それはそれは、暗い夜だったと思う。時刻も遅い上に、黒い雲で月が隠れてしまい、灯りといえば道に転々とある外灯くらいだった。そんな道を、ベルはスタスタと歩いている。任務は時と場所を選ぶほど空気を読むものじゃないため、生活リズムなんて狂いっぱなしなのだった。

「あ"〜、おさまらねぇ」

自分の血を見た後だからか、ベルの興奮は冷めきれずにいた。雨でも降って血を洗い流してくれていたら、きっともう少しましだっだろう。と、自制心がおぼつかないまま前を見ると、華やかな女の子が立っていた。同じように瞳を前髪で隠している、桃色のドレスを着た女の子。

「ししし…運が悪かったな。お前もう死んだ」

ベルは興奮のはけ口を少女に向けようと、ナイフを取り出す。

「……………」

「なんだ、びびらねぇの?」

マフィア関係者か、と疑ったのも束の間。少女の前髪から一瞬間だけ瞳が見えた。とても綺麗で深い瞳。ハートを射抜かれるとはこういうことなのかと、ベルは自問自答する。

「うっ」

ベルは少女の足下に倒れた。先程の任務で負った傷から血が流れ出す。少女はすっとしゃがんで、所持していたレースを包帯代わりに処置する。心優しい、少女だと分かった。

「…お前、名前は?」

「………………パンテーラ」

初めて耳にする少女の声は、声優かというほどに可愛らしい。

「しししっ、俺動けそうにないから、パンテーラの家で寝かせてくれない?」


:: 切り裂きジャックの陰謀


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