番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ 本編に出てきた香織ちゃん目線のお話になります。苦手な方はご注意ください。



大学生って何かとお酒の絡む場所が好きな生き物だと思う。もちろん私も例外じゃないし、わいわいした雰囲気は好きだ。


誘われたら基本的にメンツが面白そうなら参加するし、つまらなさそうなら断る。今日の飲み会はそれなりに人数も集まるらしくて、講義の合間に友人に誘われ二つ返事で頷いた。



本日最後の講義。隣にはぶすっと不貞腐れた顔のなまえが携帯片手に腰掛る。



「何でそんな機嫌悪いの?松田くんとなんかあった?」

彼女が松田くんを好きだと知ったのは、大学に入ってしばらくした頃。男なんて興味なしみたいななまえだったけど、蓋を開けてみればなんと小学生の頃から彼に片思い中らしくてその純粋さには驚きを隠せなかった。


なにか事情があったらしくて最初こそ彼と距離をとってその気持ちを隠していたようだった。けど何かあの子の中で変化があって、今では口を開けば松田くんの名前ばかり。


その気持ちを少しも隠そうとしないもんだから、それはうちの大学内でも周知の事実となっていた。


なまえは基本的に分かりやすい子だと思う。好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。竹を割ったようなその性格は、一緒にいて楽だし変に気を遣うこともない。だからこそこうして友達として一緒にいられるんだろう。



「お昼ごはん一緒に食べようって松田のこと誘ってるときに、別の女に声掛けられて鬱陶しいって言ったら怒られた」
「松田くんがその子に声掛けられの?」
「は?そんな訳ないじゃん。私の目の前で松田に声掛ける女なんていたら、そんな一言で終わるわけないし」


まぁそれもそうか。
てかそんな自殺行為みたいなことする勇気のある女はいないと思う。


「なまえが声掛けられたってことね」
「そう。そしたら松田がお前も俺に付き纏ってばっかいねェでマトモな友達付き合いしろ≠チて怒られた。結局昼ごはんも萩原とどっか食べに行っちゃったし」
「ははっ、なるほどね。たしかになまえ友達いないもんねぇ」
「別に欲しいなんて思ってないもん。それに友達なら香織がいるし」


相変わらずその表情は不貞腐れたまま。けどこうやって意識せず、ぽつりとこぼす言葉は間違いなくなまえの本音だから。


ホント、こういうとこ素直で可愛いよね、この子。


思わずくすりとこぼれた笑み。なまえは携帯を鞄に入れると、そのまま両手をぺたんと机に投げ出す。


「マトモな友達付き合いって言うけど、松田だって萩原しか友達いないじゃん」
「そう?松田くんってそれなりに飲み会とかも参加してるしアンタよりは友達いるでしょ」
「・・・・・・、」
「そんな目で睨まれても知らないし。てかそれならなまえもそのマトモな友達付き合いしてみようよ」
「・・・・・・面倒くさい・・・」
「いいから!今日の飲み会アンタも参加ね!決定!あ、ちなみに萩原くん来るって言ってたから松田くんも来ると思うよ♪ 」


松田くんの名前を出せば、なまえを操るのなんて朝飯前だ。


ぱっと体を起こしたなまえは、少しの葛藤のあとしぶしぶ頷いてくれて。数ヶ月ぶりの彼女の飲み会参加が決定した。






駅前にある居酒屋。大学生御用達のこの店は、お酒の種類も多いし値段もお手頃。奥の小上がりの席でわいわいと盛り上がる同級生に混じって、先輩の姿もちらほら。


「なまえ、いい?この飲み会の間は松田くんに近付くの禁止ね?あとちゃんと他の奴らにもある程度愛想良くすること!」
「・・・・・・愛想良くって何?睨まないとか?」
「睨まない。無視しない。舌打ちもしない。話しかけられたら笑って答える!」
「・・・・・・・・・はぁ、」

