指導

重心を落とし、神機を構える。わずかに重みを増した神機、それ故に力加減も変わってくる。


「もっと力を抜け」

「はいっ……」

「そこまで柄を長く持つ必要なない。それでは刀身に身体を持ってかれる」

「っ……はい」


彼女はじんわりと湿ってきた手を無視して、神機の柄を持ち直す。目の前には訓練用のダミーアラガミがぐるる、と唸り攻撃を待っている。
そして隣には、隊長のジュリウス・ヴィスコンティ。


「軽く、振ってみろ」

「はい……」


今までショートブレードしか使ってこなかった彼女がなぜ今更、ロングブレードなどに手を出しているか。敵に見合った武器を選択できるように、戦術の幅を広げたい……それはただの言い訳。
本心は、彼と同じ武器を使ってみたかった。それだけである。

だが、そんな簡単に使いこなせるはずもなく。いつもなら片手で神機を振るっておりその身軽さ故に被弾率を下げていたところもある。だが、ロングブレードは思ってのほか重く、両手で構えなくてはいけない。しかも刀身も長く今でさえ床についてしまうのではないかとひやひやしている。もし戦っている最中にブレードが床に突き刺さって身動き取れません、なんて笑い話にもならない。

まずは基本動作、横に薙ぎ払ってみると、言われたとおりに刀身の重みによって生み出された遠心力によって身体がぐらついた。


「ッ……」

「そんなに力むな。もっとゆっくり振ってみろ」

「はい!」


もう一度、今度は遅く、腕に無駄な力を入れないように注意して振るってみる。


「そうだ、その調子だ」

「あ、あの、隊長」

「なんだ?」

「えっと、少し、お手本……というか、実際にやっているところを、見てみたいのですが……」


戦闘中に人の細かい動きなどを見ている余裕はない。もちろん、連携を取るためにそれなりに仲間の動きを把握することは大切だが今日は訳が違う。ユキは申し訳なさそうにお願いしてみると、ジュリウスは快く承諾してくれ、ダミーアラガミへと駆け出した。

踏み込んで、距離を縮めながら横へ薙ぎ払い、その勢いを殺さずに下から上へとブレードを振るう。更に身体の向きを変え通り過ぎる瞬間に斬撃を浴びさせる。
改めて、無駄のない動きだと実感する。


「こんな感じ、だな。どうだ?」

「やって、みます……」


彼女はまだ不安が残るのを無視して、もう一体のダミーアラガミへと一歩を踏み出す。瞬間に速度をつけて距離を縮めブレードを、ジュリウスがやったとおりに薙ぎ払う。遠心力に身体が持っていかれるのを堪え、反転して上から振り下ろし、くっと手を瞬時に持ち替えブレードを振り上げる。


「……どう、ですか?隊長」

「初めてにしては上出来だ。まだ余計な力が入っているがな」

「あ、ありがとうございます!」

「暫くはこれで練習するといい。俺も時間があれば付き合おう」


ジュリウスは近付き、彼女の肩を叩く。思ってもいなかった言葉に、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべた。


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