「藤くんの話を聞く限り、君たちは城野宮さんによって作られた擬似世界に取り込まれている。彼女の手の届く範囲は、なんでも思い通りになるっていう、都合のいい世界にね」

「……!」

「それにはやっぱり病魔が関わってるわけだけど…」

「ちょっと待て」

先生の話の腰を折って、藤くんが口を挟む。

「その思い通りになる世界で、なんでアンタは普通なんだ?」

クラスメイトも、そして教師までもが、彼女の味方だったのに。
 
「僕は、特別だから、ね…」

何かを暗に示したその物言いに、私と藤くんは一瞬身をすくめた。病魔を喰らう先生は、やはり普通の人じゃないのかな。

「とりあえず、この世界でまともな人間は僕と藤くん、そして…花巻さんだけだ」

ごくり、と喉が鳴る。

「いいかい。ここにいる三人以外なんびとたりとも信用してはいけないよ」

「…なんだ、それ」

藤くんは大きなため息を吐いた。私も予期していない自分の状況に正直頭がついていけない。

「彼女の目的は藤くんだ。憑いている病魔は"従順"。きみを手中に収めたいという願望に付け込まれたんだろうね」

藤くんはあらかさまに引いた顔をしていた。

「でもなぜ花巻さんまでも連れてきたのだろう」

ふむ…と考え込む先生につられ、私も考えてみた。そして、あの暗闇での出来事を思い出す。

「あ…、確か、あの、ここへくるとき、余分なのが一人とか言われたような…」



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