「はっ、くだらねぇ」

俺は少しいつもと違う行動に出てみた。
いつもなら早食いで決着をつけるところだが、そんなこと毎回やるほど俺は子供じゃねぇんだ。

「オヤジ、A定」

「あれ、今日はいつものやらないの」

「そんなガキみてぇなこと毎回やるかよ」

食堂のオヤジは俺の言葉を聞くと一度ギャモンの方を見やりそれから苦笑してカウンターの奥へ入って言った。
ギャモンの方を見るとなんとも面白くなさそうな顔して不貞腐れるように立っていた。なんだよ、もしかして実は毎回楽しみにしてたのかよこいつ。拗ねるとか反則だろ。

「もしかしてお前やりたかった?」

「べ、べっつに!俺様は、ただ……毎回お子さまなバカイトに付き合ってやっただけだっつーの」

口だけはそんなことを言ってるが、誰が見たってどっちが子供じみてるかなんてのは明白だ。ほんと、分かりやすくってからかい甲斐があるぜ。

「ほい、A定お待ち」

オヤジがカウンターにトレイを乗せる。

「お、さんきゅー……あ」

そして俺がそれを受け取った時だ。俺は驚愕に目を剥いた。
Aランチ、生徒たちはAランチ、又はA定と呼ぶ。Bランチと共に人気を二分する食堂の定番日替わりメニューだ。そんなA定の、今日のメインは。

「ねぎ焼き……だと……」

その場から動けず固まった。馬鹿だ、何故メニューを確認しなかったんだ俺は。
俺が愕然としてねぎ焼きを見つめていると今まで機嫌を損ねていたギャモンが横から俺のトレイを覗き込んだ。

「ぶ、てめぇねぎ焼きなんざ食えんのかよ!メニュー見て注文したんだよなぁ、敢えて頼んだんだよなぁAランチ!」

メニュー見てたら絶対頼むわけないだろ。
ギャモンは恐らく分かって言っているのだ、仕返しのつもりか。

「どうしたカイト浮かねぇ顔して。まさか食えねぇのかねぎ焼き!あーあーかわいそーに、あ、そーだ俺が食わしてやろうか!?」

ねぎ焼きという事実に衝撃を受けている俺がよほど面白いのかギャモンが生き生きと俺をからかってくる。それがどうにも悔しい。
だから俺は二度目の反撃に出る。

「だったら食わせろよ」

「………え?」

俺はきっぱりと言い放った。これには予想外だったのかギャモンが表情を無くし唖然とする。

「お前が、俺に、責任持って、最後まで!」

「え、や、カイトくん?目が、目が据わってますけど!?」

「お前自分で言ったよな?食わしてやろうかって」

「や、待て、てめぇねぎ焼き食えんのかよ」

何だか変なことになったと思っているのかギャモンが慌て始めた。こういう時のこいつは扱いやすいから俺は内心ほくそ笑んだ。

「お前が食わしてくれたら食えるさ」

「は!?え、まじかよお前、あ、ちょっと、」

「ほら、言い出した奴が今さら嫌だなんて言い出すなよ?」

そうして薄く笑いながらギャモンを引き連れ天才テラスへ向かう。狼狽えているギャモンの顔がなんとも可笑しい。
嫌いな食べ物を残さず平らげるというのはなかなか大変だったが、異様に恥ずかしがりながら一口ずつ箸で俺にねぎ焼きを食わせるギャモンの姿というのはこれまたなかなか貴重で、たまになら嫌いな食い物だって食ってみるべきだなと思った。





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