再開


身体中が痛い。う、と呻き声を漏らしながら瞳を開く。そこは暗闇だった。自分が目を開いているのか閉じているのかすらわからない、暗黒が広がっていて……

自分は先程まで、確かに外にいたはずなのに、なぜこんなところにいるのか。瞬間、夜に見た夢が一気にフラッシュバックする。そう、ここはその夢の中で見た光景と同じ。
痛みを無視し、彼女は何とか立ち上がる。足元を見れば、波紋のように広がっている地面。
全く同じだった、あの夢と。だから、彼女は歩き出した。

神機もどこかに行ってしまい、今は何も持っていない。通信機も通じないようで、助けになるものは殆どない。あるとすれば……夢の記憶、だろうか。
暫くあるくと……夢の中では黒い靄だったが、それは実体を持った……人間で、しかも……ずっと、会いたかった人物の後姿だった。


「……ジュリ、ウス……?」

「……__!」


その人物__ジュリウスは名前を呼ばれたこと、そしてその声音に驚いたのだろう。緩慢な動作で振り返った彼の表情は驚きに満ちていた。


「ユキ……?何故、ここに……?」

「……ここ、どこなの?ジュリウス……」

「………………ここは……」


その時、何かが低く唸る声が聞こえて、目の前を見る。すると、先程までいなかった大量のアラガミ達が二人に獰猛な瞳を向けていた。そう、これも……夢では実体を持たない、しかも瞳かも妖しかったものが向けられていた光景と、全く同じだった。
そして、一つの答えにたどり着く。


「ま、さか……螺旋の樹……なの?」


そう、あの日、ジュリウスが特異点として残った、あの場所に酷似していて……
まさか自分があの中に再びいるなんて、信じられはしなかった。


「ユキ、神機は?」

「あ……」


今は何も持っていない。それは、目の前のアラガミに対抗する術を持っていない……つまり、死に直面していることを意味していた。
だが、唐突に自分の手に重みが増し慌ててそちらを見てみると……そこには、紛れもない神機が握られていたが、先程まで使っていたのとは異なっており、ロングブレードのアサルト、装甲はシールド……そう、ジュリウスのと酷似していた。


「……大丈夫、私も戦えるよ、ジュリウス」

「……そうか。ユキ」

「なに……?」


彼は近付き、彼女の手を握る。


「状況は分からないが……戦うぞ」

「……うん。今度は、絶対に連れ戻すよ、ジュリウス」

「あぁ……行くぞ、隊長」

「えぇ!」


二人は神機を構え、目の前にいる無数のアラガミを見据えた。


*


「サカキ博士!ユキは!?」

「今、捜索中だよ……しかし、唐突に消えるなんて……」

「……!サカキ博士!『螺旋の樹』に変化が……!」


ヒバリが慌てた様子でサカキ博士へと伝える。その言葉に、サカキ博士以外の人達も集まっていた。


「どうしたんだい!?」

「少しずつですが……崩壊していってます……!」

「どういう、ことだ……?」


ユキがいなくなったのと同時に、『螺旋の樹』に異常が発生している。偶然とは思えない現象に、流石のサカキ博士も冷や汗をかいていた。ブラッドの面々を心配そうな表情を浮かべながら映像を見つめていた。
あの中で、何かあったのだろうか。だとすれば……


「ジュリウスが、あの中にいるんだろ!?」


ギルバートの言葉に皆も頷く。しかしここ数ヶ月は何の変化もなかった、発端がそもそもわかっていないのだ。眼鏡のブリッジを押し上げながら、サカキ博士はジッとモニターを見詰めている。
螺旋の樹は、ボロボロと少しずつだが、確実に崩壊の道を辿っている。しかし、あれは終末捕食を抑えている要のモノ。あれが崩壊するということは__


「まずいなぁ……あれが崩壊すると……」

「……また、終末捕食が行われてしまう……ということですね……?」

「そんなことはどうでもいいよー!今はジュリウスと隊長を……!」


シエルが冷静に分析するが、そんなことはナナにとってはどうでもいいらしく、ジュリウスとユキの事を心配していた。そんな彼女にシエルもそうですね、と呟きながら二人の無事を願う。

その時、大きな揺れが彼等を襲う。


「な、んだっ!?」

「ッ……博士!大きな崩壊が始まります……!」


*


「ぅ……あっ……!」

「……ユキ!」

「っ、大丈夫、やられる、わけにいかないから……!」


左腕を思い切り引き裂かれ、そこから鮮血が滴る。彼女は痛みに表情を歪めながらも、神機を持ち直してアラガミへと突っ込んで行く。そんな彼女を心配しながらもジュリウスもアラガミへと神機を振るう。

次々に沸いてくるアラガミに、何分奮闘したのだろう。それでも減らない、むしろ増える一方にうんざりしながらも戦い続ける。


「……ジュリウス!」

「ユキ!」


あの時、一緒に戦い続けたいといった彼は力を彼女に受け渡した。それができるのなら、"二人分の力でこのアラガミ達を一掃することも可能ではないだろうか"。
それを思いついた彼女はジュリウスに手を伸ばす。それに気付いたのか、彼もアラガミを薙ぎ払い、その手を取る。

瞬間、辺りは真っ白い光に包まれた。暗闇を吹き飛ばし、アラガミを吹き飛ばすほどの、光が溢れ出し、二人を包む。


「……大丈夫か?」

「……うん」


彼は、左手でそっと彼女を抱き留める。


「……おわった……のかな?」

「さぁ、な……今は、何も考えたくない……ユキ」

「ジュリウス……」


今まで、こうしてずっと戦い続けてきたのだろうか。あんな状況で、一人で……ユキは彼の胸に顔を埋め瞳を伏せた。
ずっと会いたかった。できることなら、ずっとこうしていたい。

そう思った矢先のことだ、二人がいる場所が大きく揺れ、床らしきものが崩壊していく。彼はユキをしっかりと抱き締め、ユキも彼に抱き付いた。
この後、どうなるのだろう。だが、このまま一緒に朽ちるのも……いいのかもしれない。

二人は、同時に意識を手放した。

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