番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


大学時代の懐かしいメンツが集まる飲み会。


久しぶりの再会ということもあって、わいわいと盛り上がる飲みの席。萩に引き摺られて男連中に囲まれた俺と、少し離れた場所で仲良かった女友達と話すなまえ。


いい感じに酒の入った奴らが揶揄うみたいに俺の肩に腕を回す。



「にしてもマジでなまえちゃんとお前が結婚するとはなぁ。大学の頃はあんなにツンツンしてたくせに」
「分かる。まぁでもあんな可愛い子に迫られたらそりゃ落ちねぇ男はいねぇよな」


左右から聞こえてくる戯言を軽く流しながら目の前のビールを煽る。


別に顔で選んだわけじゃねェし。


酒のせいでそんなことを口走りそうになりつつも、ちらりとなまえの方を見ればあいつはあいつで女連中にあれこれ俺とのことを聞かれているらしい。


元々こういう集まりが好きじゃないなまえ。それなりに付き合いってもんをするようにはなったけど、しつこく絡まれるのは大嫌いな奴だから徐々にその表情に面倒くささが滲む。



分かりやすいその反応がおかしくて、気が付くと口の端に笑みが浮かぶ。


残っていたハイボールを飲み干したのを合図に立ち上がったなまえは少しだけふらつきながら、俺の隣にやって来てぺたりと座り込む。


酒のせいで赤らんだ頬と潤んだ瞳。甘えるみたいに腕に絡みつきながら俺の名前を呼ぶなまえに周りの男連中が騒がしくなる。


「飲み過ぎだろ。とりあえず水飲め」
「・・・・・・そんなに飲んでないもん。じんぺー怒ってる?」
「別に怒ってねェよ。ほら、」
「ん、ありがと。好き〜」


息をするみたいになまえは気持ちを言葉にするから。

周りに人がいてもいなくても、こいつの中でそれは関係ない。


へにゃりと笑いながら受け取った水をこくこくと飲む姿が可愛いなんて思う日がくるなんて、たしかに昔の俺に言っても信じねェだろうな。



その時、近くにいた奴がなまえに話を振る。



「なまえちゃんって子供の頃からずっと松田のこと好きだったってマジ?」
「・・・・・・だったらなんか文句ある?」
「他の男と遊んだりとか1回もなかったわけ?付き合い始めたのだって大学の頃からだろ?それまでの間とかさ!」


相変わらず男に話しかけられるのは嫌いな奴だから。


グラスを机に置いたなまえは、俺の腕に頭を寄せながらそいつをジト目で睨む。


いつの間にか近くにいた奴らの興味はなまえに集まっていた。



「ない。陣平以外なんて興味ないもん。他の男なんかと遊ぶ暇あるなら、陣平と一緒にいたかったし」


ハッキリとそう言いきったなまえに、胸の奥の何かが満足気に喉を鳴らしたような気がした。


「それこそ萩原ともずっと一緒なわけだろ?グラッときたりなかったの?」


また別の奴が、揶揄うみたいに笑いながら言葉を続ける。


あーあ、それは多分なまえの中で地雷だ。


その言葉を聞いた萩は、ケラケラと笑いながら目の前の酒に手を伸ばす。



「・・・・・・はぁ?萩原なんて絶対ありえない。マジで無理!」
「ははっ、相変わらず辛辣だねぇ」


思いっきり顔を顰めたなまえを見ても、萩が笑顔を崩すことはない。仲がいいとは言えないけれど、この2人の間にはたしかな繋がりがあるのは事実。


ただそれが色恋沙汰なんてもんとは無縁なことは、誰よりも近くにいた俺が1番知っていた。



「でも俺がなまえちゃんの顔なら絶対男誑かして遊んじゃうよなぁ」
「・・・・・・趣味悪い。好きな人以外なんてどうでもいいでしょ」
「せっかくの人生じゃん。1人の男しか知らないなんて勿体ないと思わねぇ?」


