「やっと姿を現したな…」

パキパキ。乾いた音の元凶を探すと、先生の手がひび割れに行き着く。そこから、なにやら黒い霧のようなものが溢れだしている。

《こうなったら、お前ら全員この世界に閉じこめてやる!!》

「それは叶わないよ。…お前は今ここで消えるんだ」

ばっと走り出した先生。病魔に向かって大きく手を振りかざし、まがまがしい病魔を吸い取り始めた。

《グオオオアア!!》

「…!!!」

やがては全てが吸い取られ、今の出来事が嘘だったかのように、辺りは静けさを取り戻す。

「咀嚼完了」

藤くんも私も、ただ呆然としていた。城野宮さんは病魔が出た反動で気を失っている。そんな中で口を開いたのは、なにか、いつもとは雰囲気の違う先生だった。(髪の色が、黒くなっていたような…?)

「さあ、君たちも元の世界へ帰るときだ」

「え?」

その瞬間、景色がぐにゃりと曲がった。まるで、ここに来る前と同じように。

「君たちは、って、アンタはどうするんだ!?」

藤くんが必死に叫ぶと、先生はにこりと笑う。

「僕は城野宮さんが作り出したこの世界の一部だからね。操られたクラスメイトたちと同じだよ」

「!!」

「彼女がこの世界に僕という存在を作っていたから良かった」

もし"ハデス先生"という存在が、私達の世界と同じように作られていなければ危なかった。そういうことなのだろうか。

「あ……」

視界が、意識が、薄れていく。例え作られたハデス先生だったとしても、お礼を、言わなくちゃ…。

「先生、ありがとう」

朦朧とした意識の中で、世界が消えゆくのを感じた。



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