露骨に顔を顰めてため息をつくなまえの腕を引き、耳元に顔を寄せる。


「松田くんにちゃんと人付き合いしてるとこ見せて褒めてもらいたいでしょ?」
「・・・・・・分かった。頑張る」
「よし!まずはその顰めっ面やめて笑う!ほら!」


なまえはそんな私の言葉に、にっこりと100点満点の笑顔を向ける。まぁ目の奥は笑ってないけど。元々の見た目の良さに愛想が加われば、ホントにこの子は無敵だと思う。


女の私から見ても、なまえは群を抜いて可愛いと思うから。



飲み会が始まり、輪の中心にいるのはいつも通り萩原くんだった。The 陽キャ!みたいな人だよね、彼って。


そんな彼から少し離れた場所で、時折笑い混じりに楽しげに男連中と話しているのが松田くん。一方なまえは私の向かいの席で同じ講義を取っている女の子とそれなりに愛想良く話しながらカクテルを飲んでいた。



うん、めちゃくちゃ頑張ってる。なまえは基本的に近寄り難いし、話しかけても機嫌が悪ければ返ってくるのは舌打ちだから。でも今日は割と普通に返事をするから女の子達も自然と寄ってくる。


そんな感じで周りを観察してて気付いたのは、松田くんの視線がちらちらと反対のテーブルにいるなまえに向けられていること。


そう、やっぱりこの2人って・・・・・・そういうことだよね?


なまえから松田くんへの特大矢印は誰が見ても分かる。本人も報われない片思いだって認めているけど、周りでこうして見ているとそうでもない気がしてくるんだ。


どうでもいい人間ならあんな風に気にして見たりしないし、そもそも松田くんの性格ならもっとハッキリと拒絶しそうなものだ。


青春だなぁ、なんて恋愛もののテレビを見ているような気になる2人の恋事情。そりゃ萩原くんが揶揄いたくもなるわけだ。



その時、なまえと話していた女子グループに1個上の男の先輩が近付く。先輩の狙いはもちろんなまえで、どかっと彼女の隣に腰を下ろすとその距離を詰める。



あ、嫌な顔した。
一瞬だけ歪んだなまえの笑顔。それでも言いつけを守っているからか、ギリギリのところで舌打ちは耐えたらしい。


松田くんに視線をやれば、彼も同じように眉間に僅かだけど皺を寄せていて。


「・・・・・・ふっ、」

不意に隣から聞こえた吹き出すような笑い声。視線をそちらに向ければ、いつの間にか輪の中心から外れた萩原くんが松田くんの方を見ながらくすくすと笑っていた。


「面白いでしょ、あの2人」
「うん。なんていうか分かりやすい」
「間違いねぇ。あれで中々くっつかねぇんだから、素直じゃないのも考えもんだな」

私が2人を見ていたことにも気付いていたんだろう。小さく肩を震わせながら、萩原くんは言う。


「それにしても何か今日のなまえ、えらくいい子ぶってんじゃん。どういう心境の変化?」
「あぁ、それは・・・・・・」

昼間の事情を説明すれば、「なるほどな」って萩原くんはまた笑った。


そして一頻り笑い終えた彼は、飲みかけのビールをごくりと飲み干す。


「そういうことなら、もっと面白ぇもん見れそうだな」


やっぱり2人を見る萩原くんはどこまでも楽しそうで。同じくらい優しい顔をしていた。





煙草を吸うためか、席を外した松田くん。戻ってきた頃には、先輩となまえの距離はさっきまでより近くなっていて。(もちろんなまえはギリギリまで体を引いて避けてたけど)


座敷に戻ってくるなり、そんな2人を見た松田くんはやっぱり不機嫌そうだ。



「なまえちゃん、ずっとカクテルばっかだよね。ビールとか飲まないの?」
「苦いの苦手なんで。あとお酒も強くないし」
「えー、めっちゃ可愛いじゃん!酔ったとこ見てみたいし、俺のビール飲んでみる?」


