僕は彼の書類に今一度目を向けた。

「あ」

すると、見付けてしまった。僕が書類を見ているとギャモンくんもその視線を追う。

「なんすか」

「ここ、間違ってるよ」

僕はある一点を指差した。そして間違いを指摘するとギャモンくんの顔がみるみるうちに険しくなっていった。

「これは、こう書いてね」

さらりと訂正して書き直す。それからまたギャモンくんの顔を見ると、彼は何故か唇を噛み締めていた。え、なに、まさか怒ってる?もしかしなくても怒ってる?
内心冷や汗を流しながら彼を見守っていたのだけれど、すると突然ギャモンくんは勢いよく顔を上げた。

「……ど、どうしたんだい」

平静を装って僕が尋ねた。すると彼は先ほどとは一辺して煮え切らない態度で口を動かした。そして。

「あの……あの、あ、ありがとうございます」

………………。
……………………。
え。
え、それだけ!?
いや待って、もしかして態度がおかしかったのはそれを言おうとしてってことなのかな。なにそれ可愛いんですけど。
というかギャモンくんに素直にお礼言われたのって始めてなんじゃないか。

「……ど、どういたしまして」

僕は嬉しさの前になんだか戸惑ってしまってうまく返せずにそれだけ答えた。するとギャモンくんは何故か愕然とした表情でこちらを見た。

「え、何」

「なんだよ!いつもならバカみたいに喜ぶくせに!何もしてなくても変なことしやがるくせに!!気まずくなっちまったじゃねーか!!」

気まずい、と言うよりもギャモンくん自身はどうやら恥ずかしがっているように見えるけれども。
だが注目すべきところはそこじゃない。今の発言の中身だ。

「それって変なことしてほしいってこと?」

「ばばばばば、ばっか、ちげぇよ!!何でそんなことになんだよ!!」

僕の言葉でギャモンくんの羞恥は最高潮に達したらしい。もう髪と肌の色がおんなじになっちゃうんじゃないかってくらい真っ赤。ごめん、普通に恥じらってるギャモンくんも可愛いけどやっぱり僕はこういうのの方が好みだ。

「別に意識してたわけじゃないんだけど、ギャモンくんがそこまで言うならいつもの僕に戻ろうかな」

「……いやいやいや!一っ言も言ってねぇっすから!!結構です!!さようなら!!」

「あれれ?まだ書類残ってるって言うのに帰っちゃうのー?」

楽しくなってきた僕とは対照的にヤバいと瞬時に悟ったギャモンくんは物凄い速さで逃げ出した。だがしかし、誘われた後に黙って逃がす僕でもない。

「鬼ごっこかぁ、懐かしいなぁ」

この瞬間、ギャモンくんにとっては一世一代の大勝負である鬼ごっこが始まったのだった。





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