番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-1


怖いのが苦手な人ほど、心霊番組を見たがるのってなんでなんだろう。かくいう私もその1人なわけで、怖いもの見たさというかなんというか。けれど毎年恒例のその番組が始まって15分ほどが経った今、少し前の自分を心から恨む羽目になる。



ヒロくんは仕事でまだ帰ってこない。それを分かっていて、心霊番組なんて見始めた私は本当に馬鹿だったと思う。


ひとりきりの部屋。リビングのソファの上で、クッションを抱きしめながらテレビをちらりと見る。



『これは私が小学生の頃の出来事です。田舎にある祖父の家に・・・・・、』


抑揚のない女の人の声で始まる再現ドラマ。テレビを消せばいいのに無音になるのはもっと怖い。番組を変えようかなとも思ったけど、見始めた以上続きも気になるこの矛盾。


クッションに顔の下半分を埋めながら、テレビから視線を逸らすことが出来ない。



夕焼けの中で遊ぶ子供達に近付く髪の長い女の人。顔の見えないその姿は気味悪さを煽る。


強く抱き締めているせいで形の歪んだクッション。そろそろバーンってきそう、無理無理、怖い!そんなことを思っていると、背後でガチャっとドアが開いた。






「〜〜っ!!!」
「ただいま・・・、ってなまえ?大丈夫?」


仕事終わり、いつもより早めに終わったこともあってなまえの家へ向かいリビングのドアを開けるとびくりと肩を震わせたなまえが勢いよく振り返る。


その瞳には薄らと涙の膜が滲んでいて、慌てて駆け寄る。


ソファの隣に腰掛けると、クッションを強く抱き締めたなまえが震える声でオレの名前を呼ぶ。


「・・・・・・っ、ヒロくん・・・」
「大丈夫?何があったの?」

ゆっくりとその腕からクッションを抜き取ると、そのままそっと抱き寄せる。


ふるふると力ない腕がテレビを指さす。なまえに気を取られていたせいで、テレビの画面なんて少しも見ていなかった。



『キャーーーーーー!!!!』

小さな子供達に近付く髪の長い白いワンピースの女の人。子供達の悲鳴に、背中に回されていたなまえの腕に力が入る。


そういうことか。
涙の理由が分かり、ほっと安堵する。


昔から怖いの苦手なのに、こういう番組はよく見てたっけ。お互いの家を泊まりあっていた幼い頃。心霊番組を見たせいで寝れなくなったなまえは、よくオレの布団に潜り込んできた。


兄さんが幽霊なんていないってどんなに説明しても、中々信じなくて怖がってたっけ。


その度にオレだって少し怖かったくせに強がって、「大丈夫だよ」って手を握って同じ布団で眠ったんだ。



さすがに今ではお化けを怖いなんて思わないけど、あの頃と同じで目の前で震える小さな女の子を守りたいって気持ちに変わりはなくて。・・・・・・いや、むしろあの頃より今の方が・・・。



そっとなまえの頬に手を当てると、潤んだ瞳と視線が交わる。



「大丈夫だよ」


あの頃と同じセリフ。けどそこに込められた気持ちはあの頃より何倍も大きくて深いものだから。




────────────────



「ねぇ、ヒロくん。今日朝まで一緒にいれる?」

ベッドの中で、胸元に頭を寄せながら小さく呟いたなまえ。遠慮がちなその物言いが可愛くて、思わずくすりと笑みがこぼれる。


今だってまだ怖いのに、オレの仕事のことを考えてくれる姿がいじらしくてたまらなく可愛い。


一緒にいて≠チてたまには我儘を言ってくれてもいいのに、絶対にそれは言わない子だから。


「うん。ずっと一緒にいる。明日も午前中は予定ないから」
「ホント?!じゃあ私明日の朝の講義休もうかな・・・」
「こーら、それはダメ。送っていくから頑張っておいで?」

いじけたみたいに頬を膨らませたなまえの頭をそっと撫でる。しぶしぶだけど頷くその姿は、いつもより幼く見えて。


「なまえ」
「なぁに?」


顔を上げたなまえに、触れるだけの口付けを落とす。なまえはさっきまでのいじけた表情が嘘みたいに、ぱっと笑顔になりぎゅっと抱きついていた。

Fin


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