萩の隣にいた奴が、片肘をつきながらそんなことを言う。



その言葉に思わず唐揚げに伸ばしかけていた箸が止まる。



正直、俺もそれを考えたことがなかったわけじゃないから。



なまえはガキの頃からずっと俺のことが好きだった。


何百、何千回って好きだって言われてきたし行動でもそれを示してくれていた。今更こいつの気持ちを疑うことはないし、俺だってなまえ以外は考えられない。


でも俺以外≠知らないまま俺と結婚したなまえを見ていると、たまに不安になることもある。



こいつはそれで幸せだったのかって。



聞いたところで返ってくる言葉なんて分かっていたから、なまえにそれを尋ねたことはなかったけれど。




俺の腕に絡んでいたなまえの腕に力が入る。指先が触れたと思うと、ぎゅっと俺の手を握るなまえ。




「思わない。陣平が隣にいてくれる今より幸せなことなんかないもん」



静かに、でもはっきりと。真っ直ぐにそいつを睨みながらそう言ったなまえは不機嫌そうに顔を顰める。



「でもそう思うのだって松田しか知らねぇからじゃね?」
「そうだったとしても、それが何?もしも、本当にもしも今より幸せな未来があったとしても、そこに陣平がいないなら私はそんな幸せ知りたくもないし1ミリだって欲しくない」



・・・・・・・・・本当に、なんでこいつはこうもストレートに言葉を紡ぐんだろう。


気が付くと触れていた手を握っていたのは、俺も同じで。机の下で繋がれた手に力が入った。



僅かにピリついた空気。周りの奴らが何というべきか考えあぐねている中、口を開いたのは萩だった。




「まぁなまえみたいにクセある奴の相手できるのは陣平ちゃんくらいだしなぁ♪ ほら、まだ酒残ってるし飲もうぜ!」


あっという間に空気が和らぐ。話が一段落したこともあり、周りの奴らの興味もなまえから別のものへと移る。


「ちょっと煙草吸ってくる」
「っ、私も行く!」


机の上に置いていた煙草を手に取り立ち上がる。隣にいたなまえも慌てて追いかけてきた。






お店の外にある喫煙所。地面に置かれた昔ながらの缶の灰皿の傍にしゃがみこむ陣平の隣に同じように座り込む。


すっと吹き抜ける冷たい風に、さっきまでの酔いが少しだけ和らいでいく。



「煙いくから中で待ってろよ」
「やだ。一緒にいたいもん」


私にかからないように顔を背けて白い煙を吐き出す陣平。長い指に挟まれた煙草、灰を落とすその仕草ひとつすらカッコいいなって胸がきゅんとなる。


誰もいない喫煙所。少し向こうに店の中の賑わう声が聞こえてくる。



少し強く吹いた冷たい風に、無意識に肩をすくめる。アウターも羽織らずに出てきちゃったから、さすがに寒いかも。


いよいよ本格的に冬だよなぁなんて思っていると、不意に隣から伸びた腕に引き寄せられてぐらりと体が傾く。



「・・・・・・陣平?」
「引っ付いてりゃ多少はマシだろ。てか上着くらい持ってこい、バカ」


口の端に煙草を咥えたまま、ぽつりと呟くその横顔に一気に心臓の音がはやくなる。



好き、大好き。


少しでも口を開けば、そんな気持ちが溢れ出す。



ぎゅっと陣平の腕に抱きついてみても、その腕は振り払われることはない。




「ねぇ、陣平」
「・・・・・・ンだよ」
「大好き。さっきも言ったけど、陣平と一緒にいることより幸せなことなんて私にはないから!」
「・・・っ、」
「だいたいさっきの奴まじで意味わかんなくない?まじでウザい!陣平もそう思わな・・・っ、」


言葉にするとふつふつと込み上げていたさっきの男への怒り。けれど最後まで言葉を紡ぐより前に、こつんと陣平のおでこが私のおでこに触れる。


至近距離で交わった視線に、一気に頬に熱が集まる。



「・・・・・・っ、」
「・・・・・俺も好きだから、お前のこと」


重なった唇からは、ほんのりと煙草の香りがして心臓をきゅっと掴まれたような気がした。




「・・・・・・煙草くさい、」
「嫌?」
「んーん、もう1回したいなって思った」



やっぱり今≠謔闕Kせな未来なんでありえないって心の底から思うんだよ。



Fin


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