番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 結婚前の2人のお話。最後少しだけ結婚後の2人のお話になります。息子ちゃん出てくるので、苦手な方はご注意ください。(名前変換なし)



思えば朝起きた時から何となく体がだるかったような気はする。でも今日はなまえが家に来る日だし、そのだるさに気付かないふりをして部屋の片付けを始めた。



警察学校への入校が決まってから、なまえは俺にべったりで。俺だって口には出さないけれど、寂しいと思わなくもない。だからこそあいつとの時間はなるべく大切にしていたつもりだ。



朝早くから出かけた両親。いつもより静かな家の中たったけど、昼過ぎになまえが来てその静けさは一気にどこかに消え失せる。



「松田〜!会いたかったよー!!!」
「へいへい、てか一昨日会ったばっかだろ」
「昨日会えてないもん!寂しくて死ぬかと思ったし!」


チャイムが鳴り、玄関を開けるなり飛び付いてきたなまえ。昔から変わらないキャンキャンと騒がしいその声が、今日はやけに頭に響いた。


思わず眉間に皺を寄せた俺を見て、なまえは大きな瞳を何度か瞬かせる。


擦り寄るように抱き着いてきたなまえが、小さく首を傾げながらぺたりと俺の首に触れる。



「松田、もしかして熱ある?」
「熱?さぁ、大丈夫だろ」
「いつもより何か熱いもん。体温計は?」


玄関でのそんなやり取り。背中を押されながら部屋に向かい、言われた通り体温を測ってみれば・・・・・・、



「38.7度って・・・、がっつり熱あるじゃん!!」
「だなぁ。何か朝からだりぃとは思ってたけど熱のせいか」
「だりぃなのレベルじゃないし!薬は?その前に何か食べなきゃ!!」


俺以上に大慌てのなまえ。部屋の中を行ったり来たりしているなまえを見ながら、熱のせいでぼーっとする頭の中。


ダメだ、体温計見たせいでより一層しんどくなった気がする。


さっきまでの何倍ものだるさが体に付き纏う。なまえは付き合い始めてから何度も俺の実家には来てるし、ある程度物の場所も分かってる。


「何か食べるもの作ってくるから!松田はちゃんと寝ててね!」


薬の入ってる場所を伝えると、なまえはそう言いながら部屋を出ていった。






いつもより少しだけ潤んだ瞳に気だるそうな表情。そりゃ38度超えの熱があるなら当たり前だ。


松田は昔から体調を崩すことなんて私の知ってる限りほとんどなかったから、自分の体調には無頓着で。今日だって何も言わなかったら、だりぃなの一言で全てを片付けてたと思う。


何か食べさせて、薬も飲ませて・・・・・。看病のテンプレートを頭の中に並べる。



・・・・・・何か食べさせるって私が料理するの?


勢いで立ったキッチン。やっぱり風邪の人に作るといえばお粥?お粥ってお米炊いてお湯入れるんだっけ?でもそれだけじゃ野菜とれなくない?私が風邪ひいたとき、ママが作ってくれたお粥?には野菜入ってた気がするし。


うーん、と携帯片手にキッチンで考え込む。


こういう日に限って、松田のお母さん達は明日まで帰ってこないらしい。おばさんがいるなら教えて貰って・・・ってこともできたのに頼れる人がいないのは困った。


ママは今日パートだって言ってたから電話でないだろうし、香織は私と同じくらい料理下手。とりあえず携帯でレシピ検索してやってみよう。



パーカーの袖を捲りながら【風邪 お粥 レシピ】なんて検索してみる。


別に複雑なものを作るわけじゃないし、これくらいできるだろう。そう思ったのが全ての間違いだった。


すぐ近所にあるスーパーでそれっぽい野菜や卵を買ってきて、レシピの通りに作った・・・・・・はずのお粥(仮)。


漫画でよく見るみたいな真っ黒焦げみたいなお粥でこそないけど、美味しそうとはお世辞にも言えない。野菜の大きさが疎らなせいで火の通りはバラバラ。ママが作ってくれたものより味も濃い気がする。



「・・・・・・大人しくレトルトのお粥買えばよかった」


現実を見たくなくて、出来損ないのお粥に蓋をしながらため息をつく。


こんなことならもうちょっと料理の練習しとくべきだった。後悔してみても時すでに遅し。



私だって漫画やドラマのヒロインの女の子みたいに、冷蔵庫の有り合わせとかでぱぱっと料理して「大丈夫?」って優しく看病してあげたかったのに。



マイナスに傾く気持ち。それを誤魔化すみたいにぱんっと両手で頬を軽く叩く。



「今度実家帰ったらママに教えてもらうもん!とりあえず今は松田の看病が先!」


気持ち切り替えなきゃ。財布片手にもう一度近所のスーパーに向かった。






ベッドに入ってからの記憶がない。思っていたより体は堪えていたみたいで、すぐに眠りに落ちたらしい。


部屋のドアが開く音で目が覚める。部屋に入ってきたなまえの手にはお盆があって、載せられた茶碗から立ち上るいい匂いの湯気。



「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いや、ヘーキ。お前が飯作ったのか?」
「レトルトのお粥に卵入れただけ。お粥なんて私作ったことないもん」


すました顔でそう言ったなまえはベッド脇に腰かけながら、ペットボトルの水を渡してくれる。


そういや、なまえって料理だけは昔からダメだったっけ。


「はい、あーん」
「・・・・・・自分で食えるし、」
「いいじゃん。なんかこういうの彼女っぽいし♪ 」


小さく笑いながらレンゲで掬ったお粥を冷ますなまえを見ていたら、何となく抵抗する気しなくて。


素直に口を開けると、なまえは嬉しそうにレンゲを口元に近付けてくる。


「美味しい?」
「普通。お粥って感じ」


そんな短いやり取り。お粥を食べ終えると、言われるがまま薬を飲みまた布団へと押し戻される。


顎下まで布団をかけると、なまえはそのまま食器を下げにキッチンに向かった。洗い物を終え、戻ってきたなまえはぺたりとベッド脇に座り目元にかかっていた俺の前髪をそっと払う。



「あんま近付くなよ、風邪移る」
「・・・・・自分の家帰れって思ってる?」
「思ってねェ。だいたいお前俺がそう言っても帰んねェだろ」
「ははっ、バレた?」


お前はそういう奴だから。誰もいないこの家に、体調崩してる俺を1人残して帰るなんてしない。


恋愛脳な奴だから、私が看病する!みたいな使命感もあるんだろう。でも不思議とそれが嫌じゃない。


むしろ傍にいてほしい、なんて思うんだから多分熱で頭やられてるな、これ。


ゆったりと垂れ下がるなまえの瞳を見ながら、そんなことを思った。

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