番外編 カミサマ | ナノ
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▽ 1-1



ある日の風呂上がり、乾かし終わった俺の髪をするすると指で梳くなまえ。


「零、髪伸びたよね」
「あぁ、たしかに。切りに行く時間もなかなかないしな」

たしかに最近目にかかる前髪が鬱陶しい。

ちらちらと視界を遮る前髪をくしゃりとかきあげる。


「あ、そうだ!ちょっと待ってね」

立ち上がったなまえは、洗面所の方へ行くと何かを持って戻ってくる。



「じっとしててね」
「ん」


俺の前に座ったなまえは、手櫛で前髪をまとめるとそのまま持ってきたゴムでそれを結ぶ。


ちらつくものがなくなって、はっきりと開けた視界。


「できたー!すっきりした?」
「あぁ」
「ははっ、てか零ってホント変わらないよね」

俺の顔を覗きながらそう言って笑うなまえ。


そういうこいつも化粧をしていれば大人に見えるが、すっぴんだと昔からあまり変わっていない。


「褒めてるのか?それ」
「もちろん。黙ってたらアラサーには見えないよ。肌も綺麗だし女の敵だ」

わざとらしくため息をつきながら、なまえの指が俺の頬をつつく。



「お前もそんなに変わらないだろ、昔と」
「そんなことないよ。それに私の場合は手間かけてこれだもん」

洗面所に並ぶなまえの化粧品やスキンケア用品を思い出す。女というのは、男が思うよりも大変らしい。


しばらくの間、俺の顔と髪で遊んでいたなまえだったがそれにも飽きたのかぽすりと甘えるように俺の胸に体重を預けてもたれかかる。


「眠い?」
「んーん、まだ眠たくない」

今度は俺がなまえの長い髪を撫でる。

少しだけとろんとした目で胸に擦り寄るなまえ。


そんな仕草はやっぱり昔から変わらない。

でもあの頃それを一番近くで見ていたいのは景で。昔の俺は、この距離でそれを見ることはなかったけれど。


「何考えてるの、今」
「え?」
「ちょっとだけ寂しそうな顔してた」

伸ばされた腕が肩にまわされ、至近距離で視線が交わる。


変なところで鋭い奴。

それだけ長く一緒にいたってことか。



「・・・・・・んっ・・・」

何も言わず近くにあった唇に口付けると、なまえ口から吐息が洩れる。


あの頃は触れることの叶わなかったその体温。


望むことすらしなかったけど、一度手にしてしまうとそれは癖になってしまう。


絡む舌も、背中に回された腕も、見上げる潤んだ瞳も、その全てが大切で自分だけのものにしたくてたまらない。



「・・・ッ・・・零・・・」
「・・・ん?」
「好き」


そんな俺の心の中を見透かすように、なまえは微笑んでくれるから。



俺はまた彼女に溺れてしまう。






前髪を上げた零の顔は、学生の頃からほとんど変わっていなくて。


なんとなく不意に・・・・・・、昔を思い出してしまう。


たぶんそれは零も同じなんだろう。


私に触れる零の手から感じだ一瞬の躊躇。寂しげに揺れたその青い瞳。


私達の“今”には、切っても切り離せない“過去”があるから。


くるりと反転した視界に広がるのは真っ白な天井と私を押し倒す零。やっぱりそこに滲むのは、少しの不安定さ。


ホント、わかりやすい人。


「ねぇ、零」

両手を伸ばし、彼の頬を包むように触れた。


「今の私は零のものだよ」


乗り越えられる過去もあれば、忘れられない・・・・・・忘れちゃいけない思い出もある。


それでも今の私が大切にしたいのは、目の前にいる彼だから。


私がこの手で幸せにしたいのは、零しかいないんだよ。



「大好き」

唇が重なる直前、そっと呟いたその言葉を聞いて零は優しく目を細めて笑っていた。



Fin


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