番外編 君ありて | ナノ
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▽ 1-1



※ 夢主以外の女の子sideのお話なので苦手な方はご注意ください。


いつも笑顔で、誰にでも優しい。勉強もできるし、スポーツ万能。男女、学年問わず人気のある彼の周りにはいつも誰かがいた。


「「萩原先輩!おはようございます」」
「おはよ!今日もみんな可愛いね」
「「キャー!」」

にっこりと笑いながらそんな台詞をさらりと言うことのできる高校生が、いったいどれくらいいるんだろうか。

真っ赤な顔をして教室へと走っていく一年生の女の子達。可愛いなぁ、なんて思いながら横目でその様子を見ていると、萩原とぱちんと目が合う。


「おはよ」
「・・・おはよ」
「昨日の数学の課題終わった?俺まだ終わってなくてさ」
「数学二限でしょ?写す?」
「まじ?サンキュ!」

百点の笑顔で話しかけてくれる彼にとって、私はただのクラスメイト。他愛もない話をしながら教室へと向かう。これが私と彼の距離。それ以上でも、それ以下でもない。


彼のことを意識し始めたのはいつからだったんだろう。


思い返してみてもはっきりとそれは分からなくて。一年、二年と同じクラスの私達。気が付くと私はいつも彼を目で追っていた。


さっきの子達みたいに素直に好意を示せるわけもなくて、素っ気ない挨拶しかできない自分がつくづく可愛げがないなと思う。


まぁ私が彼に可愛げなんて示したところで意味はないだろう。


だって萩原は・・・・・・、






「研ちゃん!」

教室のドアから彼を呼ぶ声。
この学校で萩原のことをそう呼ぶのはたった一人だけ。


彼女の声を聞いた萩原は、クラスメイトとの話を切り上げ彼女の元へと向かう。


「どした?」
「一限体育だったんだけどジャージの上着だけ忘れちゃって。研ちゃん貸してくれない?」
「あぁ、そういうこと。いいよ、ちょっと待ってろ」
「ありがと!めちゃくちゃ助かる」

ぱぁっと笑顔になるみょうじさんは、女の私から見ても可愛いと思う。男勝りな私とは大違いだ。

席に戻った萩原が机の横にかけてあった鞄からジャージを取り出し、再び彼女の元へと向かう。


「ほら、これでいいのか?」
「うん!ありがと!」
「急がないとホームルーム始まるぞ」
「っ、やば!ホントだ!」

慌てるみょうじさんの頭をくしゃくしゃと撫でて笑う萩原の顔は、どこまでも優しくてそれを見ているとチクリと痛む胸。



そう、彼にとっての“特別”はあの子だけだった。



「うちのクラスも一限体育だよ?」
「ははっ、だな」

隣に座った萩原にそう声をかけると、なんてことのないように笑う彼。

季節は冬。上着なしでは寒いだろうに。


「なまえが風邪ひくと困るから」

彼女の話をする萩原の瞳が柔らかくて、そこに感じる深い愛情。


勝てっこない。

そもそも勝負にすらならない。


皆に平等に優しい彼の、唯一特別な女の子。



私はあの子が嫌いだった。




「寒!!無理、陣平ちゃんあっためて!」
「きめェから離れろ!お前が上着忘れたのが悪い」
「忘れてねぇし。なまえに貸したんだよ」
「だったら尚更知らねぇよ」

よりによって今日の体育は、グラウンドでの持久走。冷たい風が吹く校庭で、半袖一枚の萩原はふざけて隣にいた松田に絡むも足蹴にされている。


貸さなきゃよかったのに。

心の中でそんなことを呟く。


みょうじさんの姿は、グラウンドには見当たらない。おそらく体育館で授業をしているんだろう。

体育教師の号令で集められる私達。ピーっという笛とともに始まる授業。


私の視線は、半袖の彼に向けられていた。




一限終わりのチャイムが響く。いくら走った後とはいえ、季節は冬。汗をかいた体の熱を冷たい風が容赦なく奪っていく。


それは萩原も同じで、少し離れた場所で寒そうに腕を摩っていた。



「研ちゃん!」

そんな彼にパタパタと近付く影。

彼女が着るには大きすぎるジャージを羽織って、萩原へと駆け寄るみょうじさん。


「研ちゃんも一限体育だったの?ごめん、私がジャージ借りちゃったから・・・」
「走ってたら暑かったからちょうどよかったよ」
「嘘つき。寒そうじゃん」
「ははっ、バレた?」

