せめてこれ以上壊れないように

「ユキ」

「あ、ヴィレさん。お疲れ様です」

「またソロか……アマテラスだったか?」

「はい。少しきつかったですけど、問題なかったです」


アナグラへ帰還すると、丁度彼女、ユキも任務が終わったのか出撃ゲートを潜ってきていた。
ニコリ、と微笑む彼女に、少しの恐怖を感じた。だけど表に出さずにヴィレはそうか、と肩を叩きながらラウンジへと促す。
任務後は放っておくとご飯すら食べないからだ。それは自分にも言えることなのだが周りから心配されるためにこうして二人で行くことが多くなった。

ラウンジに人の気配はあまりなかった。ムツミがこちらをみつけると笑顔を振りまいてくれた。


「おかえりなさい!二人とも!」

「あぁ、ただいま」

「ただいま、ムツミちゃん」


決まって、二人は窓があり、かつ「螺旋の樹」が見える場所の席に座っている。彼女がそうしたいと言ったからだ。
あそこに……__


「ねぇ、ヴィレさん」

「どうした?」


ムツミが作ってくれた料理を食べながら、ユキは比較的穏やかな声音で紡ぐ。


「たまに、夢を見るの」

「夢か……?」

「そう。真っ暗で、何にもないの。走っても走っても、何もない……まるで、あの人が消えて行った先みたいに……真っ暗」


彼女の表情を窺ってみると、薄く笑っていた。


「でも、……ジュリウスは戦ってるんだよね。私も、負けないように戦わないといけないよね?」

「……あぁ、そうだな」


なにが、彼女の心の支えになっているのかは、正直わからない。でもこうして少しでも正気を保ってくれているならそれでいい。それ以上崩壊しないようにするのが、自分の役目だ。そう考えている。
ブラッドの仲間達も、極東支部のみんな、クレイドルの人達も、全員優しい。根本的な理由こそ知らないが異変は感じ取っているだろうから。


「……眠くなってきちゃった……」

「何時間任務に行ってた?」

「わからない……数時間かな?ごめん、先戻るね……おやすみ」

「あぁ、ゆっくり休むといい」


料理を残して、ムツミに謝罪もしてユキは自室へと戻っていった。
残された料理にヴィレは手を伸ばしそれも平らげていく。

(俺が少しでも支えになってくれてると、嬉しいがな)

彼女が壊れないように。
そして、自分自身も崩れないように__



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