◆ 「……っ!」 女子トイレから帰ってきて見たもの。それはグチャグチャになった私の教科書と、ビリビリに破られた私の体操服だった。 「うそ…」 余りのショックに涙すら出ない。只、心臓がすごく痛い。息が、上手く、出来ない。(苦しい…)誰が、こんなことを。…そんなのは決まってるのに。隣の席で、クスクスと笑う女の子がいるんだから。 「どうして…、どうして、こんなことが平気で出来るの…!?」 それが私の口から出た精一杯の言葉。それでも、城野宮さんには届かない。 「なに、私を疑ってるの? ひどいわね」 「ひどいのはどっちよ…!」 溢れてきた涙に構わず、手をぎゅっと握りしめながら私は城野宮さんに近づいた。クラスメイトは何も聞こえていないかのように、お喋りを続けている。 「次は体育よ。急がないと遅れちゃうわ」 城野宮さんはそれだけ言うとパタパタと教室を出た。それにつられて人は次々に外へ出ていき、もう誰もいない。破られた体操服を拾い、ぎゅっと抱きしめると。私は嗚咽を堪えながら静かに泣いた。 「うっ、ひ……」 「花巻…!」 「…!」 遅れて教室に入ってきた藤くん。(こんなところ、見られたくなかった…)私は慌てて涙を拭い、散らばる教科書を拾う。 「あいつに、やられたのか…」 「……ち、違う、よ」 「…すまん」 そう言って、悔しそうに顔をしかめる藤くん。(藤くんのせいじゃ、ないのに) 「次の体育、これ使え」 「えっ…?」 ずいっと差し出されたのは、正真正銘、藤くんの体操服だ。 「だっ、だめだよ!藤くんも次体育でしょう?」 「俺はさぼれるから。花巻は内申大事なんだろ?」 有無を言わさず手渡された体操服が、なぜか暖かく感じた。人の優しさに触れるのは、ずいぶん久しぶりな気がする。 「あり、がとう」 「花巻にはもう手出しできないように、俺は見張っとくよ」 それはつまり。(見守ってくれるってこと…!?) 「っ」 赤くなった顔を隠すように、私は教室を走って出ていった。藤くんの体操服、汚さないようにしなきゃ…。 前 次 表紙へ |