帰還


誰かの、温もりを感じる。ゆっくりと浮上してきた意識、彼女は目を覚ます。最初に目に飛び込んできたのは真っ白な天井だった。
ぼんやりとする視界、視線を動かしてここがどこかを把握しようとする。しかし、唐突に聞こえてきた声によって意識はそちらへとシフトする。


「隊長!サカキ博士!隊長が目を覚ました!」

「本当かい?」


聞き覚えがある声、名前……まだ完全には覚醒していない思考でも理解ができた。ここは、メディカルルームだということが。


「ユキ君!私がわかるかい?」

「さ、かき……はか、せ?」

「隊長!アタシは?」

「……ナナ……わたし、どう、して……」


自分の声が酷く枯れていて、驚く。どうして自分はこんなところにいるのだろう、と思考に浸っていると記憶のカケラが浮上してくる。
確か、自分は『螺旋の樹』に何故か飛ばされて、そこで……

彼女は思い出したように目を見開き、尋ねた。


「ジュリウス、は……?」

「……彼も、無事だよ、今さっき目が覚めたばかりだ」

「ほん、と……?」


それが本当なら、今すぐにでも会いたい。だが、身体は言うことを聞いてくれず、指先一つ動かすことは出来なかった。


「あい、たい……」

「もう少し休みたまえ、その後、ゆっくり話すといい」

「……わか、りまし……た」


サカキ博士の言うとおりに、彼女は再び眠ろうとする。彼がいることだけでも嬉しいことだ。会うことも、今後はいくらでも出来る。だから、彼女は意識を、再び沈めた。


*


「……奇跡、としか言いようがないね」

「どうして、隊長は螺旋の樹の内部へと入り込むことができたのでしょうか……?」


シエルの質問に、二人のバイタルを確認しながら、サカキ博士は話し始めた。


「彼女の血の力、そして彼の血の力……それが引き合わせた奇跡の現象……詳しいことは、私もわからない。予兆はあったと思うんだ。ただ……特異点でもない彼女が……何故、あそこにいけたのかは、不明だがね……」


結論から言うと、サカキ博士にも何もわからないのだ。何故、唐突に彼女が螺旋の樹の内部に入り込めたのか、そして特異点として残ったジュリウスをつれてこれたのか、問題は多い。解明できていないものだって沢山ある。
だが、今は二人の生還を喜ぶべきだろう、そう結論付ける。


「シエル君、二人が目を覚ましたらまた私を呼んでくれ」

「はい、わかりました」


そう言い、サカキ博士はメディカルルームを出て行った。その場に残されたシエルは微笑みながら……


「おかえりなさい、ジュリウス、ユキ隊長」

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