指先事故



ふ、とある事に気が付いて全神経がその発見に集中したため、調理実習で洗っていた皿は盛大に割れた。

私、なんだかんだで藤くんに名前を覚えてもらって、合宿では二人ペアになって…。す、すごく、幸福者だわ。懸命に追い回してる女の子ですら、藤くんとまともに会話をしたことがなかったりするのに…!

「あ、あわ…」

そのうち女の子たちに目をつけられてしまうんじゃないだろうか。想像しただけで心臓が壊れそうだ。ばくばくばく。私、常日頃から心臓に負担をかけすぎている気がする。

「花巻さん、皿を片付けなさい!」

何度も言ったのか、先生の声は少し疲れていた。ぼうっと藤くんのことを考えていた私は、酷くだらしない顔だったに違いない。慌てて皿を片付けるも、またすぐに藤くんとの思い出劇場が再開され、私の手は止まっていた。

「花巻さん!」

「うぁっ、はい!すみません!…って、痛っ…!」

びくりと肩が上がった衝撃により、欠けた皿で指先を切ってしまった。赤い血がぷくりと滲み出したのを見て、ついに先生が皿の片付けを交代し、私は保健室へと誘われる。

私、なにやってるんだろう。一人で妄想に耽って指を怪我して、情けないったら。

「ハデス先生ー…」

ゆっくりと扉を開くも、そこにハデス先生の姿はなかった。代わりに、いつも先生が座っている場所に、白衣を着た藤くんの後ろ姿がある。

…私、頭でも打ったんだろうか。妄想と現実の区別までつかなくなったのかな。いや、違う。た、確かに、正真正銘の藤くんだ!

「えっ、えええっ、ええええええ!!!!」

「うわっ!?びっくりした!花巻?」

「ななななっ、なな、なんっ、どうしてっ」

「落ち着けよ。話せば長いんだ。まあ色々あって、ちょっとの間ここで働いてんの。それより…」

藤くんは私の指先を見て、顔をしかめた。

「また怪我したのか」

「は、はい……」

「どれ。つばつけときゃ治るだろ」

「えっ!!?」

抗う暇なんてない。何が起こったのかを理解する暇もなかった。一瞬の間に、私の指は、藤くんの口内へ入っていた。ばくばくばく。私の心臓は、もうこれ以上の刺激に耐えきれません。藤くんは私を殺すつもりなのでしょうか。
かくして私は意識を手放すと、藤くんの手を煩わせる患者と化した。

「おいおい、また意識飛んじまったのかよ。…まあ、授業に戻られるよりは、…いい、か」

夢のなかで、髪をふわふわと撫でられる感覚がした。


-- ▽ --


「失踪」透子さんへ相互記念にお贈り致します。こんなベッタベタな展開の小説を押し付けてしまいすみません…。これからもよろしくお願いします!

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -