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昔から夏になると心霊モノのテレビ番組が多くなる。おどろおどろしいBGMと共に始まったのは、私が子供の頃から続く毎年お馴染みの心霊番組だった。
別に怖いものが好きってわけじゃないけど、こういう番組ってやってるとついつい見ちゃうよね。
ソファに腰掛けながら、始まったその番組を眺めていると隣に座る陣平が珍しく私の膝に頭を預けて寝転んだ。その手には携帯が握られていて、画面には最近ハマってるらしいアプリゲームの画面。
「テレビ見ないの?」
「心霊とか興味ねェもん。作りもんだろ、そんなの」
「えぇー、それ言ったら面白くないじゃん」
寝転ぶ陣平の頭をそっと撫でてみると、すんなりと受け入れられ自然と頬が緩む。正直、テレビの内容なんてどうでもよくて陣平が可愛いなぁって気持ちが私の頭の中のほとんどを占める。
徐々に進んでいく番組。視聴者からの情報を元に再現ドラマが数本流れるこの番組は、なんていうかあれだよね。音と急にばって出てくるあのお化けの絵面の怖さで成り立ってる気がする。
どっちかって言うとゾンビとか血まみれの海外ホラーの方が苦手な私からすれば、よくできてるなぁって感心する。まぁもちろん急にお化けが出てきたらびっくりはするけど。
そうは言いながらもついつい見入ってしまうのが心霊番組だ。いつの間にか陣平の頭を撫でていた手も止まり、画面に集中してしまう。
『これは、私が大学生の頃の話です。当時のサークルのメンバーと肝試しで近くにある廃病院に行ったのですが・・・、』
「なんでわざわざ自分からそういうとこ行くんだよ、こういう奴らって」
「行かなきゃ話始まらないじゃん」
テレビに見入っていたのは陣平も同じらしい。携帯の画面は暗くなっていて、上を向いていた体はテレビの方へと向いていた。
心霊スポットだという廃病院に忍び込んだらしい投稿者達。真っ暗な廊下、薄気味悪いBGMも相まって手に力が入る。
「なんで廃病院のくせに非常口のライトついてんの?おかしくね?」
「ちょっと陣平うるさい。そんなの言ったら怖いの半減するじゃん!」
「てかこの女さっきから怖いっていうならさっさと車戻れよ。何でこいつらこんな気味悪ぃとこ進んでいくワケ?」
やたらといつもより口数が多い陣平。話すペースも少しだけ早口な気がする。
もしかして・・・・・・、
「陣平、もしかして怖い?」
「・・・・・・っ、別にこんなの怖くねェよ」
怖いんだ。
弱点見つけたり、とばかりにふっと口角が上がる。
返事までの少しの間と、僅かに跳ねた肩が図星だと言わんばかりで。くすくすと笑う私を見て、陣平は思いっきり顔を顰めた。
*
得意か苦手かの二択で聞かれたら、別に得意ではないと思う。てかこんな気持ち悪ぃもん好き好んで見たがる奴のがおかしいだろ。
海外のゾンビ物みてェに、殴り合いでどうにかなりそうなもんは平気だけど日本のこの無駄に煽るみたいな薄気味悪ぃ演出は嫌いだ。
さっきまでテレビに集中していたくせに、ニヤけた顔で俺を見下ろすなまえ。その表情にイラつきつつも、テレビの中では馬鹿な大学生達が霊安室の扉に手をかけるところ。
BGMが変わり、ペタペタと言う足音がそいつらに近付く。
「怖いならチャンネル変える?」
「怖くねェって言ってンだろ」
「ふぅーん♪ じゃあ私お風呂入ってきていい?」
・・・・・・こいつ、せってぇワザとだろ。
悪戯っぽい笑みを浮かべ、立ち上がろうとするなまえ。膝の上の俺の頭を退けようとしたもんだから、咄嗟にその腕を掴む。
「ンなのあとで一緒に入ればいいだろ」
「えぇー、陣平がどうしても一緒に入りたいって言うなら仕方ないなぁ。お願いしますは?♪ 」
「っ、別に俺は・・・!」
『キャーーーーー!!!!!』
テレビから聞こえたクソでかい悲鳴。画面いっぱいに広がる気味の悪い幽霊の顔に思わず体がびくりと跳ねた。
「うわ、びっくりした〜!見た?今のお化け白目剥いてたよね」
「・・・・・・・・・、」
「あれ?陣平?」
頭上から降ってくるなまえの声。体の向きを変え、テレビに背を向けた俺はそのままなまえの腹の方に顔を寄せた。
くすくすと笑う声にムカつくけれど、触れる温もりに安心してる自分がいるのは確かで。そっと髪を梳く感触が心地よくて、早くなっていた心音が徐々に落ち着きを取り戻す。
「・・・・・・・・・なまえ」
「ん?」
「オネガイシマス・・・・・・」
「〜〜っ、陣平が可愛い!」
「・・・・・・うっせぇ、バカ」
────────────────
「無理!絶対無理!嫌!!!」
「無理とか無理。この前俺のこと散々からかったお前が悪い」
数日後、一緒に映画を見ようという話になり陣平が選んだのは最近流行っているゾンビ物の最新作。R-15指定が入るくらいには血まみれのシーンもあるらしくて、この前の心霊番組の何倍もこっちの方が怖い。
怖がる陣平が可愛くて散々からかったあの時の自分を後悔してみてももう遅い。
さすがに映画館で騒ぎ立てるわけにもいかなくて、席に座ると私は陣平の手をぎゅっと握った。
「・・・・・・てかなんでお化け無理なのにゾンビは平気なの?」
「物理的に殴れるもんはヘーキ。お化けは触れねェじゃん」
何、その謎理屈。
ふんっと得意げに語るその理論は1ミリも理解できないけど、繋がれた手を握り返してくれることは嬉しくて。
結局血まみれのシーンはほとんど陣平の肩に顔を埋めていたから、映画の半分も理解できなかったのはまた別の話。
Fin
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