番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 本編後、結婚した2人に子供がいる if のお話です。苦手な方はご注意ください。(子供の名前変換なし)



「風邪だな、完全に」
「ママ しんどい? おねつ?」


ベッドに横になったままのなまえから渡された体温計を見ると、38.2℃と表示されていて完全に夏風邪だ。


ベッドにのぼりながら、心配そうになまえの額に触れる蓮の小さな手。そんな蓮の頭を撫でながら、なまえは掠れた声で「大丈夫」だと言う。


少しも大丈夫じゃねェくせに。


幸い、俺は休みだし蓮は幼稚園に行く日だ。このままゆっくり休ませて・・・、なんて考えているとなまえは起き上がろうと体を動かす。



「バカ、寝てろって。熱上がンぞ」
「・・・っ、ごほ・・・、ご飯と蓮の幼稚園の用意しなきゃ・・・、」
「俺やるからお前は大人しく寝てろ。分かったか?」
「でも、」


なまえの肩をベッドに押すと、はだけていた布団を肩までかける。


「蓮、向こう行くぞ」
「ママは?だいじょうぶ?」
「ママは今日はお休みの日だ。とりあえず朝飯食って幼稚園の用意すんぞ」


ベッドの上で座り込んでた蓮を抱き上げ、くしゃりと頭を撫でる。



リビングに向かい、蓮をソファにおろすと朝飯の用意とためにキッチンへと向かう。


米は・・・、冷凍してあるやつがあるからそれ使うか。あとなんだ?卵でも焼くか?冷蔵庫を開けて中を確認していると、リビングのテレビから流れ始めるアニメ。もぞもぞと着替えていた蓮の手が止まる。


「蓮!今はテレビの時間じゃねェぞ」
「パパ!見て見て!新しいの出てる!」


テレビに夢中の蓮は、俺の言葉なんて聞いちゃいなくてテレビに出てくる動物のキャラクターを指さしながら音楽に合わせてゆらゆらと体を揺らす。


時計を見ると、7時半を過ぎたところ。あと30分ちょいで家を出なきゃ遅刻だ。


冷凍されてた米を電子レンジに放り込むと、そんな蓮に近付き手を掴む。


「ほら、靴下履くぞ。足貸して」
「・・・・・アンパンマンのやつじゃない」
「あー?何だそれ、あ、ここの絵か?」
「うん。 きのうは しょくぱんまんだったから、きょうはやったーのあんぱんまんがいい」
「やったーのアンパンマンって何だそれ・・・」


何だよ、その謎のこだわり。靴下のワンポイント刺繍が気に入らないのか、じたばたと足を動かして嫌がる蓮。


靴下を諦め、制服のシャツを着せていると寝室のドアが開く。


振り返ると蓮の靴下片手にドアにもたれるなまえがいて。



「・・・・・蓮。アンパンマン持ってきたからこれ履こ?」
「うん!おかおだけのやつ?」
「んーん、やったーってしてるアンパンマン」
「かっこいいやつだ!」


なまえに駆け寄った蓮は、靴下を受け取り座り込みながらすんなりとそれを履く。


小さな手でシャツのボタンを一生懸命止める蓮を横目に、なまえに近付く。



「幼稚園バックは昨日用意してるから・・・、あと朝ごはんアンパンマンのプレートで出してあげて?そしたらすんなり食べると思う」
「ん、分かった。しんどいのに悪ぃ」
「・・・っ、こほ!ううん、せっかくの休みなのに私の方こそごめん」
「ンなこと気にしなくていいんだよ。とりあえず向こうで寝てろ。蓮送ったら薬とか飯とか用意するから」
「ありがと、」


申し訳なさそうに眉を下げてそう言うと、寝室に戻ったなまえ。なんとか蓮の着替えが終わり、言われた通りアンパンマンのプレートを取り出し解凍し終わった米で小さめのおにぎりを握る。


あとは適当に果物でも切って、昨日の残りの野菜とかスクランブルエッグでいいだろ。


椅子に座った蓮の前にアンパンマンのプレートを出し、食べているのを横目で見ながら自分の着替えも済ませる。


「ごちそうさまでした」

ぱちん、と手を合わせた蓮。時間は8時を過ぎでいて、急いで皿を流しに放り込む。


シンクの中は洗い物がたまっているけど、今やってる時間はねェしあと回しだ。



「よし、蓮。幼稚園行くぞ」
「パパのくるま?」
「おう。忘れもんねェか?」


紺色の帽子を被せ、その小さな手を繋ぎ駐車場へと向かう。


まぁその後もすんなりとは中々いかなくて。いつもとは違う行動のせいか、幼稚園に着くと「行きたくない」とぐずり始めた蓮。


先生達に宥められながら、なんとか無事に園内に入っていく背中を見送り車に戻ると無意識にはぁとため息がこぼれた。



朝の用意ひとつでこんなに大変なもんなのか?


それをなまえはいつも文句ひとつ言わずこなしているわけで。蓮の世話だけでもあいつの手を借りねェと出来ない俺とは違って、なまえは俺の分の飯の用意やスーツの準備までやってくれていた。



「・・・・・・まじですげェよな、それって」


あまりに当たり前みたいにやってくれてたから気付かなかったけど、きっとそれは当たり前なんかじゃなくて。


車のキーを捻りながら、そんなことを思った。





スーパーで買い物を済ませ、家に帰ると散らかったキッチンに出迎えられる。とりあえず洗い物してなまえの飯作るか。



しばらくして出来たお粥と風邪薬、それと冷えピタを手に寝室のドアを開ける。



「・・・・・・ん、」
「悪い、起こしたか?」
「大丈夫・・・、蓮は?」
「幼稚園送ってった。飯作ったからちょっとだけでも食えるか?」


ベッド脇に腰掛けながら尋ねると、こくこくと頷くなまえ。熱のせいで潤んだ瞳がじっと俺を見る。


サイドボードの上に粥ののった盆を置くと、冷えピタのフィルムを剥がす。


なまえの前髪をあげると、そのまま冷えピタを額に貼る。



「っ、冷た・・・」
「熱あるからな。ほら、食えるか?」
「食べさせてくれないの?」


甘えるみたいに、小さく口を開けるなまえ。ガキみたいなその仕草が可愛くて、呆れたような笑みがこぼれた。






ゆらゆらと湯気の立ち上るお粥を少しだけ掬って私の口元に近付けてくれる陣平。自分から言ったものの、すんなりと聞き入れてくれると思わなかったから。



「ンだよ、」
「ホントに食べさせてくれると思わなかったから」
「うっせ。ほら、さっさと食って薬飲んで寝ろ」


恥ずかしそうに視線を逸らす陣平が可愛くて、胸の奥がきゅんと締め付けられた。


結局、何だかんだ言いながらも最後までお粥を食べさせてくれた陣平は優しいなって思う。渡された風邪薬を飲み、布団に横になる。


蓮がいない2人だけの時間は久しぶりで、熱のせいもあってかいつもより甘えたくて仕方ない気分。立ち上がろうとした陣平の手を思わず掴んでしまう。


しばしの沈黙。交わったままの視線。陣平は何も言わず、ベッドの脇に座り直した。



「さっさと寝ろ。寝るまでここいるから」


言葉にしなくても、伝わる気持ちが嬉しいなって思った。

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