ぎゅっと萩原の腕に抱きつく彼女。そんな彼女を見て笑う萩原。そのまま彼女の肩を抱き寄せる。

チラチラと周りから向けられる視線も彼らが気にする様子はない。


「やっぱりあの二人、付き合ってると思わない?」

隣にいた友人が小声で言う。


「さぁ、知らない」

ただの幼馴染み。いつか萩原に聞いた時、彼はそう答えた。


でもみょうじさんがあの距離で話すのは、萩原だけ。同じ幼馴染みでも松田に抱き着くところなんて見たことがない。


じゃれ合うように楽しげに話しながら校舎へと向かう二人の姿から視線を逸らすことが出来なかった。






ある日の放課後、日誌を書いていた私。向かいの席にはもう一人の日直である萩原が座っていた。


「よし、書けた。あと先生のとこ持ってくだけだね」
「サンキュ、書いてもらったし俺出しとくよ」

ちらりと時計を見た萩原が、鞄を持って立ち上がる。机の上に置いてあったマフラーを首にかけながら、日誌を手に取る。


「みょうじさん、待ってるの?」
「ん?あぁ、さっき下駄箱のとこで待ってるってメッセージきてたからいると思う。あいつに何か用か?」
「ううん。時間気にしてたから待ち合わせかなって思っただけ」
「寒いだろ、下駄箱のところら辺。んなとこで長いこと待たせるの可哀想だなって思って時間気にしてただけだよ」


過保護。でも彼は至って真剣な表情。それ以上何も言えなくて、私も鞄を持って立ち上がる。


その時、教室の後ろのドアが開く。


「っ、萩原君!ちょっとだけいいかな?」

そこには隣のクラスの女子生徒の姿。緊張した面持ちで萩原の名前を呼ぶ彼女。


告白。それしか考えられなかった。

隣の彼がそれに気付かないわけがない。


私は萩原の顔をちらりと盗み見た。


っ、。

無。きっとその言葉がぴったりだろう。

彼の瞳に一瞬だけ宿ったのは、何も写さない真っ黒な何か。


「どうしたの?ちょっと急いでて、ここでもいいかな?」

それは一瞬のことで、いつも通りの優しい彼が彼女に尋ねる。


彼女の視線が私に向けられる。
それもそうだろう。一世一代の告白の場に、私がいてはやりにくいはず。だから彼女は萩原を呼び出そうとしたんだ。


それを“急いでて”の言葉でやんわりと、でもハッキリと断る彼。きっと萩原の頭の中は、下駄箱で待つみょうじさんのことで一杯なんだろう。


「私が先生のとこ行ってくるよ」
「でも、」
「萩原はあの子の話きいてあげなよ」

萩原の手にあった日誌を奪うと、私はそのまま教室を出て職員室へと向かった。



職員室を出て下駄箱に向かう。


「・・・・・・っ・・・、」


下駄箱に背中を預けながら携帯を触るみょうじさんの姿を見つけ、反射的に隠れてしまう。


なんで私が隠れてんの。


無意識の自分の行動に呆れながら、小さく息を吐く。


緩く巻かれた長い髪。すらりと伸びた細い手足。長い睫毛がかかる大きな瞳に、淡いピンクの唇。ただそこに立っているだけで人目を引く。そんな存在が彼女だった。


「なまえ、待たせてごめんな」
「ううん、平気だよ」
「陣平ちゃんは?」
「眠たいから先帰るって」

反対側の廊下からやって来た萩原がみょうじさんに声をかける。

出ていくタイミングを逃した私は、下駄箱の影からそんな二人を見ていた。


「寒くなかったか?」

萩原の手がみょうじさんの頬に触れる。
そしてそのまま自分の首に巻いていたマフラーを外すと、ぐるぐるとみょうじさんの首にそれを巻き付ける。


「研ちゃん寒くないの?」
「俺は平気。帰ろっか」
「うん。そうだ!さっき陣平ちゃんがね・・・」

当たり前のように萩原の腕に自身の腕を絡めながら話し始めるみょうじさん。もちろん萩原がそれを振り払うなんてことはなくて、傍から見れば二人は仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。


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