番外編 もし出会 | ナノ
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▽ 1-2



結局あれやこれやとお店をハシゴして、最後の店を出る頃にはすっかり空は暗くなっていた。


私の家の近くまで送ってくれたベルモット。買い物に付き合って欲しいと言われたのに、彼女が買うのは私の物ばかり。

安くはないものばかりで、何度も断ったが彼女が私の話を聞いてくれるはずもなくて両手いっぱいの紙袋ができあがったのだ。


とりあえず後で零くんに相談しよう。


ひらひらと手を振りながら去っていくベルモットの瞳に、出会った頃の寂しげな揺れはなくて。それに少しだけ安心してる自分がいた。


私は彼女に背を向け、家の方へと足を向ける。


部屋に入ると玄関に零くんの靴があって、慌ててリビングのドアを開けた。


荷物を置きソファに座る彼の隣に腰掛ける。


ベルモットに会ったことを伝えようと、私が口を開くより先に零くんが私の腕を掴んだ。


「零くん?」
「・・・・・・俺といるのに疲れたか?」


色のない瞳で抑揚なく発せられたその言葉。


言葉の意味がすぐに理解できなくてすぐに返事ができなかった私を見て、零くんは嘲笑的な笑みを浮かべた。


「俺といるよりそいつと一緒にいた方がお前は幸せなのか?」


そいつ・・・?
自分で言ってその言葉に傷付いたように笑う零くんが痛々しくて、思わず彼の背中に腕を回した。


「っ、」
「私は零くんといるのが幸せだよ?そんな悲しいこと言わないで・・・?」
「・・・・・・だったら・・・っ、」

腕を掴んでいた零くんの手に力が入る。


虚ろだった瞳がやっと私を捉えてくれた。



「夕方、誰といたんだ・・・?」


苦虫を噛み潰したような顔で、投げかけられたその質問に全てを理解した。


見られてたんだ。ベルモットと一緒にいたところを。


男装していたベルモット。中身が女の人だから、肩を抱かれても振り払うことはしなかった。きっと傍から見れば近すぎるその距離。

それを零くんが見たのなら、勘違いしてもしかたない。


でもあの変装はよく見ればベルモットの面影を残していたし、零くんならそれに気付くはず。


いや、違う。そんなことより今は誤解を解く方が先だ。






我ながらかっこ悪いと思う。

それでもなまえの前だと余裕がなくなるんだ。


あの男と並び歩いていた姿を思い出しながら尋ねると、なまえは俺の頬に触れながら口を開いた。



「仕事終わりにスーパーに行こうとしたら、男装したベルモットに声をかけられたの」
「・・・・・・・・・はぁ?!」
「零くんに連絡しようとしたけど、携帯とられて連絡できなくて。すぐに言えなくてごめんね?」


なまえの口から出た予想していなかった名前に思わず声を上げる。


しゅん、と申し訳なさそうに眉を下げるなまえが嘘を言っているようには見えない。


その時、なまえの携帯が鳴る。


そこに並ぶ数字の羅列は、たった今話題に出ていた人物のもの。



「どういうつもりですか、ベルモット」
『子猫ちゃんに電話したつもりなんだけど、どうして貴方が出るのかしら?』
「質問に答えてください。わざわざ男装してまでなまえに近付いた理由は何ですか?」
『ふふっ、随分と今日は余裕がないのね』


電話の向こうで楽しげに笑うベルモットの姿が目に浮かんだ。


苛立ちを抑えつつ、彼女の返事を待つ。


『子猫ちゃんにも言ったけど気晴らしに買い物に付き合って欲しかっただけ。男装してたのは、なかなか子猫ちゃんに会わせてくれない貴方への嫌がらせ』


嫌がらせ・・・。あの女の考えそうな事だ。

全てベルモットの思うつぼだと思うと、さっきまでの自分の行動の愚かさに呆れてため息がこぼれそうになる。


隣で不安そうな顔で俺を見るなまえ。


・・・・・・少しでも疑った俺が馬鹿だった。なまえが俺を裏切るはずなんかないのに。



「僕の目の届かないところでなまえに絡むのはやめてください」
『あら、じゃあ貴方の目の届く範囲でならいいのかしら?』
「・・・・・・切りますよ。僕も忙しいので」


揶揄うようにそう言った彼女にため息で返すと、そのまま電話を切る。


携帯を机の上に置き、なまえの方に向き直る。



「・・・・・ごめん」

少しでも疑ったこと。勝手に不安になったこと。色んな意味込めた謝罪の言葉。


小さく頭を下げた俺の頭にそっとなまえの手が触れる。


「私の方こそ心配かけてごめんね」
「いや、どう考えても早とちりした俺が・・・」
「私だって零くんが他の女の人と歩いてたら同じこと思うかもしれないもん」


つくづくなまえのことになると余裕がなくなるなと、我ながら思う。

知らない男といるなまえを見るだけで、あんな気持ちになるなんて。



「はい、零くん。今日は私が甘やかす番ってことで」

ふっと目尻を下げて笑うなまえが俺の頭から手を離すと、そのまま両手を広げた。


弱さも、不安も、嫉妬も、何もかも受け止めてくれるその優しさは心地よくて。


ぽんっとその胸に頭を預けた。






素直に甘える彼なんて、出会った頃は想像できなかっただろう。


それだけ私達の距離が近付いたということ。



すっかり夜も更け、真っ暗な闇に包まれる寝室をぼんやりと照らす常夜灯。


大きすぎる零くんのスウェットを着て上半身をベッドのヘッドボードに預ける私を背もたれにするように、すっぽりと腕の中におさまる零くん。


携帯を触る彼の顔はさっきまでの甘さが嘘みたいに真剣で、そのギャップにきゅんと胸が高鳴る。


後ろから彼を抱き締めるような形が新鮮で、自然と笑みがこぼれた。



「ねぇ、零くん」
「ん?」


携帯から視線を外し、そのまま首を私の方に傾げる零くん。


その青い瞳に映る自分の姿。



「私には零くんだけだよ。これから先も、ずっと」


零くんのいない世界なんて考えたくない。


不安になることがあったら、その度にこうして向き合って乗り越えていきたい。


そんな思いを込めて、彼を抱き締めていた腕にそっと力を込めた。


Fin


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