番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


仕事終わり、珍しく平和な1日だったこともあり定時に帰れることになった。


なまえは大学の頃のツレと飲みに行くって言ってたし、適当になんか食って帰るか。なんて思っていると、同じく帰り支度をしていた佐藤に声をかけられる。


「もう上がり?高木君達とこれから飲みに行くんだけど、松田君もよかったら一緒にどう?」

佐藤と2人ならなまえがギャンギャンうるさそうだけど、高木達もいるならまぁ大丈夫だろう。


特に断る理由もないし、ちょうど飯どうするかって思ってたから丁度いい。


念の為、なまえに飲みに行くことをメッセージで送るとすぐに既読がつく。


『行ってらっしゃい!酔っ払って浮気したら許さないからね』

文末には拳の絵文字がひとつ。続けて送られてきたのは、パンダがくるくると変な踊りをしているスタンプ。イマイチよく分かんねェそのチョイスにふっと笑みがこぼれた。





香織とやって来たのは、彼女が選ぶにしては珍しい大衆居酒屋だった。


時間帯のせいもあるのか、仕事終わりのサラリーマンや大学生で賑わう居酒屋内。私達が通されたのは、奥にある座敷の席。


いつも通りチューハイを頼もうとすると、香織が「生ふたつ!」と注文を済ませてしまう。


「ビール飲んだら酔うってば」
「いいじゃん、明日休みでしょ?」

ジト目で睨んでみても、香織にそんなのは少しも通用しなくて。運ばれてきたのは、キンキンに氷ったジョッキに注がれたビール。


カチン、とジョッキを軽くあてるとお互いにそれを口に運ぶ。ビール独特の苦味。昔ほど嫌いじゃなくなったし、美味しいと思わなくもない。



香織は所謂ザルってやつで、酔ってるところなんてほとんど見たことがない。そんな彼女のペースに合わせて飲んでいたら、もちろん私はベロベロになるわけで・・・・・。



1時間もすれば、私の頭の中はふわふわとした酩酊感で包まれる。






飲み会に参加したのは、俺と佐藤と同じ捜査一課の刑事。高木は少し遅れて参加するらしい。


同年代の集まりということもあり、いつもより砕けた雰囲気の飲み会。自然と酒のペースもはやくなる。



「遅れてすみません!」


しばらくしてやって来たのは、片手に紙袋を持った高木。置いてあった荷物を退けて、佐藤の隣を空けると高木はそこに座る。


メニューのタッチパネルを高木に渡し、適当に注文を済ませる。しばらくするとビールが運ばれてきて、4人で乾杯をして1度途切れた会話が再び始まる。


「てかそれ何?土産?」

隣に座っていた同僚が高木の持ってきた紙袋を指さした。


「あ、これは昼間の張り込みの時に使ってた変装道具です!置いてこようと思ってたんですけど、間違えて持ってきちゃって」
「そういえば今日の昼間の高木君の変装、松田君にそっくりだったわよね」
「まじ?めっちゃ見たいんだけど、それ!」


高木が紙袋から取り出したのは、カツラとサングラス。いい感じに酒の入った同僚の勧めもあり、高木はそれを被る。


天パ風のカツラに、サングラスをした高木は・・・・・・、




「やば、そっくりじゃん!松田もサングラスして並んでみろって」
「ホントこうやって見るとそっくりね」
「そ、そんなことないですよ!僕なんて・・・!」


あわあわと首を振りながら否定する高木。慌ててカツラを外そうとしたけれど、酔っ払った同僚がその腕を掴んで止める。


「なんか高木の中身で見た目が松田っておもしれぇからしばらくそれでいろって♪ 」
「ふふっ、腰が低い松田君なんて中々見れないしね」
「うっせぇ!」


揶揄うような2人の言葉に、ふんっと顔を背けるとそのまま机の上に置いていた煙草を掴んだ。

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