君がいない隣 | ナノ
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▽ 欠けたピース



「別れてください」


数日ぶりに家に帰ると、普段は俺に敬語なんて使ったことのないなまえがかしこまった様子でそう告げた。


部屋を見回すと、所々彼女の荷物が無くなっていることに気付く。

きっと俺が家を空けている間に、最低限の荷物を纏めたんだろう。


そこまでしておきながら勝手に家を出ていくことがなかったのは、律儀というかなんというか・・・・・・、きっとなまえの決意の表れなんだろう。


「聞いてるの?」
「ああ」
「じゃあこれも返すね」


机の上に置かれたのは、俺が彼女にあげたこの家の合鍵だ。

ずっと付けられていたくまのキーホルダーは外されていて、元の無機質な鍵だけが残っている。


「じゃあもう行くね。残ってる荷物は捨ててくれてかまわないから」


なまえはそう言い残すと、俺の返事を待つことなく大きめのトートバッグを手に取り部屋を出ていった。





いつかこんな日がくるだろうとは思っていた。

普通に考えてこんな生活をしている俺と、まともな恋愛なんて出来るわけがない。


それでも俺の毎日は変わらない。


明日になればまたポアロに出勤し、笑顔で客と向き合っているだろう。


学生時代からの付き合いだったなまえ。


確かに隣に彼女がいないのは、どこか違和感を感じるがそれもきっとしばらくすれば慣れるだろう。


付き合ってほしいと言ってきたのも、
一緒に住みたいと言ってきたのも、
全てなまえからだった。


一緒にいて居心地は良かったし、他の女のように面倒臭いことも言わない。

だから今日まで付き合ってこれたんだろう。


それでも彼女を引き止めなかったのは何故なのか・・・・・・。

彼女への愛情があったかと問われると、俺はきっと首を縦に振るだろう。


それでもあそこで引き止めて縋るほどではなかった。


なまえが考えて決めたことならそれに従う。

それが俺の出した答えだ。


「・・・・・・・・・なんだか部屋が広く感じるな」


一人きりになった部屋で、そんな俺の呟きが小さく響いた。

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