべるそいつかが私の神経を逆撫でする。


カチン、ときた私は座ったままそいつらを睨むと思いっきり舌打ちをした。



「話しかけんな、まじで鬱陶しい。私に声かける前に鏡見てきたら?」
「うわ、性格きっつー!」
「ははっ、俺そういう子好きだよ♪ お姉さんめっちゃ可愛いし全然あり」


なんでお前らにアリかナシか判断されなきゃいけないわけ?まじでその顔でよく私に声掛けれたな、ホントありえない。



思いっきり顔を歪めながら、視線を携帯に戻すと片方の男に携帯をするりと奪われる。



「っ、何すんの?!本気でウザいんだけど!」
「お姉さんが俺らのこと無視するからじゃん」
「ねぇねぇ、待ち合わせ相手来ないんでしょ?それなら俺らでいいじゃん」


ぷつん、と自分の中で何かが切れた音がした。


ひらひらと私の顔の前で揺らされる携帯を掴み取ると、勢いよくその男を突き飛ばす。ぐらついた男の瞳に、じわりと不快感が滲むけどそんなの知ったことじゃない。



「お姉さん顔は可愛いけど、さすがに性格キツすぎない?よく言われるでしょ」
「アンタらみたいなのにどう思われたってどうでもいい。先に絡んできたのそっちでしょ?」
「さすがに男相手に女の子が噛み付くのはオススメしないよ?力じゃ勝てないわけだしさ」



私の腕を掴んだ男の指がぐっと皮膚に食い込む。そういえばいつかもこんなことあったっけ。


思い出すのは高校の修学旅行のときのこと。


あの時は陣平と萩原が助けてくれたんだった。



お昼時の駅前で。すれ違う人はたくさんいるのに、みんな私達のことなんて横目で見ながら通り過ぎていく。巻き込まれたら面倒だから。まぁそりゃそうだよね、他人なわけだし。


足でも踏んで突き飛ばして逃げようか。幸い近くに交番もあるし、その近くまで行けばこいつらだってそれ以上は追いかけてこないだろう。



チャンキーヒールのニーハイじゃなくてピンヒールでも履いてくればよかった。そしたら思いっきり踏んでやれたのに。



私が腕を掴む男の足を踏もうと片足を上げたその時、踏みつけるよりも先に視界に入ったのは風に揺れる長い髪。男と私の間に立ったその人は、軽い力でそいつの腕を捻りあげた。



「っ、痛ぇーな!!」
「ならさっさとその手を離せ。女相手に大の男が2人がかりで・・・・・、情けないな」


呆れたみたいにそう言ったその人。男の手が緩んだ隙にその手を振り払う。


捻りあげた手をとんっと離すと、男の体がぐらりと傾く。さすがに人気の多い場所でこれ以上騒ぎを起こすつもりはそいつらもないらしくて、口々に馬鹿みたいな戯言を吐きながら人混みの中へと消えていった。

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