▽ 1-1
久しぶりに香織と休みが被ったとある日のこと。
最近できたっていうオシャレなイタリアンのお店で晩ごはんを食べたあと、何する?って話になり彼女の家で飲み直すことになった。
久しぶりに訪れた香織の家。遊びに来るのは大学ぶりな気がする。
「香織の家来るの久しぶりな気がする」
「なまえがいつも松田くん帰ってくるからってさっさと帰るからじゃん。今日は時間大丈夫なの?」
「うん。仕事終わるの遅いって連絡あったから」
「・・・・・あんた1人で家にいるのが嫌だったからついてきただけでしょ」
プシュッという音と共に缶ビールを開けながら、香織が呆れたみたいに呟く。
私の唯一ともいってもいいくらいの女友達。
香織は私の陣平最優先の性格を知っているし、本気で咎めることはない。今だって言葉には少しの怒気もなくて、むしろ面白かってるような響きすら感じる。
まぁ香織も彼氏(仮)みたいなのがいたときは、私と同じような感じだったし類友ってやつなんだろう。
机の上に並ぶ缶ビールにコンビニのお菓子やつまみ。色気なんて少しもないけど、たまにはこういう時間も悪くないなって思った。
他愛もない話をしながら眺めていたテレビ。ちょうど番組が切り替わり、最近流行りのタレントのトーク番組が流れ始めた。主に恋愛についての話題を取り扱うその番組。時間帯のせいもあり、内容ななかなかに大人なものだったりする。
2缶目の缶ビールを開けたところで、香織に「大丈夫なの?」って聞かれたけど、「ヘーキ。まだよゆう」なんて少しだけ回らない呂律で返事をする。
『やっぱりね、マンネリってダメだと思うんですよ!』
不意にテレビから聞こえてきたそんな言葉に、ふっと視線がそちらに向く。
画面の向こうでは、女性タレントが司会の男性芸人へと何かを熱弁していて。どうやらカップルのマンネリ化についての話題らしい。
『何年も一緒にいると、やっぱりデートもセックスもマンネリ化しがちじゃないですか?そういうのって飽きに繋がるし、それこそ浮気の原因にもなるから絶対に良くないと思うの』
ふわふわと酩酊感に包まれていた頭が、マンネリ∞浮気≠フ言葉に反応する。
「なまえと松田くんって付き合ってどれくらいだっけ?」
「・・・・・・もうちょっとで3年」
「3年目って1番浮気が多いらしいよ?」
「っ、」
テレビから視線を外した香織は、悪戯っぽい笑みを浮かべながら私を見た。
*
なまえは松田くんが絡むと本当に表情がくるくると変わる。
基本的に自分が1番で、どこぞのお姫様か?みたいな性格の彼女だけど松田くんに対してだけはただの女の子になる。
歯に衣着せぬ物言いも私は好きだし、一緒にいて楽だからなまえのことは好きだ。それに最近は、思っているよりからかいがいがあるってことも知った。
今だってそう。
松田くんのことになると、ぽやんとしていたら酔っ払いの顔が一気に青くなる。そういうとこが純粋で可愛いなって思うんだ。
私達がそんなやり取りをしている間に、画面の向こうではマンネリ対策なんてものについてそれぞれの意見が飛び交っていた。
いつも行かないところへデートに行く。家の中でもオシャレをする。髪型や香水を変える。そして・・・、
『やっぱり体の相性って大事だと思うんですよね。いつもワンパターンなセックスだと絶対男の人って飽きちゃうし』
『まぁたしかにねぇ。受け身な女の子も多いしね』
缶ビールを口元に近付けたまま固まるなまえ。最近彼女についてもうひとつ知ったことがある。
それは派手な見た目と周囲の男からの人気に反して、意外とウブだってこと。
最初こそそれを隠してたみたいだけど、松田くんと付き合うようになってから少しずつ色んなことを相談してくるようになったなまえ。
今も縋るみたいに私を振り返った彼女の顔には、不安≠フ2文字が明確に浮かんでいて。めちゃくちゃモテるくせに、対松田くんだとその自信はすぐに揺らぐらしい。
「香織・・・・・・」
「なぁに〜?」
「どうしよう。陣平が浮気なんてしたら私相手の女のこと殺しちゃうかも」
いや、怖い。
目がガチだから本当にやりかねない気すらしてくる。
お酒のせいもあるのか、いつもより感情の振れ幅が大きいなまえ。私の腕を掴むと、1人で百面相を始める。
「飽きられないようにしたらいいだけじゃん、そんなの」
「どうやって?陣平忙しいからデートで遠出なんてなかなか無理だし、オシャレはいつもめちゃくちゃ気をつけてるもん。髪型は陣平がロングがいいって言ってたし・・・、あ!香水変えるとか?」
「ワンパターンなセックス。テレビでも言ってたじゃん」
ニヤりと笑いながらそう言えば、ぴきりと表情が固まるなまえ。彼女がこの手の話題が苦手なことは承知の上だが、反応が可愛くてつい揶揄いたくなる。
ジト目で私を睨んだなまえは、残っていた缶ビールを一気に飲み干した。
「それだけは無理!!!!」
トンっと机に置いた缶からは軽い音がして、部屋にはなまえの声が響いた。
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