ぐいぐいいくなぁこの先輩。ぴくりとなまえのコメカミに浮かぶ青筋が彼には見えていないらしい。

ビールジョッキ片手に、先輩がなまえの肩に触れる。さすがにこれ以上は、あの子が可哀想だ。てか多分ブチ切れちゃう。


間に入ろうと腰を半分ほど浮かしたその時、なまえの隣の空いていた席に腰掛けたのは松田くんだった。



中途半端に浮いた腰を再び座布団の上に下ろす。ちょうど正面にいた萩原くんと目が合うと、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら松田くん達の方を見とけと言わんばかりにそちらに視線をやる。



「こいつ酔ったらマジで鬱陶しいんでやめといた方がいいっすよ」
「っ、鬱陶しいって何?そんなことないもん!」

会話に割って入った松田くん。禁止令なんてすっかり頭にないであろうなまえは、むっとその言葉に言い返す。


「この前飲みすぎた時やばかっただろ、お前。帰りたくねェって散々ごねた挙句、俺ん家まで勝手についてきたし」
「っ、あれは終電なかったからだもん!それにあの時は・・・っ、」


わーわーと騒ぐ2人。

何だ、これ。痴話喧嘩?


ぽかんと固まる先輩が可哀想にすら思えてきた。



「でもそういうとこも含めてなまえちゃんは可愛いと思うよ!」


お、先輩頑張ってる。
言い合い・・・・・、というかじゃれ合い?をしている2人の会話を遮った先輩。可愛い≠ニいうワードに機嫌をよくしたのか、なまえの顔にぱっと笑顔が戻る。


「ほら?聞いた?私可愛いもん。だから酔っ払ってても鬱陶しくなんかないの!」
「先輩、目悪ぃンじゃないっすか?こいつのどこが可愛いのか分かんねェし。口悪ぃし、我儘だし、いつも無駄にうるせェし・・・・・」
「はぁ?口悪いのは松田も同じじゃん!私の方が絶対マシ!」
「はァ?俺の方がぜってぇマシだわ!」



うん、やっぱりイチャついてるよね?これ。


お互い悪口並べてるくせに、周りで聞いてたらそういうとこも含めて好き≠ニ言ってるようにしか聞こえなくて。



先輩ドンマイ。なんて項垂れた名前も知らない先輩に心から同情した。




────────────────



飲み会が終わる頃には、ふわふわとした酩酊感が脳内を支配する。


「なまえ、大丈夫?タクシー捕まえるから、」
「んー、だいじょーぶ。二次会はぁ?」

私の腕を掴む香織の声。さっき誰かが二次会でカラオケ行くって言ってたような気がする。

覚束無い足元、二次会に向かうらしい集団の方へと足を進めようとするとバン!と頭をなにかで叩かれる。


「っ、痛!」
「おいコラ、酔っ払い。さっさと帰んぞ」

振り返ると不機嫌そうな顔をした松田が、新品のミネラルウォーター片手に私を見下ろす。てかコイツ、今これで私のこと叩いた?

じっと松田を睨む。松田は手に持っていたミネラルウォーターを私の鞄に入れると、そのまま私の腕を引いた。


ふらつく足元で踏ん張ることなんてできないし、支えてくれてた香織がすんなりと手を離したもんだから私の体はぐらりと松田の方へと傾く。


「二次会いくもん!松田が友達付き合いしろって言ったんじゃん!」
「あ゛?そんな酔っ払って行っても周りの奴にメーワクかけるだろ」


何それ。松田があんなこと言ったから頑張ったんじゃん。

苛立った気持ちを隠すことなく睨んでみれば、松田は小さくため息をつきながら前髪を片手で乱す。


「・・・・・・今帰るんだったら送ってく。だから帰んぞ」
「っ、家まで一緒に帰ってくれる?!」
「何回も言わすな。あと3秒以内に動かねェなら・・・」
「帰る!すぐ帰る!!」


ぎゅっと腕に抱きついてみても、その腕は振り払われることはなくて。


呆れたみたいに笑う香織にひらひらと手を振ると、「ご馳走さま〜♪」って手を振り返される。



「何でごちそうさまなんだろ?私奢ってないし」
「知らね。・・・・・・おい、よそ見してっとコケんぞ。あとちゃんと水飲んどけ」

Fin


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