俺を叱る先生が好きだった。先生って呼ぶのが嫌になるような すき だった。俺はあえて彼女を名前で呼んだ。そして期待通りに叱ってくれた。
すきだった。

美徳ちゃんが すきだった。



「俺、嘘つきな人が好きなんだ」
「だから美徳ちゃんも大好き」
「美徳ちゃんがだいすき」
そういう俺を哀しい目でみつめてくる。同情?慈愛?一体その目の色はなんなんだろうな。
じわりと背中に汗が湿る。むしむしと暑い季節は、少し前の幼い俺はすきだった。俺は大人になっていた。美徳ちゃんを美徳ちゃんと名前で呼ぶままで、すきなままで、大人になっていた。彼女と同じ、社会人だった。気がつけば。

「安田くんはきっと私をすきだとおもっている自分のことがすきなのよ」
「あまり大人をからかってはいけません」
「その すき が、うそでしょ?」
ほんとに昔からわからずや。
俺、美徳ちゃんをすきな自分を殺したいぐらいに嫌いだし。俺もう大人だし。この気持ちが嘘なら、俺の存在も嘘だし。こんなかっこいいことも言えるようになったよ。馬鹿な俺という存在は美徳ちゃんに叱られたかったからついた嘘だとしたら、そうだとしたらどうやって俺を哀しんでくれる?慈しんでくれる?愛してくれる?

「ウソだよ。」

だって俺は嘘つき。この言葉が嘘だって、美徳ちゃんはきっとおもわない。それ程度の価値の人間なんだ、俺は。

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