番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


わいわいと盛り上がる同窓会。陣平と結婚したことを話せば、半泣きで喜んでくれるかつてのオトモダチ£B。


その言葉にきっと嘘はなくて。もしかしたら私の周りには、ちゃんと友達≠ェいたのかもしれないって少しだけ思った。


しばらく懐かしい面々との会話を楽しんだ後、喫煙所から出てきた陣平を見つけ駆け寄った。


気が付くともう少しで一次会も終わりだ。二次会は駅前の居酒屋らしい。


「二次会行ってきてもいいよ?車貸してくれたら、私が蓮のこと迎えに行っとくし」


昔の私なら、陣平1人でそんな場所に行かせるなんて絶対に嫌だった。でも今は違う。懐かしさを楽しむ気持ちも少しは理解出来るようになったから。


会場に戻るまでの道すがら。いつもみたいに陣平の腕に自分の腕を絡めて歩く。振りほどかれることのない腕が幸せだなって、自然と頬が緩んだ。


「何で?俺も一次会で帰るし。一緒に迎えに行く」
「だって萩原以外と会うの久しぶりじゃん」
「それはお前も同じだろ。てかせっかく仕事休みだから、夜くらい蓮といてやりてェし」


当たり前のように、陣平がさらりとそう言うから胸の奥がきゅっと締め付けられる。


そんな私の胸の内を見透かすみたいに、悪戯っぽく口の端に笑みを浮かべた陣平は「あと、お前ともな」って付け足す。


何年経ってもその笑顔は、私の心臓の音を加速させる唯一のものだから。









「みょうじさん」


そんな幸せな気持ちが、背後から呼ばれたその声によって一気に暗転する。


振り返らなくても、その声の持ち主のことなんて忘れるはずがない。


隣の陣平が足を止めたもんだから自然と私の足も止まる。



「松田も、久しぶり」
「おう、久し・・・「どの面下げて声掛けてきてんの?」


あまりにも陣平が普通に挨拶を返そうとしたもんだから、思わずその言葉を遮る。


振り返り1歩前にでると、そこにいたのはあの頃より少しだけ髪が伸びた松野さんだった。



「なまえ、やめろって」
「うるさい。陣平は黙ってて」


私の腕を引き、止めようとした陣平を小さく睨む。


大学の頃に、松野さんと陣平がたまたま再会した話は聞いた。彼女があの日のことをずっと後悔していて、陣平に全てを話して謝ったって。


でも正直私からすれば、あの時の言葉は「はい、そうですか」って許せるものじゃないから。


神妙な顔で俯く松野さん。その右手の薬指には、ピンクゴールドの指輪が光っていて。きっと無意識なんだろう。彼女の手がその指輪に触れる。



「・・・・・・あの時のこと、ずっとみょうじさんにも謝りたくて。本当にごめんさい・・・っ、」


震える声でそう言う松野さんは、あの頃の勝気な彼女が嘘みたいに小さく思えた。


陣平が言うみたいにきっとずっと後悔していたんだろう。












「その指輪、」
「え?」
「彼氏とかいるの?」


松野さんの視線が右手の指輪に向けられる。私の隣にいた陣平は何も言わず、私達のやり取りを見ていた。


少しの沈黙の後、小さく頷いた松野さんは「もうすぐ結婚するの」と呟いた、その一瞬だけ、彼女の纏う空気が和らぐ。


そんな顔できるんなら、アンタだって分かるはず。



「・・・・・・私は絶対にあの時の言葉を許すつもりはないよ。アンタだってその人が同じこと言われたら許せる?」
「っ、それは・・・・・」
「でも陣平がアンタのこと許したなら、これ以上何も言うつもりはないから。だからもういい」


許せない。それでもこれ以上、アンタがそれを引き摺る必要はないから。


「結婚するんでしょ?だったらいつまでも昔のこと引き摺ってないで、さっさと忘れてその相手のことだけ考えてればいいじゃん」
「・・・・・・みょうじさん、」
「もうみょうじじゃないし。てか、他の女の記憶に陣平がいると思うだけで無理!だからさっさと忘れて!分かった?!」


涙目でこくこくと頷く松野さんを見ても、私の胸は痛まない。幸せになってね、なんて言うつもりは更々ない。でも不幸になれとも思わないから。






どこかの正統派の主人公なら、昔のことは水に流して全てを許したんだろう。


だけど俺の選んだ女は、そんな万人に優しい奴じゃねェから。



忘れろ


でもそれはなまえなりの優しさだ。



素直じゃねェのは、お互い様だな。



松野と別れた後、会場に戻ろうとしたなまえの腕を引き人気のない自販機の影にとんっと彼女の背中を押した。



「・・・・・・怒った?」

さっきまでの強気な態度が嘘みたいに、大きな瞳が不安げに揺れる。

何も言わずそんななまえを見下ろす。


「っ、でも絶対あれだけは私許さないからね!陣平が許しても、絶対絶対無理だ・・・・・・っ・・・!?」


不安そうな顔をしたかと思えば、キッと睨みながら顔を上げるなまえ。くるくると変わるその表情。昔から変わらないそれが、俺は好きだと思うから。


言葉を遮るみたいに、強引に唇を重ねればその顔は一気に赤く染まる。


「〜〜っ、?!」
「ははっ、真っ赤。それで会場戻ったら、萩あたりに揶揄われンぞ」
「なっ、陣平のせいじゃん!急にちゅーするから!」



はぁ、何だよ、ちゅーって。
言い方ずるくね?


何年経っても、周りの奴らが言うようにこいつの見た目は変わらないし可愛いと思う。


それでもその見た目以上に、突拍子もない行動だったり今みたいな言葉が俺の中の1番深くを擽るから。


「狙ってやってる?もしかして」
「はぁ?何が?」
「何でもねェよ。適当に挨拶したらそろそろ帰るか。蓮の顔見たくなった」
「蓮の顔だけ?私は?」
「いや、目の前にいるし」


歩き始めた俺に飛び付いてくるなまえ。昔から変わらないその距離に懐かしさが込み上げてくる。


あの頃から何だかんだコイツのこと・・・・・・、




「ねぇ、なんで笑ってんの?」
「別に笑ってねェし」
「笑ってたもん!あ、もしかして他の女見て・・・」
「見てねェよ、バーカ」



きっとあの頃から、お前しか見てなかったんだから。




Fin
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