扉が少しだけ開いている。俺はそこに手をかけて扉を開ける。しかし室内には誰もいなかった。どうしたものか、と考えつつ俺はとりあえず空いているベッドのうちの一つにギャモンを寝かせた。まあ、寝かせたというよりも重くて仕方がなかったから放った、という方が正しいかもしれない。
ベッドの脇にあった椅子に腰掛けた時、ギャモンが身じろいだ。
それからふっと目蓋が開いていく。

「……あー……ここは…」

「おい、大丈夫かよ」

「お、カイト。何でてめぇが…って、いってぇ!!」

意識が戻ったギャモンが俺を認識し起き上がろうとする。しかしぶつけた所が痛むらしく急に頭を押さえてシーツに沈んだ。

「無茶すんなよ、階段から落ちたんだから」

「げ、まじかよ……覚えてねぇな」

ギャモンは軽く言うと保健室のベッドで、まるで自室にでもいるかのようにごろごろと寛ぎ始めた。にしても保健室とこいつは相容れないようだ、似合わない、というか場にそぐわない感じがする。

「お前と保健室ってこうも似合わないもんなんだな」

「はあ?なんだそれ」

「どう頑張っても仮病使って寝に来た不良だよな」

清潔な白に割り込む黒と赤は相当浮いている。

「俺は今はれっきとした怪我人だぜ」

「それが怪我人の態度か」

笑いながら話すギャモンをよそに俺は席を立った。
保険医はいないから適当に棚やらを漁る。冷蔵庫を開けると氷袋があったから適当に氷を詰め込んでギャモンに投げた。

「いって」

「一応当てとけ」

怪我はまあ、事実だ。
後で大事になりでもしたら確実に嫌な思いをするのは自分だ。

「少しは怪我人らしく見えるかも」

「めんどくせぇ、こんなもん」

「ふざけんなよちゃんとしとけよ」

「別にいらねぇって」

「いるだろ念のためだよ」

「何だよ大丈夫だっつってんだろ」

「だから念のために当てとけって言ってるんだよ!」

「いらねぇんだよ、どこの母親だ!」

保健室で醜い口喧嘩、もし保険医が戻ってきたらこっぴどく叱られるだろう。
止まない喧嘩はしばらく続いた。よくもまあ途切れないもんだ。
しかし突然俺たちは同時に閉口した。
ギャモンが口をつぐんで起き上がったからだ。

「な、おい」

俺は慌てて声を掛ける。うっとおしそうにギャモンが手を振った。

「あーあー、余計なことすんな。もう平気だ…って!?」

「あ、お、お、おいばか、うわっ」

平気じゃないだろ、と言おうとしたところで案の定ギャモンの身体が崩れた。とっさに支えようとしたのだが当然のごとく俺が奴の身体を支えきれる訳がない。
2人して固い床に倒れ込む。

「うえ…気持ち悪……」

ギャモンが後頭部を押さえつつ言う。
しかし俺はそれを心配している場合じゃなかった。
近い。
いや、つーか近い以前に触れ合ってるし。
これは誰がどう見ても美味しい、いや危うい状況だ。

「……おい…ギャモン……」

俺が呼び掛けると至近距離で目が合った。
どうする。いや、どうすりゃいいんだ。





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