私は彼女のいる方へ、歩を進める。泣きそうになりながら、柵を握りしめている彼女の元へ。 「伊織、ちゃん」 「あなたが悪いのよ…っ!せっかく、藤くんと二人きりの世界にいけるはずだったのに、あなたがどうして」 「ごめんね」 彼女の、潤んだ瞳が私を捕らえた。 「ごめんね、伊織ちゃん」 彼女は、私と同じなんだ。嘗て、私も、利己的な理由で藤くんを都合の良い世界に連れ込んだ。自分のことで必死で、駄目なことだなんて、全然気づかなかった。 「分かるよ、伊織ちゃん。私も、伊織ちゃんと一緒だから」 「……来ないでよ…」 雨が降ってきた。 「嫉妬してしまうのも、独占したいと思うのも、みんなそうなんだよ。ただ、伊織ちゃんのように行動を起こさないだけで」 きっと彼女は誰よりも不器用なのだろう。独占することでしか、捕まえられないと思ってしまう。 「帰ろう。帰ろうよ、伊織ちゃん」 沢山の雨によってびしょ濡れになった彼女の手を、ぎゅっと握る。そのとき、低い叫び声とも言えるような声が空気を裂いた。 前 次 表紙へ |